当たり前に続く時間は、いつか必ず終わりが来る。
でも僕は、それを認めなくなかった。
いつまでもずっと、こんな時間が続けばいい。
幸せな時間を止めたくなんてないんだ。
「 ……と……!! 」

【 月を照らした太陽 】地ノ下 アザミ

【 未熟な光 】叶光 優斗
セミが五月蝿く鳴き続ける7月の夕方。
夕方なのにとにかく暑い。体の至る所から汗が滴っていく感覚が伝わってくる。
昨日はアザミの誕生日。そしてこの間が僕の誕生日だったから、はれて2人とも20歳になった。
でもそんな時間を噛み締めている暇はない。ここ1ヶ月、特撮映画の撮影が立て込んでいるおかげで僕らはその時間を満喫する暇なんてなかったのだ。
アザミは僕のマネージャーだ。だからなのか、沢山僕のことを心配してくれる。
僕は咄嗟に「 大丈夫 」だと伝えてしまったが、全然そんなことはなかった。
さっきから頭が石のように重たいし、少しでも油断してしまうと意識を手放しそうになってしまう。
僕はアザミの腕を引っ張って、撮影場所へと向かっていく。
1歩、また1歩と進む度に視界が揺れて仕方ない。でも、そんなのを気にしてる暇すらない。
でも次の瞬間。僕の視界は今までにないくらいに大きく揺れた。
咄嗟にアザミが支えてくれたおかげか、地面にぶつからずには済んだけど体に力が全く入らない。
少しずつ、アザミの声も遠ざかっていくような感覚がする。
気が付けば僕はそのままアザミの腕の中で意識を失ってしまった。
気が付いたら僕は自分の部屋のベッドの上で横になっていた。近くにはスポーツドリンクを持ったアザミが僕の額に手を起きながら心配そうな顔をして座っていた。
さっきまで外にいたのに、今は家。その状況が僕には理解出来なかった。
そんなことを言うアザミに、僕は納得がいかなかった。
まだ撮影が沢山残ってる。他の人達に迷惑を掛けてる。なのに僕は今、家にいる。
その状況が、僕の心を少しずつ揺さぶり始めてしまった。
早く現場に戻らなくちゃ。みんなに迷惑掛けたことを謝らなくちゃ。気が付けば、僕はそんな事ばかり考えていた。
だから重たい体を何とか起き上がらせて、ベッドから出る。でも体はついてこないから、少しだけふらついてしまった。
僕の目的に気が付いたのか、アザミは僕の腕を強く掴んで動きを止めてきた。
ヒーローは常にキラキラで眩しい、弱さを見せない存在。でも今の僕はそれとは程遠い。それが許せなかったんだ。
こんな所で休んでるなんて、僕らしくない。だからアザミの静止を振り切ろうとした。
でも、アザミは僕から手を離そうとしてくれない。力強く握ったまま、真剣な眼差しで僕を見つめてくる。
この時、僕は大人しく引けば良かったんだ。でも、意地になったせいで。
そう、言ってしまった。
その言葉を聞いたアザミは、一気に眉をひそめながら。僕の腕を更に強く掴みながら。
大きな声で、そう怒ってきた。その言葉に僕は少し口を固く結んだけど、言い返さないと負ける気がしたから咄嗟に無理な言い訳をしてしまった。
その言葉を聞いたアザミは、一瞬だけショックを受けたような顔をして。
僕の腕を掴んでいた手を離して。
「 そんなことない 」。アザミがその先を言う前に、僕は心の中でそう叫んだ。
ここから先の言葉なんて聞きたくない。だからだろうか。
考えるより先に、声が出ていた。
そんなことを言った瞬間、アザミがものすごく悲しそうな顔をしていたのを僕は今でもよく覚えている。
少し目に涙を溜めながら、アザミはそう叫んでいた。
それを聞いた僕は、一気に胸が締め付けられた感覚に襲われてしまった。
アザミになんてことを言ったんだろう。謝らなくちゃ。
でも、心のどこかにあるプライドが、それを邪魔した。
気が付けば僕は家を飛び出して、人通りの少ない商店街を歩いていた。
歩けば歩くほど、後悔だけが押し寄せてくる。
アザミは僕のために色々動いてくれた。でも僕は恩を仇で返すような形で怒ってしまった。
今の僕には、アザミに合わせる顔なんてない。
そんな時だった。

【 ヒーローに手を差し伸べた少女 】鈴音 ながめ
1人の女の子に、声を掛けられた。
見覚えのある制服。僕の後輩にあたる子なのだろうか。そんなことを頭の端で考えながら、少女から目をそらす。
女の子から差し伸べられた優しさに、気が付いたら僕は触れていた。
そして、そのままの勢いで先程の出来事を説明していく。その間、女の子は黙って僕の話をずっと聞いてくれていた。
そして、話を終えたあと。
そう、優しく笑った。
この子の言う通りだ。僕は、今すぐアザミに謝りに行かなくちゃいけない。僕がしたのは、許されないことなんだから。
そうだ。僕はアザミとずっとこのまま疎遠になんてなりたくない。あの喧嘩がきっかけで離れ離れになるだなんて考えたくない。
女の子に手を振った後、僕は走って自分の家へと向かった。
辺りは既に暗くなっている。撮影も僕が来なかったことで何も進まなかっただろう。でも今はそんなこと、全部どうでもよかった。
ただ、アザミに謝りたい。それだけが僕の思考を支配していたから。
走って、走って、走って。
深呼吸をした後、僕は思い切って玄関の扉を開いた。
でも、そこにアザミの靴はない。
この時の僕は、呑気にそんなことを考えていた。
“ アザミが帰ってきたら謝ればいい ”
でも、今もアザミは。
- 8年後 -

___帰ってこないまま、アザミがいたはずの場所には違う人が座ることになってしまった。
アザミは今、どこで何をしてるんだろう。
そう考えながら、僕は今日も既読がつかない相手にメッセージを送るのだった。
【 月と太陽のすれ違い 】












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。