第17話

八左ヱ門side
425
2025/10/15 07:44 更新


放課後の光は、少しだけ金色を帯びていて、
小屋の中の干し草がその光を吸い込むように揺れていた


手の中で小さな白うさぎが鼻をひくつかせる。
竹谷八左ヱ門
…よし、今日も元気だな

撫でながら小さく笑う。


動物たちは、言葉を持たないぶんだけ、まっすぐだ。
心を穏やかにしてくれる。


だから、昔から好きだった。虫も、動物も。

でも__

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「 “そんなものに夢中になってどうする。
時間の無駄だろう?” 」

「 “家業を継ぐなら、もっと経済や経営を学べ” 」


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子どものころ、親や会社の大人たちに何度も言われた。
昆虫図鑑を読みふけっていたら、取り上げられたこともある。


“好き”を貫くことは、許されないものだと、いつの間にか思い込んでいた。


それでも、捨てられなかった。
どうしても、手放せなかった。


竹谷八左ヱ門
……やっぱり、オレにはこういうのが性に合ってるな

独り言のように呟いたときだった。

あなた
……竹谷くん?


振り返ると、ウサギ小屋の入り口に立っていたのは、あなたの名字あなたの下の名前さんだった。


やわらかな声と、夕陽を背にした姿。

少し驚いたように目を丸くしている。

竹谷八左ヱ門
あなたの名字さん…?どうしたの?
あなた
放課後にちょっと散歩してたら、ウサギ小屋があるの思い出して......。
あなた
今日は当番なの?


あなたの名字さんは、隣にしゃがんで、首を傾けながらこちらを見て言った。

その笑顔は、まるで春の風みたいに穏やかだった。



__自分の好きな場所を覗かれたのに、不思議と嫌じゃなかった。

竹谷八左ヱ門
そうなんだ。餌の交換と小屋の掃除とか。ちょうど今、終わりかけ



オレはそうこたえながら使った道具をもどすために立ち上がり、壁にほうきを立てかけた。


そのとき、ふと盗み見たあなたの名字さんが、うさぎをあまりにも優しい瞳で見つめるから、胸の奥がくすぐったくなった。

そして、つい聞いてしまったんだ。

竹谷八左ヱ門
あなたの名字さんは、動物は好き?


彼女は質問に対して肯定した後、

「私の家にも犬がいるんだ」

そう言った。


その一言で、思わず表情が明るくなっていた。


気づけば、いつもより饒舌(じょうぜつ)になっていた。
犬の性格の話から、動物の反応の仕組み、
生態系や昆虫の社会性まで、夢中で語っていた。

竹谷八左ヱ門
(…またやってる)

ふと我に返ったとき、冷たい汗が背中をつたった。


今まで、こうやって話すと、たいてい引かれた。


“へえ、詳しいんだね”
“ちょっとオタクっぽいね”


そんな一言を残して、距離を置かれるのが常だった。


けれど__。

あなた
竹谷くんは、ほんとに虫や動物が
好きなんだね。
あなた
生き物に詳しくて、優しいところ.....
八左工門くんの素敵なところだと思うよ
あなた
今の話も聞いててとっても楽しかった!!
あなた
竹谷くんが生き物のこと大切に思ってるのがすっごい伝わってくるもん


その言葉が、やわらかく降ってきた。

まるで、長いあいだ閉じていた心のどこかを、
そっと撫でられたような感覚。



驚いて顔を上げると、彼女が無邪気な笑顔でこちらを見ていた。そのとき、風が吹いて彼女の髪が光を受けキラキラと輝きながら、やわらかく波打った。




__その瞬間、言葉が出なかくなった。


ただ、彼女の笑顔が眩しすぎて、胸の奥がじんわり熱くなる。


気づけば、耳が少し熱い。

あわてて視線を逸らしたけれど、耳の奥でまだその言葉が響いている。


少し彼女に視線を戻すと、彼女はニコニコとしながらこちらを見ていた。


いつも見ているその笑顔が、今日は特別に感じた。


竹谷八左ヱ門
( かわいい…)

あなた
長居しちゃったね。お詰してくれてありがとう。とっても楽しかった。じゃあ、お仕事頑張ってね!またあした!!



手を軽く振って去っていく彼女の背中から、オレは目が離せなかった。
竹谷八左ヱ門
…また、あした


思わず、誰にも聞こえないほどの声でつぶやいた。



ほんの数分の会話だったはずなのに、
胸の奥がずっとざわついている。


何度も言葉を思い出してしまう。

__「優しく接してるところ、八左ヱ門くんの素敵なところだと思うよ」


そんなふうに言われたのは、初めてだった。


生きものが好きだと言うたびに、
周りから笑われることの方が多かった。

だから、俺の“好き”は、誰かに見せるものじゃないと思ってた。


でも、あの子は__違った。

笑わなかった。引かなかった。

むしろ、まっすぐ見て、優しく肯定してくれた。


そのとき胸の奥で、何かがやさしく弾けた気がした。


こんなふうに誰かに見てもらえることが、
こんなに嬉しいなんて思わなかった。


__あの笑顔、思い出すだけで胸があったかくなる。

けど、それだけじゃない。
あの瞳の奥を、もっと知りたいって思ってる。
あの笑顔を、もっと近くで見たいって思ってる。


ウサギ小屋の柵に手をかけて、静かに息を吐いた。


夕陽の匂いが、少し甘く感じる。

竹谷八左ヱ門
……やばいな、これ

口に出して初めて、わかった。

これは“憧れ”でも“感謝”でもない。

胸の奥が、あの子を想うたびに温かくなる。
きっと__恋だ。


次に会ったら、どんな顔をすればいいんだろう。
あの笑顔を見たら、また耳が熱くなるに違いない。

でも、それでもいい。

もう、隠せそうにないから__



スクロールお疲れ様です!
読んで下さりありがとうございました!!


更新遅くなってすみませんでした。

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