第12話

12話 大丈夫な方法
5
2026/04/04 12:00 更新
診察室の前に立つ。

少しだけ、足が重い。

またあれが起きたらどうしよう。

そんな不安が、ずっと頭の中に残っている。

扉を開ける。
慧
こんにちは、あなたさん
慧の声は、いつもと同じ。

それだけで、少しだけ力が抜ける。

椅子に座る。

手をぎゅっと握る。
慧
今日は、どうでしたか?
聞かれて、少し迷う。

でも、今日は――

言わなきゃ、と思った。
(なまえ)
あなた
……この前、
ゆっくり口を開く。
(なまえ)
あなた
……急に、息ができなくなって
思い出すだけで、少し苦しくなる。
(なまえ)
あなた
……すごく、怖くて
声が小さくなる。

慧は静かにうなずいた。
慧
それは、とても怖かったですね
すぐに否定しない。

ちゃんと受け止めてくれる声。
慧
お話を聞く限り、パニック発作のような状態だったかもしれません
落ち着いた説明。

難しい言い方じゃない。
慧
びっくりしますよね。急に苦しくなりますし、どうしていいかわからなくなりますよね
その言葉に、小さくうなずく。

まさに、その通りだった。
慧
でも、
慧の声が少しだけやわらかくなる。
慧
命に関わるものではないので、そこは安心してくださいね
その一言で、少しだけ胸が軽くなる。

怖かった理由のひとつが、少しだけほどけた気がした。
慧
もしまた起きたときは、
ゆっくり続ける。
慧
呼吸をゆっくりにすることを意識してみてください
あなたの方を見ながら、やさしく言う。
慧
無理に大きく吸おうとしなくて大丈夫です。吐くことを意識して、ゆっくり
(なまえ)
あなた
……吐く?
小さく聞き返す。
慧
はい。ゆっくり息を吐いて、そのあと自然に吸う、という感じです
落ち着いた声。
慧
それだけでも、少しずつ体が落ち着いてきます
少しだけ想像してみる。

あの苦しい中で、それができるかはわからない。

でも――
(なまえ)
あなた
……やってみます
そう言うと、慧はやわらかくうなずいた。
慧
できる範囲で大丈夫ですよ
無理をさせない言葉。
慧
一人で抱えなくていいですからね
その一言に、少しだけ胸があたたかくなる。

怖さは、まだある。

でも――

どうすればいいのか、少しだけわかった。

それだけで、少しだけ違う気がした。

診察室を出るとき、

来たときより、ほんの少しだけ足が軽くなっていた。

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