診察室の前に立つ。
少しだけ、足が重い。
またあれが起きたらどうしよう。
そんな不安が、ずっと頭の中に残っている。
扉を開ける。
慧の声は、いつもと同じ。
それだけで、少しだけ力が抜ける。
椅子に座る。
手をぎゅっと握る。
聞かれて、少し迷う。
でも、今日は――
言わなきゃ、と思った。
ゆっくり口を開く。
思い出すだけで、少し苦しくなる。
声が小さくなる。
慧は静かにうなずいた。
すぐに否定しない。
ちゃんと受け止めてくれる声。
落ち着いた説明。
難しい言い方じゃない。
その言葉に、小さくうなずく。
まさに、その通りだった。
慧の声が少しだけやわらかくなる。
その一言で、少しだけ胸が軽くなる。
怖かった理由のひとつが、少しだけほどけた気がした。
ゆっくり続ける。
あなたの方を見ながら、やさしく言う。
小さく聞き返す。
落ち着いた声。
少しだけ想像してみる。
あの苦しい中で、それができるかはわからない。
でも――
そう言うと、慧はやわらかくうなずいた。
無理をさせない言葉。
その一言に、少しだけ胸があたたかくなる。
怖さは、まだある。
でも――
どうすればいいのか、少しだけわかった。
それだけで、少しだけ違う気がした。
診察室を出るとき、
来たときより、ほんの少しだけ足が軽くなっていた。














編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。