阿部side
めめが恋人のフリをしてくれる為の条件に何を求められるのかヒヤヒヤしていたが、想像していた以上に要求は軽くて少し拍子抜けしてしまった。
人気俳優に恋人役を買って出て貰うのに、対価があまりにも安すぎるのでは無いだろうか?
もっと大金を要求されるのかと思っていたが、めめはそんな事言わないだろうし、何より彼の方が経済的余裕がある。
デートだとするなら何か行きずらい場所や、それなりに過酷な所に連れ回されでもしないと見合わない気がする。
確かに前も友達いないと言っていた気がする。
めめと知り合ってから彼の事をなんもなく調べる様になったが、交友関係はあまり広く無そうだ。
共演者の方とも遊んだ話は聞かないし、女性関連の話はもっと聞かない。
そういう事なら俺を誘う理由も頷ける。
本当にこんな条件で良いのだろうか?と不安に思うが、めめが嬉しそうな顔をしているのでこれ以上詰めるのは辞めた。
照と会うと胸がズキズキして苦しい。
この気持ちが好きだという感情なのだとしたら、俺は気付く前に…溺れる前に身を引きたい。
前みたいな友達同士の関係に戻れる事なんて出来ない。
花屋を続けていく上で、現状、恋人は必要ないとふっかにはずっと宣言してきた。
そんなふっかに恋人が出来たなんて言ったら、絶対色々聞かれるに決まっている。
元々、男の人を好きになったのは照だけで俺は本来ゲイでも何でもないし、良い人がいれば結婚はしたいと思っている。
普通の家庭に憧れはあるし、子供だって出来る事なら欲しいとは思う。
だだ、今は仕事が忙しくてそれどころでは無い。
家庭を持つならそれ相応に家事は手伝いし、子供とだって遊んであげたい。それが出来ない状況のまま、誰かと付き合う事を考えられないだけだ。
めめに言われた通り、仕事を理由に断りのメッセージを入れるとすぐに既読がついた。
ふっかが納得してくれたので一先ず安心した。
めめのおかげで取り敢えずは照に合わなくて済んだので、スッと肩の荷が降りた。
優しい表情で笑いかけてくるめめを見ていると、少し気持ちがホッとする。
多分めめが居なかったら、きっと断れなくてあの飲み会に参加していたのかもしれない。
そう思うと少しゾッとする。
どう振る舞っていいのか分からない飲み会で、多分俺は本当の自分の心に蓋押しながら、取り繕うのに必死だったと思う。
甘えた方がいいなんて初めて言われた。
生まれながらにして長男として育って来た俺は、人に甘える事をほとんど知らない。
だから周りに甘えられる事の方が多かったし、それが当たり前だと思って育って来た。
自分で完結出来る事を増やし、他人に頼る事はない。
それが俺の今まで送ってきた人生だったし、変わる事も無いと思っていた。
親にすら気を遣って我儘を言わない俺にとって、ここまで寛容的に受け入れてくれる存在に出会うのは初めてだ。
カッコよくて、優しくて、凄くあったかい。
友人であり男の人が好きだったと伝えても、引かないで優しい言葉を掛けて協力してくれる。
めめは友人なら誰に対してもこんなに親身に相談に乗るのだろうか?
どうして会ってまもない俺にここまでしてくれるのか?
2人でご飯を食べ終えた後、食器を片付けに行くめめを見送りながらも気になって仕方なかった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。