アーサーの訴えも空しく、
オズは雪のように、消えてしまった。
俺たちだけが、
美しい世界に置き去りにされる。
鮮やかな青い空に、
凍った空気がきらきら輝いている。
オズの説得に失敗してしまった。
言葉もなく立ち尽くしたアーサーの顔が、
痛々しくて、直視できない。
その時、遠くから、
地響きのような音が聞こえた。
険しい眼差しで、
あたりを見回していたカインが、
俺たちの腕を引く。
力なく顔を上げたアーサーが、
石になったように、ぎしりと動きを止める。
住んだ瞳を見開いて、彼は窓の外を擬視した。
窓が狭くて、
はっきりと見えなかったけれど、
きらきらと輝く凍った空気の青空を、
埋め尽くすほど、巨大な白い生き物。
そのお腹あたりが、
のたうっているのが見えた。
もしも、近くで見ることが出来たなら、
新幹線.....。タンカー船より大きいだろう。
グオオオオオオオオオ
瞬間、咆哮が大地に響き渡った。
びりびりと北の塔の壁が震えて、
ぱらぱらと砂がこぼれ落ちる。
俺たちはエレベーターに飛び乗った。
窓の向こうの、空飛ぶ巨大生物が、
塔に気がついたようにこちらに向かってくる。
ぐんぐんと迫りくるほどに、
台風の時のような、強い風圧を体に感じた。
あの大きさなら、体当たりしただけで、
北の塔は崩れてしまうだろう。
アーサーに庇われながら、
リケの手を握りしめて、
エレベーターの扉越しに窓を見据える。
最後に見たものは、
巨大な生き物の、大きく開いた口と牙。
そして.......。
北の塔と俺たちを守るように、
巨大な生き物の前に立ち塞がった影だった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!