前の話
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昔、ある世界は人間と怪物2つの3つに別れていました。
ひとつの世界は「ハーベボレス」。
兎に酷似した怪物などの小動物が暮らす平和な世界でした。
ふたつめの世界は「カーニボア」。
イタチに酷似した怪物などの肉食動物が暮らしていました。
やがて、人間がその区域に侵入すると怪物達との混血が生じて人間の姿をした怪物の特徴がある生物が誕生し始めます。
この生物は後に「ミステイクス」、
「擬物(まがいもの)」と言う名が付いたとか。
ミステイクスの住む区域は特に決まっていませんでしたが、愚かで醜い人間は自分達に害が出るのを嫌がり、
擬物退治と称して人間の世界にいるミステイクスを皆殺しにしました。
なんとか逃げ切った者は自分の血が混じっている世界へ帰りました。
兎の血を持つ者はハーベボレスに、
イタチの血を持つ者はカーニボアへと。
そんな世の中が安定しているある日。
ある兎の血を持つ男の仔は独りでカーニボアと境になっている小川へ、薬草を取りに行きました。
友人のボムギュが風邪を拗らせたので、治す為の薬草を取りに来ているのです。
もう何度も此処に来ているのでいつも通り川岸へと歩いて行きます。
そのミステイクスはいつものように薬草を何本か採り、そのまま友人の家に向かおうとしました。
その時、川の向こうでなにやら声がしています。
兎の仔は自分の持つ大きな耳を傾け、耳を澄まします。
すると何やら聞こえてくるのは男の声。
臆病な兎の仔は怖くなり帰ろうとしました。
その時。
「痛い」という声が聞こえたので慌てて向こう岸を見てみると何かが脚を抱えて蹲っています。
純粋なのか知識が足りないのか。
向こう岸が危険な生物の住処であると知らずに川を超えてその人に近づきました。
怪しまれないように、衣類のポケットに入っていた包帯を見せながら話すと、唸っていた男の仔は顔をあげました。
そして、その時になって気づくのです。
その生き物には、ハーベボレスの生物を喰らう牙が在る事に。
それを見た男の仔は恐怖のあまり後ずさりをしました。
しかしそれに比例するように唸っていた男の仔は近づいてきます。
絶体絶命のピンチ。
果たして兎を守る救世主は現れるのでしょうか。
命を失う覚悟で目をぎゅっと瞑っていた兎の仔は予想もしていない言葉に動揺を隠せず、
照れ笑いをするように戸惑いました。
そう言って指差す先は川の向こうのハーベボレス。
従順に兎の仔が頷くと唸っていた男の仔は話を続けます。
それでも怪我人を1人置いていけない兎の仔はポケットに入っていた包帯と、薬草と一緒に摘んで来た葉を渡して
「ちゃんと1日経ったら包帯取るんだよ」
とそれだけ話して川の中へと走っていきました。
___これが、動物の暗黙の掟を破る恋の始まりとなるのです。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!