ストレッチャーに乗せた患者を連れてきて
看護師が俺に向かって叫ぶ。
看護師「先生!到着しました!!」
意識の無い患者に酸素マスクを付け、
麻酔の投与を確認しメスを持つ。
思い出す、10年前のあの日。
初めて人を切ったあの日。
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倒れ込む俺たちの父親を前にして彼女は怯えていた。
そばに行こうとすると必死に立ち上がり服を持ち
逃げ去っていく。
自分の父親に鋏を突き刺したじょんぐくは我に返り
怯えだす。
彼女を追って駆けていくじょんぐくの後ろ姿を見送り、
目の前に転がる父親を見下ろす。
背中に突き刺さる鋏を抜くとビクンと父親の体は跳ね、
血が吹き出すように溢れてくる。
体を足で蹴るようにして向きを変え、
仰向けになった父親の腹に
カッターの刃を当てようとすると
コロコロと何かが転がってきて。
カバンに付けるには少し大きめのチェーンのついた
ぬいぐるみ。
それを手に持ちながらカッターで腹を切り
その中にぬいぐるみと工場内に落ちていた筆を突っ込んだ。
まだ残る父親のぬくもり。
それと共に湧き上がる憎悪。
この世の全てが憎い。
彼女を汚そうとする全てが憎い。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!