ザァァァァ、とさっきとは違って、
冷たい風が私たちの間を吹き抜けていく。
あぁ…私…
この人に、なんて顔させてるの…?
ボムギュさんは、さっきまでとはまるで別人のような、
そんな風に、綺麗な顔を歪めて、
泣き出してしまいそうな…
なんて言い表せばいいのか、言葉が見つからない…
そんな、言うに耐えない顔をしてる。
私が…
私が、ボムギュさんにこんな顔させてるの…?
苦しい…
胸の奥がぎゅってなって…
もう、本当にボムギュさんの目を見て話すことが
できなくて、俯いてしまう。
人って、こんな、心と裏腹な気持ちを…
言うことができるんだ、って…
そう、思った…。
私は、ボムギュさんにそう言うと、
彼がどんな表情をしているのかも見ることもできずに、
ずっと渡そうと思っていた彼のパーカーと上着の入った
紙袋を彼が立っている傍に置き去りにして、
急いでその場を後にした。
でも、
走る私の腕をパシッと捕まえて、
私の前に回り込んでくるボムギュさん。
目、見れないよ…。
私は、ずっと俯いたまま息をすることも難しくなってくる。
ボムギュさんは、震える声で私にそう言うと、
ゆっくりと、弱々しく私の腕から手をほどく。
ねえボムギュさん…
どうして、あなたはそこまで優しいの…?
違う…、違うんです、ボムギュさん…。
私の方が、ボムギュさんのこと、
傷つけてるのに…。
昨日、ヒュニンカイさんが言ってた言葉を思い出す。
ごめんなさい、ヒュニンカイさん…。
やっぱり、私は…
ボムギュさんを、傷つけてしまいました…。
何で…何で、ようやく心が決まったのに…
どうして、そんなことを言うの…?
知りたくて、確かめたくて…、でも結局
言い出すことができなかった数ヶ月前にあった出来事を
こうやって、いとも簡単に聞いてしまうボムギュさん。
私は、このことを知ること、少し怖いと思ってた。
知ってしまったらもう、後戻りはできない…
そう思ったから…。
そう言って俯いている私の視界に入ってきた
ボムギュさんは、力無くしゃがみ込む。
苦しい…
胸が張り裂けてしまいそう…
もう本当に、呼吸をするのも苦しくて…
私は、ボムギュさんに頭を下げると、
今度こそ本当に、彼の前からいなくなった…。
本当は…少し、気づいてたんです…。
ボムギュさんが、私のことをただのファンとしてじゃなく、
1人の女の子として、良く想ってくれていること…。
ボムギュさん…、私は、
あなたのことが好きです…。
大好きです…。
だから、
もう、私のことでこれ以上ボムギュさんに
傷ついて欲しくなくて…。
だから、ボムギュさんと会うのは、
もう、今回で最後にしたんです…。
いつの日か、クラスの女子たちがしてた会話…。
「やっぱさ、自分の推しに彼女いた、って熱愛報道出たら
結構ガチでショックじゃない?」
「ほんとにそれな!!」
「私の場合、怒っちゃうかな。よく彼女がいながら
ファンに『愛してるよ』とか言えてたよな、って
思っちゃう。」
「私なんか余裕でファン辞めちゃうよ!?」
私のせいで、ボムギュさんが傷つくのは…
ボムギュさんが悪く言われるのは、嫌、だから…。
帰り道の途中、空を見上げてみれば、
星たちがきらきらと輝いていた。
プルルルルル…プルルルルルル…
家に帰って、泣いて泣いて…
泣きまくって、疲れきって寝落ちしてしまった私の耳に
突然響く電話の着信音。
うっすらと眠い目を開けて、枕元にある目覚まし時計を
見てみれば、
こんな時間に誰なの…。
そう思いながら、ベッドの上に転がっていた
スマホの画面を見てみると…
画面には、「陽平さん」という文字が映っていた。
こんな時間にどうしたんだろ…。
私が電話に出れば、
「あ!あなたちゃん!?こんな時間にごめんね!!」
と、どこか焦ったような陽平さんの声が聞こえてくる。
私がそう言うと、
「あなたちゃん、今すぐ総合病院に来て!!」
「ボムギュくんが、」
「事故に遭った、って…」
そのことを聞いた瞬間、一瞬で頭が真っ白になった。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!