祈りは、いつから力になったのだろう
それとも――力だからこそ、祈りと呼ばれるようになったのだろうか
その日は、よく晴れていた
城下町は朝から賑やかで、通りには甘い団子の匂いと、鉄を打つ音が混じっている
人の声が溢れて、笑い声が転がって――
戦の世であることを、ほんのひととき忘れさせるほどだった
姫は目を輝かせて、足を止める
飾られた布、並ぶ焼き菓子、色とりどりの細工物、、、
護衛の者が、少しだけ距離を保って歩いている
近すぎず、遠すぎず
姫は気づいていなかった
人混みの中、自分に向けられる視線が一つや二つではないことを
甘い菓子を受け取ろうと手を伸ばした、その瞬間
足元を、柔らかな何かがすり抜けた
振り向いても、そこには猫が一匹いるだけだった
不思議と、胸が落ち着いた
その少し先、屋根の上では、風を切る影が円を描いている
空を見上げた姫は眩しそうに目を細めただけで、それが何を意味するのかは考えなかった
ただ――
背後から冷たい視線が一瞬だけ、肌を撫でた
ぞくり、と背筋が震える
振り返った先には、白い布をまとった商人
あるいは、旅人
あるいは――違う何か
その視線は、姫そのものではなく、“何かを量るように”向けられていた。
姫は小さく笑って、前を向く
そのとき、風の中に、微かに混じる匂いがあった
鉄と、血と、――まだ起きていない戦の気配
だが、姫はそれを知らない
この何気ない城下町の一日が、境界であったことを
そして、自分のすぐそばにいる存在が、ただの動物ではないことを
月だけが、静かに見ていた












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!