殺風景な部屋。ミニマリストっていうとちょっと違う細部まで神経質な空間。
カーテンの襞さえそうあるべきと均等に波打っているように見える。
私は一定のレベルでは綺麗好きの部類だとは思うけど、この人のこれは潔癖だ。私はそこまでじゃない。
部屋へあがると手を洗う。うがいをする。タオルは新しいものを使う。その前に食事をしていたら歯磨きもする。
エチケットといえばエチケット。当然といえば当然。
その後はきっと触れられるから、そういう時はそれなりにする。
そう言われると、なんでだろう。と、考える。
そうして私が返事をしないから、聖臣くんが私の後ろからいつもの顔で私の顔を覗いてくる。
波打つくせ毛。まつ毛や眉毛の一本一本。柔らかくそのままであるだけなのに、何もかもが彫刻のようだと思う。
ソファーの上で、聖臣くんの長い腕や脚が私を後ろから抱いている。そしていつも同じ肩の裏側、肩甲骨に近い部分にキスされる。
いつだったかそれについてなんで?って聞いたら、目印があるからだと言われた。目印の黒子。確かに1人の時に洗面所の鏡でそこを確認したら、小さな黒子が2つ並んでいた。そういうこと?
それこそなんで?ってまた言おうと思ったけど、首筋に舌が伝ってきて、口を噤んだ。
この人の全てを知ることはできないけど、この人の傾向なら知っている。その潔癖の完璧主義がそう言うんだから、きっと嘘じゃないし、この行動こそが全て。
これ以上ないくらい近くにいて、交ざっても、混ざっても、聖臣くんは匂いも味もほぼしない。微かに衣服や肌の上に残る洗剤なんかの香料の匂いと、恐らくこれが人本来の体臭なのだろうという温かい何かしか感じない。汗、唾液、アレコレの体液。こんなことを言うのも変だけど、水分にただ溶解したミネラルとその他諸々の純粋な成分しか感じない。
私は彼にこんなことをされても、彼のことが好きなのかわからなかった。何故彼が私を嫌じゃないと感じるのかもわからないままだった。
わからないけど、細胞が、遺伝子が、この人だと叫んでいる。理屈を考えるより、この感覚だけに身を任す。嫌じゃないっていうのは、好きとはちょっと違うと思うけど、恐らく私たちの間に共通しているもの。
私からキスをしたら、聖臣くんはちょっと目を見開いた。
触れても快感も不快感も何もなかった。この体が私のものか聖臣くんのものなのか、もう、どっちかわからない。
好きや嫌いの正しさよりも、この人を選ぶ。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。