その言葉のあと、大森は何も返さなかった。
返せる言葉がなかったわけじゃない。
ただ、これ以上続けたくなかった。
視線を落としたまま、踵を返す。
ゆっくりと、歩き出す。
後ろで、小さな足音がした。
ぺた、ぺた、と軽い音。
振り返らなくてもわかる。
さっきの猫だ。
ルシェルは何も言わずに、ただ後ろをついてきていた。
一定の距離を保ちながら。
近すぎず、遠すぎず。
大森は何も言わない。
歩く速度も変えない。
それでも、足音は消えなかった。
止まることもなかった。
しばらくして、大森が小さく息を吐く。
振り向きもせずに言う。
ルシェルは少しだけ間を置いてから、答えた。
それだけだった。
でも、足音は止まらない。
大森はもう一度だけ息を吐いて、前を向く。
追い払う気力もなかった。
夜の道は相変わらず暗い。
けれど、その後ろにひとつだけ、
小さな気配が続いている。
それは光でも音でもない。
ただ、“いる”という気配だけだった。
後ろから、ルシェルの声がついてくる。
大森は答えない。
ただ、歩く速度だけは変えなかった。
その言葉に、ほんの少しだけ足が揺れる。
小さく呟いた。
でも、その言葉とは裏腹に、彼の歩いている道は家へ向かうものではなかった。
気づいていた。
気づいていたけど、戻る理由もなかった。
ルシェルの声が続く。
大森の足が止まる。
ゆっくりと、振り返る。
声が少しだけ強くなる。
夜の空気が、少しだけ重くなる。
ルシェルはまばたきを一つして、
それから静かに答えた。
その言葉は、さっきよりも揺れていない。
まるで当然の事実みたいに、そこに置かれた。
ルシェルは夜空を見上げる。
街の灯りに隠れて、星はほとんど見えない。
それでも彼は、そこに何かがあるみたいに目を細めた。
静かな声だった。
大森は眉をひそめる。
間髪入れずに返したその言葉に、
ルシェルはぱちりと瞬きをした。
それから少しだけ嬉しそうに笑う。
大森は呆れたように目を細める。
でも、追い払おうとはしなかった。
沈黙が落ちる。
夜風が、二人の間を静かに通り過ぎた。
大森は何も言わない。
ただ。
ほんの少しだけ。
さっきまでより呼吸が浅くなかった。
うわーーーーーんんん
※この物語はフィクションです。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。