トーストの匂いと、コーヒーの蒸気。
そして、ソファでだらけているイッテツ。
いつも通りの声、いつも通りの光景。
そのはずなのに。
思い出した瞬間、心臓が妙にうるさくなる。
パンの乗った皿を差し出すと、イッテツはいつものように受け取る。
普通だ。本当に普通。
でも、リトの言葉が頭を離れない。
“あなたが笑うと、安心した顔をする”
……今とか?
私は、じっと顔を見る。
イッテツが眉を顰めたので、私は慌てて目を逸らした。
距離を少し開けて座る。
その違和感に、彼はすぐ気づいた。
こういう時に限って、指摘が鋭くて細かいイッテツを心の中で恨みながら、私は朝食を詰め込んだ。
昼。
テレビを見ていたら、イッテツが突然言い出す。
仕方なく、少し彼の方に寄る。
肩が触れた感覚がした。
前はこんなの、普通だったのに。
イッテツは全然気にしていないようだった。
むしろリラックスしているように見える。
だなんて、呑気に言って笑っているぐらいだ。
その横顔を見ると、リトの言葉がまた浮かぶ。
“あなたの隣を自分の席だと思ってる”
………本当に?
悩んでいると、イッテツが話しかけてきた。
イッテツがじっと見てくる。
視線がまっすぐすぎて、心臓がうるさい。
図星。
なぜ分かるのか。
イッテツが首をかしげる。
その声は本当にいつも通りで。
それが、逆に困る。
困り果てて、イッテツの方をちらっと見ると、もうポテチを食べながらテレビ見ていた。
呑気すぎる彼の横で、ずっと悩み続ける日々が始まる事実に、私はただぼーっとテレビを見つめる事しかできなかった。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。