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夏の上旬、俺と傑に任務が任された。星奨体の護衛と抹消。今思ったらあんな任務行くべきじゃ無かった。もし行っても居なかったら何てタラレバを考える位には後悔している。傑は勿論あなたに伝えに行った。あなたと必ず帰って来ると約束したらしい。
「…悟」
「あ?何だよ」
傑が珍しく真剣な顔をする。
「万が一、万が一任務に失敗して私が帰って来なかった場合は…結詩野さんを頼むよ」
「彼女は優しすぎるから」と淋しげに笑う傑の顔を今でも覚えている。
「アイツ、俺には懐かねーじゃん」
「それは悟が彼女を名前で呼ばないからだろう?」
確かに、俺は面と向かってアイツに対してあなた、と呼んだ事がない。傑曰く名前で呼んでくれたら名前で呼ぶとの事らしい。
「っち、わぁーったよ。任務から帰って来たらな。ってか、俺達最強だから失敗する訳ねーだろ」
「ふっ、そうだな。私達は最強だ」
俺達は最強だと信じて疑わなかった。何にでもなれた気がした。
だけれど、任務は失敗した。傑はあの任務以来見るように窶れていった。あなたは傑に何て声を掛ければいいか分からなくなりあからさまに俺達を避ける様になった。そんな2人を見ない様に、蓋をする様に俺は1人で任務に行くことが増えた。いつの間にか、俺と傑で最強だった称号は俺1人で最強になっていた。
『っあ……』
「お前かよ…」
ある日の夜中、任務終わりに談話室に寄ると目の下に隈を作ったあなたがソファに腰掛け珈琲を飲んでいた。あなたは俺を見るなり気まずそうに視線を逸らす。
『…任務、お疲れ』
「…おう」
『…これ、あげる』
恐る恐る差し出す手の中に入っていたのは飴だった。
『夏油先輩から聞いた、甘い物が好きだって。だから…その、えーっと』
あなたは次第に吃り始める。もう寝てても可笑しくない時間に態々珈琲を飲んで飴持ってるって…
「もしかして、態々待ってたのか?」
『?!ち、ちが!!』
どうやら図星だった様で頬を紅く染め否定するあなた。そんなあなたの姿に思わず声を出して笑ってしまう。
「あっははは!!オマエ本当に馬鹿だな!!」
『んなっ!!なら返せ馬鹿!!』
渡して来た飴を取り上げようと身を乗り出し手を伸ばすあなたの腕を掴み身体を支える。
「本当、馬鹿だなぁ。あなたは」
『え、名前…』
「ありがとな、んじゃ」
頭をぽん、と撫でればそのまま報告書も出さず自室へと戻った。親友の女に手出すつもりはねぇ、けど
「…これは、やばいな」
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。