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第2話

1日目
8
2023/10/27 13:10
僕はいつも通り、重い身体を持ち上げた。


だが、今日は特に体調が悪い気がする。それでも、僕の寿命は後八十年もある。



今は十八歳なので、九十八歳まで生きられるということだ。だから、いくら体調を崩していたとしても後八十年経たなければ死ぬことができない。



熱もないし、死ぬ訳でもない。そんな状態で休むことなんてできないので、しかたなく学校へ行った。




学校へ着いて、準備を済ましていたらチャイムが鳴った。HRが始まる。先生が教室に入って来て、朝の連絡をしていた。




ここまでは普段となにも変わらないのだが、先生は突拍子もなくこんなことを言い出した。




「このクラスに転校生が来た。みんな仲良くしてやれよ。」



そして、先生の声と共に一人の少女が教室に入ってきた。みんなはその子を見て一瞬にして固まった。


とても可愛らしい子ではあったが、そこではない。



その少女の頭の上の数字が、僕を含めたみんなの思考を止めた。


『残り一週間』



それは、少女の寿命が後一週間しかないことが表されているのだということに理解するのに時間は掛からなかった。



そして、止まった時を動かすかの様に少女は言った。



「夏目 芽衣です。一週間しか皆さんとは関われませんが、よろしくお願いします。」



そう冷静に言い放つ少女からは、なんの感情も読み取れなかった。



皆が黙り込んで居る中、先生は「碧、お前の隣の席空いているよな。」と言い、少女に僕の隣に座るよう伝えた。


「初めまして。よろしく。」



「あぁ、よろしく。」



そんな簡単な挨拶を交わし終わると、先生は残りの連絡を伝えて去ってしまった。



そして、一限が始まった。僕は芽衣のことを考え
空を眺めていたら授業終了のチャイムが鳴った。



放課になっても、芽衣は独りだった。
普通に考えたらそうだ。季節外れに来た転校生が寿命一週間。そんな人にに話しかけれる奴なんてここには居ない。




だが、転校初日で独りは不安もあるだろうから僕は声を掛けた。




「学校案内するよ。着いてきて。」



中々に勇気を出して言ったが、芽衣は冷たく返した。



「後一週間しか来られないんだから知った所で意味が無い。」




僕にはなぜ芽衣がそんな風に自分の寿命を口にできるのか理解ができなかったが、どうしてもそんな彼女のことが気になって



「いいから。一週間でも知っていた方が困らないでしょ。」




と半ば無理やり教室から連れ出した。





一通り説明し終わった時、芽衣が話し出した。



「びっくりしたでしょ?寿命が残り一週間なんて。本当は前まで居た場所で残りの一週間を過ごすつもりだったけど、お父さんが転勤族でさ。ここに来たんだ。」



そうやって普通の雑談かのように話す芽衣は異質な空気を纏っていた。そして、続けてこう言った。



「そのせいでしょっちゅう転校を繰り返してたからまともに友達ができたことがなかったんだ。」


そう話す彼女は少し寂しそうな顔に見えて、不思議と僕は親近感を覚えた。

6限が終わり、僕達は二人で校門まで行った。


「芽衣の家って右に曲がる?左に曲がる?」
と問いかけると「右。」と短く言った。


僕は左に曲がるので、校門の前で手を振りさよならをした。


「また明日。」


「うん。」

呆気なく一日目が終わった。

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