第10話

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2026/03/10 16:37 更新
トーストの匂いと、コーヒーの蒸気。
そして、ソファでだらけているイッテツ。
佐伯
パン焼けたー?
あなた
いや、まだ
いつも通りの声、いつも通りの光景。
そのはずなのに。
あなた
(……好きかもしれないんだっけ)
思い出した瞬間、心臓が妙にうるさくなる。


あなた
ほら
パンの乗った皿を差し出すと、イッテツはいつものように受け取る。
佐伯
ありがと
普通だ。本当に普通。

でも、リトの言葉が頭を離れない。

“あなたが笑うと、安心した顔をする”

……今とか?

私は、じっと顔を見る。
佐伯
な、なんだよ
あなた
いや、別に。
イッテツが眉を顰めたので、私は慌てて目を逸らした。
距離を少し開けて座る。
その違和感に、彼はすぐ気づいた。
佐伯
なんで遠いんだよ
あなた
遠くないよ
佐伯
いーや椅子一個分ぐらいズレてる。遠い。
こういう時に限って、指摘が鋭くて細かいイッテツを心の中で恨みながら、私は朝食を詰め込んだ。
昼。
テレビを見ていたら、イッテツが突然言い出す。
佐伯
ちょっとこっち寄って
あなた
え?
佐伯
見えない、テレビが
仕方なく、少し彼の方に寄る。
肩が触れた感覚がした。
あなた
(………近い)
前はこんなの、普通だったのに。

イッテツは全然気にしていないようだった。
むしろリラックスしているように見える。
佐伯
今日は平和だなぁ
だなんて、呑気に言って笑っているぐらいだ。
その横顔を見ると、リトの言葉がまた浮かぶ。

“あなたの隣を自分の席だと思ってる”

………本当に?
佐伯
……なぁ
悩んでいると、イッテツが話しかけてきた。
あなた
ん、?
佐伯
なんか今日変じゃね?
あなた
佐伯
朝から変。
あなた
別に?
佐伯
いや絶対変。
イッテツがじっと見てくる。
視線がまっすぐすぎて、心臓がうるさい。
佐伯
……リト君かマナ君に何か言われた?
図星。
なぜ分かるのか。
あなた
い、言われてない!!
佐伯
言われてる顔!!
イッテツが首をかしげる。
佐伯
俺、なんかやらかしてた?
その声は本当にいつも通りで。
それが、逆に困る。
あなた
いや、…
佐伯
ならいいんだけどさ
あなた
(好きってほんと?なんて聞けるわけない……!!)
困り果てて、イッテツの方をちらっと見ると、もうポテチを食べながらテレビ見ていた。


呑気すぎる彼の横で、ずっと悩み続ける日々が始まる事実に、私はただぼーっとテレビを見つめる事しかできなかった。

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