放課後の光は、少しだけ金色を帯びていて、
小屋の中の干し草がその光を吸い込むように揺れていた
手の中で小さな白うさぎが鼻をひくつかせる。
撫でながら小さく笑う。
動物たちは、言葉を持たないぶんだけ、まっすぐだ。
心を穏やかにしてくれる。
だから、昔から好きだった。虫も、動物も。
でも__
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「 “そんなものに夢中になってどうする。
時間の無駄だろう?” 」
「 “家業を継ぐなら、もっと経済や経営を学べ” 」
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子どものころ、親や会社の大人たちに何度も言われた。
昆虫図鑑を読みふけっていたら、取り上げられたこともある。
“好き”を貫くことは、許されないものだと、いつの間にか思い込んでいた。
それでも、捨てられなかった。
どうしても、手放せなかった。
独り言のように呟いたときだった。
振り返ると、ウサギ小屋の入り口に立っていたのは、あなたの名字あなたの下の名前さんだった。
やわらかな声と、夕陽を背にした姿。
少し驚いたように目を丸くしている。
あなたの名字さんは、隣にしゃがんで、首を傾けながらこちらを見て言った。
その笑顔は、まるで春の風みたいに穏やかだった。
__自分の好きな場所を覗かれたのに、不思議と嫌じゃなかった。
オレはそうこたえながら使った道具をもどすために立ち上がり、壁にほうきを立てかけた。
そのとき、ふと盗み見たあなたの名字さんが、うさぎをあまりにも優しい瞳で見つめるから、胸の奥がくすぐったくなった。
そして、つい聞いてしまったんだ。
彼女は質問に対して肯定した後、
「私の家にも犬がいるんだ」
そう言った。
その一言で、思わず表情が明るくなっていた。
気づけば、いつもより饒舌(じょうぜつ)になっていた。
犬の性格の話から、動物の反応の仕組み、
生態系や昆虫の社会性まで、夢中で語っていた。
ふと我に返ったとき、冷たい汗が背中をつたった。
今まで、こうやって話すと、たいてい引かれた。
“へえ、詳しいんだね”
“ちょっとオタクっぽいね”
そんな一言を残して、距離を置かれるのが常だった。
けれど__。
その言葉が、やわらかく降ってきた。
まるで、長いあいだ閉じていた心のどこかを、
そっと撫でられたような感覚。
驚いて顔を上げると、彼女が無邪気な笑顔でこちらを見ていた。そのとき、風が吹いて彼女の髪が光を受けキラキラと輝きながら、やわらかく波打った。
__その瞬間、言葉が出なかくなった。
ただ、彼女の笑顔が眩しすぎて、胸の奥がじんわり熱くなる。
気づけば、耳が少し熱い。
あわてて視線を逸らしたけれど、耳の奥でまだその言葉が響いている。
少し彼女に視線を戻すと、彼女はニコニコとしながらこちらを見ていた。
いつも見ているその笑顔が、今日は特別に感じた。
手を軽く振って去っていく彼女の背中から、オレは目が離せなかった。
思わず、誰にも聞こえないほどの声でつぶやいた。
ほんの数分の会話だったはずなのに、
胸の奥がずっとざわついている。
何度も言葉を思い出してしまう。
__「優しく接してるところ、八左ヱ門くんの素敵なところだと思うよ」
そんなふうに言われたのは、初めてだった。
生きものが好きだと言うたびに、
周りから笑われることの方が多かった。
だから、俺の“好き”は、誰かに見せるものじゃないと思ってた。
でも、あの子は__違った。
笑わなかった。引かなかった。
むしろ、まっすぐ見て、優しく肯定してくれた。
そのとき胸の奥で、何かがやさしく弾けた気がした。
こんなふうに誰かに見てもらえることが、
こんなに嬉しいなんて思わなかった。
__あの笑顔、思い出すだけで胸があったかくなる。
けど、それだけじゃない。
あの瞳の奥を、もっと知りたいって思ってる。
あの笑顔を、もっと近くで見たいって思ってる。
ウサギ小屋の柵に手をかけて、静かに息を吐いた。
夕陽の匂いが、少し甘く感じる。
口に出して初めて、わかった。
これは“憧れ”でも“感謝”でもない。
胸の奥が、あの子を想うたびに温かくなる。
きっと__恋だ。
次に会ったら、どんな顔をすればいいんだろう。
あの笑顔を見たら、また耳が熱くなるに違いない。
でも、それでもいい。
もう、隠せそうにないから__
スクロールお疲れ様です!
読んで下さりありがとうございました!!
更新遅くなってすみませんでした。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!