第113話

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2026/01/02 17:11 更新
コン、コン。

控えめなノック。
藤原丈一郎
……大吾?
その声を聞いた瞬間、大吾の喉が、きゅっと鳴る。
藤原大吾
……丈兄……。
扉が静かに開き、丈一郎が入ってくる。
部屋の明かりをつけず、月明かりだけの中で、ベッドの横に座った。
藤原丈一郎
……また怖くなっちゃったか?
大吾は、少し迷ってから、正直に頷く。
藤原大吾
……うん……。
藤原丈一郎
そっか。
責めるでも、困るでもない声。
藤原丈一郎
ほんなら、俺がここにおったるわ。
大吾は一瞬、目を見開く。
藤原大吾
……ほんま?
藤原丈一郎
ほんまやで。
そう言って、布団の端に腰を下ろし、大吾のお腹あたりに、そっと手を置く。

ポン、ポン、ポン。

ゆっくり、一定のリズム。

まるで昔から何度もやってきたみたいに。

大吾の呼吸が、少しずつ、そのリズムに引き寄せられていく。
藤原大吾
……なんか……落ち着く……。
藤原丈一郎
やろ。昔からこれ、効くねん。
瞼が、重くなる。

怖さが、少しずつ遠のいていく。


大吾の瞼が何度か瞬いて、最後にゆっくり閉じていく。

その直前。
藤原大吾
……にぃちゃん……。
丈一郎の手が、ほんの一瞬止まる。
藤原大吾
……ありがとう……。
赤子みたいに柔らかく、何の警戒もない、安心しきった表情。

丈一郎の胸の奥が、きゅっと締め付けられた。

──思い出す。

まだ兄弟が三人だけだった頃。
「丈兄」じゃなくて、「にぃちゃん」と呼ばれていた頃。
和也はまだ赤ちゃんで大吾と二人で寝ていた。
夜になると、不安になって泣きそうな大吾を、こうやって寝かしつけていた日々。

あの小さな背中。
小さな手。
全部、今と繋がっている。



完全に寝息が整ったのを確認してから、丈一郎はそっと手を離し、代わりに大吾の頭を撫でた。

ゆっくり、丁寧に。
藤原丈一郎
……大好きやで、大吾。
返事はない。

でも、その表情は、穏やかだった。

丈一郎はしばらくその場を離れず、眠る大吾を見守り続けた。

怖い夜は、まだ終わらないかもしれない。
でも──一人で越えさせるつもりは、最初からなかった。

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