市場の奥では、
手に奇妙な針を持った売人たちが囁き合っていた。
透は肩をすくめた。
(……本当に覚えがないんだよ)
そんなやり取りの最中──
乾いた雷鳴が、空洞に響いた。
光の柱が、目の前に落ちる。
そして姿を現したのは──
黒いコートを翻し、雷針を軽く肩に担ぐ青年。
透の背筋が強張った。
Aランク雷スティチャー・ヴォルト。
その名は、公安でも危険人物リスト上位だ。
陽太がビビりまくる。
いかにも厨二が考えたような呼び名に、戸惑いを隠さずにいると、隣の美菜は静かに拳を握った。
(……なんだよそれ)
カイトの雷が揺れた瞬間──
市場の奥から、女が歩き出してきた。
白い髪に、赤い瞳。
どこか透き通った存在感。
美菜の顔色が変わる。
意味が分からず、心臓が跳ね上がる。
(こいつ……記憶改ざんの能力……!)
イヴは透の頬に触れようとした。
触れられた瞬間──
透の視界が白く弾けた。
景色が揺らぎ、
市場の中心に設置された古いステージが光った。
スピーカーのような金属塊が唸り、
電子声が響く。
《公安は嘘をついている。
黒縫いは“敵”ではない。
本当の敵は──“最初の縫写者”》
透の心臓が跳ね上がる。
それって……
その時だった。
ステージの上に──
黒い“子どもの影”が立っていた。
白いワンピース。
長い黒髪。
透の呼吸が止まる。
(……灯……?)
影がこちらを向く。
歪んだ声が、透の心を引き裂く。
透は思わず一歩踏み出した。
美菜が叫ぶ。
透の視界の中で、灯の影が微笑む。
針が、ポケットの中で震えた。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!