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第4話

【 月と太陽のすれ違い 】
41
2026/05/24 14:35 更新
当たり前に続く時間は、いつか必ず終わりが来る。
でも僕は、それを認めなくなかった。
いつまでもずっと、こんな時間が続けばいい。
幸せな時間を止めたくなんてないんだ。




「 ……と……!! 」




地ノ下 アザミ
___おい優斗!!





【 月を照らした太陽 】地ノ下ちのした アザミ




叶光 優斗
うわあっ!?
叶光 優斗
もーっ!!びっくりさせないでよー!!





【 未熟な光 】叶光きょうこう 優斗ひろと




セミが五月蝿く鳴き続ける7月の夕方。
夕方なのにとにかく暑い。体の至る所から汗が滴っていく感覚が伝わってくる。
昨日はアザミの誕生日。そしてこの間が僕の誕生日だったから、はれて2人とも20歳になった。
でもそんな時間を噛み締めている暇はない。ここ1ヶ月、特撮映画の撮影が立て込んでいるおかげで僕らはその時間を満喫する暇なんてなかったのだ。
地ノ下 アザミ
こっから歩いてすぐだけど…飲み物とか買うか?
叶光 優斗
大丈夫だよ。それより早く行くよ!!
アザミは僕のマネージャーだ。だからなのか、沢山僕のことを心配してくれる。
僕は咄嗟に「 大丈夫 」だと伝えてしまったが、全然そんなことはなかった。
さっきから頭が石のように重たいし、少しでも油断してしまうと意識を手放しそうになってしまう。
地ノ下 アザミ
いやでもこんなバカ暑い日に飲み物なしってのは…
叶光 優斗
いいから!!ここで時間潰してたら他の人に迷惑でしょ?
叶光 優斗
だからいくよっ、アザミ!!
地ノ下 アザミ
あっ…おい、優斗!!!!
僕はアザミの腕を引っ張って、撮影場所へと向かっていく。
1歩、また1歩と進む度に視界が揺れて仕方ない。でも、そんなのを気にしてる暇すらない。
叶光 優斗
まだまだ撮影は残ってるんだし、このままのペースで…
地ノ下 アザミ
……!!優斗!!
でも次の瞬間。僕の視界は今までにないくらいに大きく揺れた。
咄嗟にアザミが支えてくれたおかげか、地面にぶつからずには済んだけど体に力が全く入らない。
地ノ下 アザミ
優斗!!大丈夫か、優斗!!
少しずつ、アザミの声も遠ざかっていくような感覚がする。
気が付けば僕はそのままアザミの腕の中で意識を失ってしまった。





地ノ下 アザミ
優斗!!お前、凄い熱だけど大丈夫なのか!?
叶光 優斗
……アザミ……?
叶光 優斗
……ここ……どこ……?
気が付いたら僕は自分の部屋のベッドの上で横になっていた。近くにはスポーツドリンクを持ったアザミが僕の額に手を起きながら心配そうな顔をして座っていた。
さっきまで外にいたのに、今は家。その状況が僕には理解出来なかった。
地ノ下 アザミ
家だ。急にお前が倒れたから帰ってきたんだよ
そんなことを言うアザミに、僕は納得がいかなかった。
まだ撮影が沢山残ってる。他の人達に迷惑を掛けてる。なのに僕は今、家にいる。
その状況が、僕の心を少しずつ揺さぶり始めてしまった。
叶光 優斗
なんで……?
叶光 優斗
まだ撮影、沢山残ってるよ……!?
叶光 優斗
っ……
地ノ下 アザミ
おい、優斗!!
早く現場に戻らなくちゃ。みんなに迷惑掛けたことを謝らなくちゃ。気が付けば、僕はそんな事ばかり考えていた。
だから重たい体を何とか起き上がらせて、ベッドから出る。でも体はついてこないから、少しだけふらついてしまった。
地ノ下 アザミ
おま……どこ行くんだ!!
僕の目的に気が付いたのか、アザミは僕の腕を強く掴んで動きを止めてきた。
叶光 優斗
離してよ!!僕は現場に戻らないとなんだから!!
叶光 優斗
僕はみんなが憧れる“ ヒーロー ”なんだから……これくらいでへこたれてちゃ……ダメなの!!!!
地ノ下 アザミ
………
地ノ下 アザミ
……優斗……それ、本気で言ってんのか……?
ヒーローは常にキラキラで眩しい、弱さを見せない存在。でも今の僕はそれとは程遠い。それが許せなかったんだ。
こんな所で休んでるなんて、ヒーローらしくない。だからアザミの静止を振り切ろうとした。
でも、アザミは僕から手を離そうとしてくれない。力強く握ったまま、真剣な眼差しで僕を見つめてくる。
叶光 優斗
本気に決まってるじゃん!!!!
叶光 優斗
せっかくとれたデカイお仕事のひとつなんだよ!?
叶光 優斗
なのにちょっと倒れたくらいで休むなんて……
叶光 優斗
これからの僕の信用が下がっていっちゃうよ!!!!
地ノ下 アザミ
……
地ノ下 アザミ
……それに関しては悪かった。でも俺は優斗を思って……
地ノ下 アザミ
……優斗が無理してるところ……見たくなくて……
この時、僕は大人しく引けば良かったんだ。でも、意地になったせいで。
叶光 優斗
___僕は無理なんてしてない!!
地ノ下 アザミ
……!!
そう、言ってしまった。
その言葉を聞いたアザミは、一気に眉をひそめながら。僕の腕を更に強く掴みながら。
地ノ下 アザミ
じゃあなんでさっきお前は道端で倒れたんだ!?
叶光 優斗
あれはたまたま眠くなっただけ!!平気だってば!!
大きな声で、そう怒ってきた。その言葉に僕は少し口を固く結んだけど、言い返さないと負ける気がしたから咄嗟に無理な言い訳をしてしまった。
叶光 優斗
アザミのくせに知ったようなこと言わないで!!
その言葉を聞いたアザミは、一瞬だけショックを受けたような顔をして。
地ノ下 アザミ
……誰がここまで支えてきたと思ってんだ
僕の腕を掴んでいた手を離して。
地ノ下 アザミ
お前だって、俺の事を知らないくせに……
「 そんなことない 」。アザミがその先を言う前に、僕は心の中でそう叫んだ。
ここから先の言葉なんて聞きたくない。だからだろうか。
叶光 優斗
……アザミなんて……
叶光 優斗
アザミなんて……!!
叶光 優斗
___アザミなんて、大嫌いだ!!
考えるより先に、声が出ていた。
地ノ下 アザミ
……!!
地ノ下 アザミ
……そうか
そんなことを言った瞬間、アザミがものすごく悲しそうな顔をしていたのを僕は今でもよく覚えている。
地ノ下 アザミ
俺だって、お前のこと……
地ノ下 アザミ
___心の底から大嫌いだ!!
叶光 優斗
……っ!!
少し目に涙を溜めながら、アザミはそう叫んでいた。
それを聞いた僕は、一気に胸が締め付けられた感覚に襲われてしまった。
アザミになんてことを言ったんだろう。謝らなくちゃ。
でも、心のどこかにあるプライドが、それを邪魔した。
叶光 優斗
……頭冷やしてくる
気が付けば僕は家を飛び出して、人通りの少ない商店街を歩いていた。
歩けば歩くほど、後悔だけが押し寄せてくる。
アザミは僕のために色々動いてくれた。でも僕は恩を仇で返すような形で怒ってしまった。
今の僕には、アザミに合わせる顔なんてない。
そんな時だった。




鈴音 ながめ
___どうして暗い顔をしてるんですか?





【 ヒーローに手を差し伸べた少女 】鈴音すずおと ながめ





叶光 優斗
……えっと……
1人の女の子に、声を掛けられた。
見覚えのある制服。僕の後輩にあたる子なのだろうか。そんなことを頭の端で考えながら、少女から目をそらす。
鈴音 ながめ
一人で悩んでいても解決なんて出来ないですよ
鈴音 ながめ
……私なんかで良ければ話、聞きますよ
叶光 優斗
……ありがとう。優しいね
女の子から差し伸べられた優しさに、気が付いたら僕は触れていた。
そして、そのままの勢いで先程の出来事を説明していく。その間、女の子は黙って僕の話をずっと聞いてくれていた。
そして、話を終えたあと。
鈴音 ながめ
___なら今すぐ謝りに行くべきですよ
鈴音 ながめ
仲直り、したいんですよね?
そう、優しく笑った。
叶光 優斗
……!!
この子の言う通りだ。僕は、今すぐアザミに謝りに行かなくちゃいけない。僕がしたのは、許されないことなんだから。
鈴音 ながめ
相手の人もきっと同じ気持ちですよ
叶光 優斗
そう……かな……
鈴音 ながめ
そうですよ
鈴音 ながめ
このまま謝らないで後悔するくらいなら、謝った方が絶対にいいですよ
叶光 優斗
……
そうだ。僕はアザミとずっとこのまま疎遠になんてなりたくない。あの喧嘩がきっかけで離れ離れになるだなんて考えたくない。
叶光 優斗
……そう、だね
叶光 優斗
ありがとう。話を聞いてくれて
鈴音 ながめ
大丈夫ですよ
鈴音 ながめ
気を付けてくださいね
叶光 優斗
うん!!
女の子に手を振った後、僕は走って自分の家へと向かった。
辺りは既に暗くなっている。撮影も僕が来なかったことで何も進まなかっただろう。でも今はそんなこと、全部どうでもよかった。
ただ、アザミに謝りたい。それだけが僕の思考を支配していたから。
走って、走って、走って。
深呼吸をした後、僕は思い切って玄関の扉を開いた。
叶光 優斗
___アザミ!!
でも、そこにアザミの靴はない。
叶光 優斗
……アザミも……頭冷やしにいっちゃったのかな
この時の僕は、呑気にそんなことを考えていた。
“ アザミが帰ってきたら謝ればいい ”
でも、今もアザミは。





- 8年後 -









鈴音 ながめ
___今日から優斗さんのマネージャーになる“ 鈴音 ながめ ”です
鈴音 ながめ
よろしくお願いします!
叶光 優斗
……





地ノ下 アザミ
『 ___俺が優斗のマネージャー!? 』
地ノ下 アザミ
『 ……厳しくいくから覚悟しろよ?? 』
叶光 優斗
『 えーーーっ!?!? 』
叶光 優斗
『 お手柔らかにお願いします!! 』





叶光 優斗
___お手柔らかにお願いします






___帰ってこないまま、アザミがいたはずの場所には違う人が座ることになってしまった。





アザミは今、どこで何をしてるんだろう。





アザミが帰ってこないから僕のマネージャーが変わっちゃったよー!!早く帰ってきてー!!😭😭





そう考えながら、僕は今日も既読がつかない相手にメッセージを送るのだった。





                          【 月と太陽のすれ違い 】






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