ここ、海軍基地にある元帥の部屋の前でコンコンコンとノックの音が響いた。
中にいるセンゴクが返事をすれば「失礼します」という涙ぐんだ声と共に泣き腫らした女の子、"あなた"が入ってきた。
服は一等兵達と少し似ているセーラー服。
なぜ彼女だけが違う服なのかというと、
彼女の存在は大将や元帥などしか知らない、「海軍の脳みそ」と呼ばれる参謀だからだ。
(参謀、とは作戦などを考える人の事。
トップの右腕を任されやすい大事な人間。
この人が口を滑らせると軍内談やこちらの状況が全てバレる)
部屋の奥にある彼の机の前へと進めばいつもみたく泣きながらセンゴクの名前を呼んだ。
彼は呆れた顔で「どうしたんだ」と聞いてやる。
彼女が泣いている理由がわかっているからか
昔みたくあたふたと手を宙に泳がせることはしなかった。
これでもかと雫を流す彼女の目尻を深爪で骨ばった手で拭った。
彼にとって彼女は娘と言える存在だったためか彼女には格別に甘かった。(年齢的には孫だろうが)
センゴクの同期であるガープはことある事にあなたをどこかへ連れて行こうとする。
それがテーマパークだとか、海ならまだしも目途は森やらジャングルやら。
基本的にガープは鍛える事しか考えていない。
たしかに今年に海軍へと入隊した彼女は頭の良さは随一だが銃や剣の腕はイマイチで鍛えることもアリかもしれない。
だとしても彼女はあくまでも「海軍の脳みそ」として雇われた。戦う必要はないのだ。
それに周りがそれをさせない。
なのにガープは必要以上に鍛えようとしてくる。
きっと、ガープの孫が海軍になってくれなかったから彼女で「孫達が入っていたらしたかった事」をする気なのだろうとセンゴクは踏んでいた。
彼女の親としてそれは少し困る。
可愛い子には旅させろとは言うがそれでジャングルなどに連れていく親はいないだろう。
口で言いはしないが、彼は彼女の身が危険に侵されることを可能な限り遠慮したかった。
彼女は赤くなった目尻を擦りながら言う。
次は無人島か、そう思うとセンゴクは胃が痛くなる気がした。
17歳。
本来なら友情や恋愛を育んでいる頃だろう。
そんな年端もいかない娘を危ない場所へ連れ出す気のガープへまた呆れた。
彼女はそんな彼を横にジャングルに連れていかれそうになっていた時のトラウマを思い出しているのか肩を揺らしていた。
それを尻目にセンゴクは慰めになればと試しに彼女へおかきを勧めたがほんのりと断られた。
いつの間にか来ていたのか。
乱暴に開いた扉の近くでガープは立っていた。
先程の「17歳にはまだ早い」という発言に文句があるようで不満げに口を尖らせている。
不機嫌な彼が怖いと言いたげに彼女はセンゴクの後ろへと隠れた。
それにセンゴクも後ろに手をやって庇ってやる。
まるで虎に食われる寸前の兎の親子だ。
「ワシの孫達」とはさっきも言ったガープが海軍にならせたかった孫達だろう。
根気強く「海軍になれ」と言ったらしいがそれが悪かったのか全員海軍と敵対する存在になったとセンゴクは酒の場でのガープの愚痴を聞いた覚えがある。
そう考えるとセンゴクは後ろにいるあなたへの教育が良いものだったのかもしれないと少し微笑んだ。
なにせ、こんなにも頼ってくれるのだ。
本当の親でもない自分を。
今度なにか買ってやろうかと、彼女に心を侵されて手遅れな彼はうずうずとする心を抑えて口を開いた。
1つため息をこぼしてからガープへと視線をよこした。
その本人はまだ不機嫌が晴れないと言いたそうにセンゴクの後ろにいる彼女を睨んでいる。
うるさいガープへとまた彼女の瞳が揺れた。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!