その日はなんのトラブルもなく一日が終わった。
今は放課後だ。
教室に残ってお喋りをしている子も多かった。
実は今日から部活動や体験が始まるのだが、
私は現実逃避をするべくウトウトするか〜と頬杖をついて目をつぶっていた。
すると隣から唐突に
「よっしゃ、乗っ取るか」
という不穏な呟きが聞こえた。
いや、乗っ取るって何?と隣を見ると
「ねえ、杠...今のって石神くんだよね」
「そう...かも?」
「そうだったよ!何?乗っ取るって!」
杠ちゃんと、その後ろの席の子が完璧に私の心の声を代弁してくれた。
当の本人からはさらに頭を抱えたくなるような言葉が出てくる。
「そりゃ、...乗っ取るんだよ」
「いや、普通の高校で乗っ取りとか乗っ取られって...そーゆーもんだっけ?」
いや、違うと思うよと心の中でフォローする。
杠ちゃんは苦笑いを浮かべながら千空のフォローに回った。
「あー、あれじゃない?部活。今日からでしょ」
杠ちゃんは石神くんと同中だからこの手の話題でよく話を振られているということを今日一日でよくわかった。
お疲れ様。
「乗っとるの!?乗っ取って宇宙に行っちゃうの!?」
いや、流石にまだ高校生だし宇宙に行くなんて言うことは現実的に考えてないでしょ、と思い杠ちゃんを見たのだが、彼女はどこか遠くを見つめて愛想笑いを浮かべていた。
え、嘘でしょ?さすがに冗談だよね。
すると今の今まで黙っていた石神くんの後ろに座っている女子が話題に入ってきた。
「だったらヤバいかもねー」
「ヤバいって?」
杠ちゃんが首を傾げる。私も聞きたかったがあまり聞き取ることができなかった。
とても気になる。
だけど「ワォ...」と小さな声をあげた杠ちゃんの表情を見るにあまりいいものでは無いのだろう。
まぁ、私にはきっと関係ないだろう。
どこの部活に入るかまだ決まってないけど。
部活の事について本格的に考えるか、と集中する姿勢を取ろうとしたところで杠ちゃんが
「あなたの下の名前ちゃんはどこ部に入るの?」
と聞いてきた。
名前を覚えてくれていた事を嬉しく思いながら、その質問になんて答えようか考えを巡らせる。
「んーと、まだ決まってないんですよね」
と当たり障りのない返事をする。
「杠さんは決まってますか?」
「うん、私は手芸部に入るの!あ、それと私の事は杠でいいよ。敬語も硬いから楽な話し方とか」
「あ、じゃあ、ゆずりは...」
最後の方は照れて声が小さくなってしまったがこれから慣れればいいだろう。
「あなたの下の名前は中学何部に入ってたの?」
杠の後ろの席に座っている子───名札を見れば梨衣奈と書いてある───が話しかけてくれる。
名前を呼び捨てされると、距離が近ずいた感じがする。
密かに嬉しく思う。
「中学の時は陸上部に居たんだけど周りの子とあんまり上手くいかなくて、陸上部は候補から外してるんだよね」
すると
「じゃあ科学部来ないか?」
と横からこれまた唐突な提案が飛んできた。
「でも、私科学あんまり得意じゃないし...」
「学年でも人数がいた方が良いからな」
「あの、話聞いてる?」
「よし、そうと決まったら行くぞ!」
「 はぁ !? 」
話を聞け!と叫ぶ前に手を掴まれて教室を連れ出されてしまった。
強引すぎてもはや拉致である。
教室を出る直前、後ろを振り返ると杠の同情する様な顔が見えた。
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。