目が覚める。
見慣れない天井。飛行船の中だ。
クロロ「起きたか?」
すぐ隣から声がした。その直後身体が引き寄せられる。
クロロの胸の中にすっぽり包まれ、彼の香りに満たされる。
顔を上に向ければ、心配げに顔を覗き込んでくるクロロと目が合った。
昨日の夜の事は、あれ以上深く話さなかった。
もう戻れない。それはもう変わらない事実だから。
結局私の勝手な願いも、みんなの覚悟への批判もクロロにはぶつけてしまったけれど。
今はもう私が受け止めるしかない。
私が流星街に向かっていると伝えると、それにはクロロも同意し、久しぶりに二人で故郷を訪ねることにした。
クロロ「あと1時間程で着くそうだ。」
流星街最寄りの空港に降り立つ。
そこからは電車を乗り継ぎ、電車が無い場所は手を繋いでゆっくり歩いた。
念は使わず、ゆっくりと自分たちの足で向かいたかったから。
流星街に着いてそのまま、まずあの森に向かう。
入口で足が竦む。クロロは、そんなあなたを急かすこともなく、じっと手を握ったまま待っていてくれた。
あなたの歩調に合わせて、例の場所へ。
あの日サラサが倒れた場所に屈んで、目を閉じて手を合わせた。
あなた「サラサ、痛かったね。助けられなくてごめん。」
元気な頃のサラサの笑顔を思い浮かべながら手を合わせて祈りを捧げ、ゆっくり目を開くと目の前に立っている少女の脚が見えた。
『お前だけ、幸せになる気?』
その言葉にチクリと胸が痛む。
これはサラサじゃない。
これは、あの頃の私の声だ。
視線を上げると、綺麗な白髪に黒っぽい何かがこびり付いた少女が立っていた。感情の無い、深い闇が宿った瞳であなたを見下ろしている。
あなた「あなたも辛かったね。泣いていいんだよ。」
記憶を失う前の、まだ幼くて重さに耐えられなかった私。誰かにかけて欲しかった言葉を彼女に渡して、背中をさする。
肩を丸めて震わせた彼女は一言、みんなごめんなさい、と呟き、少し冷たい風となって溶けていった。
少し歩いてクロロと行きたかったあの場所。
丘の上から見える、一面白の花畑。
クロロ「懐かしいな。覚えていたのか。」
あなた「夢でよく見てたの。あの子はやっぱりクロロだったんだね。」
“あの約束は覚えてる?”
聞きたかったけどやめた。
覚えていてもいなくても、もう叶えられる約束じゃないから。
クロロ「シロツメクサの群生地だったんだな。流星街で見たのはここだけだよ。ここはあの頃と変わらないままだな。」
丘に並んで座って、頭をクロロにもたれかけてみる。
しばらくお互いの体温を感じた後、クロロが口を開いた。
クロロ「あなたは、これからどうしたい?」
あなた「…私は、あの時の皆が壊れない為に、この道を選ぶしか無かったって頭では分かってる。」
クロロ「あぁ」
あなた「それでも、やっぱりみんなを許せない。正しいとも思わない。でもクロロが言う通り、もう戻れないって事も分かってる。」
クロロ「………」
あなた「だからね、私は旅団を最後まで傍で見守ろうと思うんだ。みんなが、この破滅の道から逸れる気がないと言うのなら、皆の覚悟をちゃんと見届けるよ。その為にみんなの元へ戻ろうと思う。」
クロロ「また、悲しい思いをする事になる。」
あなた「そうだね。でもずっとそばに居るよ。もう逃げない。」
クロロ「…お前の気持ちは分かった。」
あなた「犯人の顔も思い出したよ。知りたい?」
クロロ「あなたが言いたくなければ言わなくていい。自力で探すさ。」
あなた「……帰ったら教えてあげるよ。私のせめてもの罪滅ぼしって事で。」
クロロ「分かった。…なああなた。」
あなた「なに?」
やや緩んだ口元のせいか、普段より幼く見えた。
団長というよりは、あの頃の面影を残したクロロの表情で噛み締めるように言葉を並べた。
クロロ「おかえり」
あなた「うん……ただいま」
身を寄せる2人を、少し冷たい風が包んでいた。











編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。