地上から追放されしものたちが集まる『地底』
そこにつながる入り口である大穴近くの森に、悟り妖怪の姉妹が仲睦まじく話していた
そんな彼女たちに影が一つ。近づいていた
その手には妖しい緑色の薬品が握られていて、慣れた手つきで注射針を銃にセットする
暴走化薬を銃のような管に取り付ける。きちんとセットされていることを確認すると、その銃口を姉妹へと向ける
まさに凶弾。姉妹を完全に引き裂き、バラバラにさせるそれに今、引き金をかける
気配を消し、呼吸を止め、位置や角度を調整し、完全に射撃する体制を整えた時_______
別の手が、銃を掴む
ザキが振り返れば、そこには真剣な眼差しで彼を見つめるキラがいた
銃を払い除けて、手の届かない距離まで転がらせる。そして体をこちら側に引き、森の深くまで誘導する
あの二人が巻き込まれないようにするためだ
今のザキは記憶を一部失って、俺のことを殺すべき対象と誤解している。
ザキを倒すだけではダメだ。問題はそこじゃない
あいつの記憶を取り戻して、目を覚まさせる
そうしなければ意味がない。せっかく手に入れたチャンスをものにしなければ、何も意味がない.......!
そう言ってザキはこちらに向き直る
その目からはは、鋭い眼光が爛々と、明確な殺意とともに浮かんでいる。
適当にザキのことを煽って、こちらへ意識を向けてくる
今の状態のザキを相手にするのはそこまで苦ではない。能力の模倣も満足に済んでいないし、魔力を使った強化も発展途上であろう
経験的なアドバンテージでは恐らく今の俺のほうが上だ......しかし
今までザキとしてきたのは模擬戦だ。本番じゃない
一度本気で殺り合った時だって、アイツは俺のことを生かすつもりだった。だから死にかけるだけで済んだのだが........今回はそうも行かない
殴る、蹴る、掴む、捻る
距離を取ろうとすれば弾幕で退路を塞ぎ、生半可な攻撃は避けるか逸らされ、場合によってはカウンターが飛んでくる
隙を見せれば一瞬にして詰められる
そも、戦闘の技量においては一般人のキラよりも、暗殺者であるザキの方が上である
実戦においての戦術も、場数もあちらの方が上であることは間違いない
正面に立っているザキ。決してその目を離さず、一瞬の隙を見逃さないように、次の一手を見逃さないように全神経を奮わせる
拳による連撃は丁寧にガードし、目潰しの一撃は寸前のところで避け
足払いされて体勢を崩す前に地面に手をつき、手で体重を支えて身体を180°反転させ、その勢いのまま、さながら曲芸師のような動きで蹴りを入れる
ザキに当てた足を掴まれると、魔力で強化された膂力で潰しにかかる。人の手から到底発せられない、発せられるはずのない万力のような圧力は、キラの右足を押しつぶすには十分であった。
爪が皮膚を突き破り、内出血を起こし青紫色に変色する。肉はえぐれ、はみ出て、骨はへしゃげて突き出る
殺す気の、本気の攻撃。ルール無用の本番だからこそできる、移動手段を排除するためのそれは、確かに効果的な一撃であった
熱い...アツイ.......あつい
足を中心に熱が体全体を伝っていく
左足でザキの首元を狙い、距離を離す
手が離れた瞬間に足を能力を使って回復させる。まるでビデオの逆再生かのように、何事もなかったかのように戻っていくそれは、ザキにとっても不思議に思うようで、戦闘中でありながらも立ち止まってこちらを凝視していた
そうして、また距離を縮めて肉弾戦を繰り広げる
今度は細胞を硬化させながら、ダメージを最小限に抑える。今度は攻撃を逸らすことはせず、必要最低限の行動だけで済ませ、受けていい攻撃だけを受ける
完全に防御を捨てて、攻め続ける.......!
考えが正しければ、この方法で記憶を戻すことができる
ただ、タイミングを間違えればもうチャンスはない。慎重に、確実にその機会を待つ
あとはその時間が来るのを待つだけ.........!
時刻は昼が過ぎ始め、暮れ六つ。
空の色が少しずつ、暁色に染まっていった
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!