第7話

第7話:好きだけじゃ、足りなくて
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2025/11/09 20:31 更新
INIとしての活動は順調そのものだった。

新曲はチャートを駆け上がり、ファンミーティングも即日完売。
日本、韓国、アジア各国でのステージが次々と決まり、まさに飛ぶ鳥を落とす勢い。

でも――忙しさの裏で、ふたりの心は少しずつ揺れ始めていた。



「ねえ、京介。最近さ……どこか、無理してない?」

控室で、タオルを首にかけながら大夢が尋ねた。
モニター越しに見たパフォーマンスは、完璧だった。

でも、その笑顔がどこか“貼りつけたもの”に見えた。

京介は一瞬だけ目を伏せてから、小さく笑った。

「……気づいてた?」

「そりゃ気づくよ。だって俺、誰よりお前の声も顔も、知ってるから」

「……やばいな、俺。大夢に心読まれまくってる」

「それくらい、近くにいたんだよ」

「……うん、そうだね」

少し沈黙したあと、京介はぽつりとつぶやいた。

「最近、自分が自分じゃないみたいな瞬間があるんだ」

「え?」

「周りの期待に応えなきゃって思うとさ、“藤牧京介”って名前に追いつかなきゃって必死になって……」

「……そっか」

「大夢は? お前も大変だろ」

「俺は……たぶん、京介が隣にいないと、自分を見失いそうになるんだ」

ふたりは黙って見つめ合った。
音のない空気の中で、感情だけが膨らんでいく。



その夜、大夢は思い切ってひとつの言葉を口にした。

「ねぇ、京介」

「ん?」

「……俺さ、好きなんだ。お前のこと」

京介の目が大きく見開かれた。

「……え?」

「わかってたでしょ? ずっと。それでも、ちゃんと言葉にしたかった」

京介はしばらく何も言わず、ただ大夢の顔を見ていた。
そのまっすぐすぎる想いに、どう返せばいいかわからなかった。

「……ごめん、大夢。俺も、好き。大好きだよ」

そう言った瞬間、ふたりの間にあった空気がほどけた。

そして静かに、京介が一歩近づいて、肩をそっと抱き寄せた。

「好きって言葉だけじゃ、足りないくらい。お前といると、俺、弱くも強くもなれるんだ」

「俺も。京介といると、前に進める気がするんだ」

「じゃあさ、これからも……一緒にいてくれる?」

「……もちろん」

約束のように、ふたりは小さく指を絡めた。



だが、それでも現実は待ってくれない。

翌週、INIは世界ツアーを控え、さらに過密なスケジュールへと突入していった。

すれ違いの時間がまた少しずつ増え、連絡もままならなくなる日もあった。

「今日、藤牧さんロケ3本入ってます」
「髙塚さん、歌番組の前にソロインタビューが追加で入りました」

それぞれの名前が、別々のスケジュール表に並んでいく。

「……なんか、また会えなくなってきたね」

「でも、俺たち……大丈夫だよね?」

「……うん、信じてる」

笑いながら言い合ったけど、どこか胸の奥がざわついていた。

(“好き”だけで、この忙しさに耐えられるのか――)



数日後、地方でのライブリハーサル終わり。
ふたりは久々にホテルの廊下でばったり出会った。

「あ……」

「……大夢」

一瞬の間を置いて、どちらからともなく歩み寄る。

「……声、聴きたかった」

「顔、見たかった」

「ちゃんと食べてた?」

「寝てないけど、食べてはいた」

「俺も」

ふたりは、苦笑いしながら見つめ合った。

「……会えなくても、こうしてすぐ“戻れる”のが、俺たちらしいね」

「うん。やっぱ似た者同士だな」

「じゃあさ、これからもお互いを“戻れる場所”にしようよ」

「……うん。好き、だけじゃなくて、“支え”ってやつにも、なりたいんだ」

そう言って、大夢はそっと京介の手を取った。

「君の声が、僕を強くするように――俺も、お前の光になりたい」

「……バカ、泣かせるなよ」

静かに、ふたりの手がぎゅっと結ばれる。

夜の廊下、優しい沈黙の中で、ふたりの心が確かに重なった。

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