学年一の名家の令嬢・華園澄華。
その取り巻きに左右を固められながら、あなたの下の名前は人気のない廊下の奥へ連れ込まれていった。
足音が石床に吸い込まれ、微妙な冷気が肌に触れる。
澄華は振り返り、形のいい顎を少し上げて微笑んだ。
美しい、そして残酷な笑顔。
濁りのない声だった
最後だけ、にっこりと意地の悪い笑みをのせて。
けれど、あなたの下の名前は眉をひそめるどころか、内心では少し感動していた。
心のなかで拍手すら送りそうな勢いで、
彼女は意外なほどダメージを受けていなかった。
その日の出来事は、それで終わった。
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翌朝、靴箱を開けた瞬間、そこに上履きがないことに
気づいた。
あなたの下の名前は一瞬きょとんとしたが
___次の瞬間、楽しげに微笑んだ。
周囲の女子たちがヒソヒソ笑う声が聞こえる。
しかしあなたの下の名前の心は、ほとんど揺れなかった。
楽しんでる場合ではないのだが、彼女は本気でワクワクしていた。
なぜなら、何万回と読んだ夢小説から、こういうのは、
明るく振舞っていた方が、良い方へと転がったのと、
ただ、ヒロインっぽくてテンションが上がってるので
ある。
とはいえ、友人関係は崩さなかった。
休み時間には勘右衛門や兵助と笑って話し、
三郎と八左ヱ門とは相変わらず距離がじわじわ
縮まっていく。
嫌がらせは次第にエスカレートした。
教科書の間に押し込まれるメモ、
机の中に捻り込まれたゴミ、
放課後に呼び出されての暴言、
髪を引っ張られる嫌がらせ。
髪を掴まれたときも、あなたの下の名前は心の中で思っていた。
楽しんでいる半面、(※Mじゃないです)
胸の奥でふつふつと湧き上がる“負けたくない”気持ちが、日に日に強くなっていった。
そう思えば思うほど、"ヒロイン"に近づいた気がした
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その日、クラスメイトの殆どは帰り、教室には夕陽が差し込んでいた。
あなたの下の名前は机に座り、破れたノートを広げる。
ページの隅は引き裂かれ、落書きがえぐられている。
それを見ても、悲しみよりも先に出たのは
___大きなあくびだった。
ぽつりと呟き、ぐいっと体を伸ばす。
その瞬間。
___ガタン。
教室の入り口の方で、椅子がわずかに揺れる音があった
あなたの下の名前はビクッとして振り返る。
目を丸くして、こちらを見ている兵助と目が合った
しかし、次の瞬間兵助は慌てて走り出してしまった
反射的に追いかけようと、廊下へ飛び出す。
そう叫ぶと兵助は足を止めて、驚いた表情で
こちらを振り返った。
あなたの下の名前は息を弾ませながら近づいた
入学式の時に鉢屋三郎へしかけた時と同じ、
"秘密の共有"で距離を縮めようとした。
まあ、この間三郎にバレてしまって、通用するか
見ておきたかったのだ。
___というのは建前で、ほんとは大きなあくびを
見られたのが恥ずかしいのである。
けれど___
その顔を見た久々知兵助は、一瞬だけ顔を歪ませた。
落ち着いた声だったが、その裏に隠された感情は重い。
その瞬間、あなたの下の名前はまたあくびが込み上げ、
慌てて俯いて、必死に隠しながらこっそり欠伸をした。
彼は、その小さな震えまで見逃さなかった。
心配そうに覗き込む声。
そう強く思い、
とにぱっと笑ってみせる。
だけど___兵助はまた、ほんの少し表情を歪めた
兵助はどちらかと言うと、静かな大和撫子系な子がタイプそうだもんな…どーしよ、
胸の奥がざわつき、次の言葉が突然怖くなった。
「ここは一旦引いて、作戦会議しよう」
と思い、
彼を置いて走り去ってしまう。
その背中を、兵助はただ黙って見つめていた。
彼の目には、彼女が思っている以上の感情が揺れていたのに___
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翌日
いじめの中心だった花園澄華は、
突如として転校が決まった
噂によれば、"誰かの力が働いた" らしい
いじめが表向きに消えた、その日の放課後。
今日1日中目が合わなかった兵助と、廊下ですれ違った
瞬間、視線が、ふと絡んだ。
___昨日のこと、やっぱり距離感……間違えた、よね。
彼女がそう思ったのは、ほんの一瞬だった。
なぜなら兵助は、目が合った途端、はっとしたように視線を逸らし、そのまま少しだけ足早に通り過ぎていったからだ。
耳が、赤い。
彼女の胸の奥で、ぱちん、と小さな音が鳴る。
確信には程遠い。けれど、昨日感じた
“失敗したかもしれない”
という不安が、わずかに揺らいだ。
┄┄翌朝┄┄
もしかしたら……と淡い期待を抱いて、朝早くに学校へ着くように行った。
教室へ入ると、期待していた通りに久々知兵助が自分の席で本を読んでいた。
わたしの足音に気づき、兵助は顔を上げる。
一瞬、どこか気まずそうに視線が揺れた。
それでも___
と声をかけると
と困ったように笑って言った。顔が良い。
わたしは自分の席である兵助の斜め後ろに腰を下ろし、ノートを開いた。
わざとらしくならない程度に、背筋を伸ばして勉強を始める。
しばらくして。
問題集を見つめたまま、あなたの下の名前の手が止まった。
どう考えても、答えが出ない。
困って眉を寄せていると、
低く穏やかな声がして、顔をあげると、読書していたはずの兵助がこちらを見ていた。
胸が、きゅっと鳴る。
わたしは高鳴る鼓動を必死に抑えながら、
兵助は少し考えるように視線をノートへ落とし、
そう言って、立ち上がった。
彼は迷いなく、わたしの隣___尾浜勘右衛門の席に腰を下ろし、机を彼女の方へ寄せる。
距離が、一気に縮まった。
低く落ち着いた声。
無駄がなく、分かりやすい説明。
兵助は説明を終えると、少し身を乗り出してこちらを
のぞき込んだ。
近い。
視線も、声も、全部が近い。
素直にそう答えると、自然と口角が上がった。
彼が自分のために時間を使ってくれたことが、ただただ嬉しい。
___でも
わたしは一度、すっと視線をノートに落とす。
そして、そのまま
1泊。顔を上げて彼の方を見た。
ここからは、無邪気で、まっすぐな笑顔を意識した。
言い切った途端、恥ずかしさが一気に込み上げてきて、わたしはは慌ててノートへ視線を戻した。
___言いすぎたかも。
そう思ってから、反応が気になって、そっと横を見る。
久々知兵助は。
片手で鼻と口を覆うようにして、顔を隠していた。
指の隙間から見える頬も、耳も、はっきりと赤い。
言い切った途端、恥ずかしさが一気に込み上げてきて、わたしは慌ててまたノートへ視線を戻した。
彼は何か言おうと口を開きかけた、そのとき。
廊下の向こうから、登校してくる生徒たちのざわめきが聞こえてきた。
はっとしたように兵助は立ち上がり、
何事もなかったかのように、自分の席へ戻っていく。
本を開き、いつもの無表情。
けれど、その耳だけが、まだ少し赤いままだった。
私はそれを見て、胸の奥で小さく息をのんだ。
ページをめくる手が、少しだけ震えているのが見えて、
わたしの憶測は確信に変わった
スクロールお疲れ様です!
読んでくださりありがとうございました!!
ごめんなさい、勘右衛門から兵助に変えちゃいました。
次は 久々知兵助side で書きます!勝手な変更ごめんなさい💦












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!