そう言った私に、ジョンハンは少し安心したように笑った。
それだけの会話。
それだけのはずなのに。
なぜか胸の奥に小さな引っかかりが残った。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
その日の帰り道。
私は一人で駅へ向かっていた。
頭の中では、さっきの会話が何度も繰り返されている。
『無意識だった。』
ジョンハンはそう言った。
でも。
普通、そんなことあるだろうか。
さん付けで呼んでいた相手を、急に名前で呼ぶなんて。
しかも自然に。
まるで昔からそう呼んでいたみたいに。
私は小さく呟いた。
けれど違和感は消えなかった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
夜。
ジョシュアと夕食を食べに行った。
大学近くのいつもの店。
落ち着く場所だった。
私は少し考える。
変わったこと。
たくさんある気がした。
夢を見ること。
頭痛。
思い出せない記憶。
ジョンハンのこと。
だけど。
結局そう答えた。
ジョシュアは少しだけ私を見つめる。
私は笑った。
ジョシュアもそれ以上は聞かなかった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
食事を終えた帰り道。
二人で並んで歩く。
夜風が少し冷たかった。
突然そう言われた。
私は驚く。
ジョシュアは苦笑した。
私は言葉に詰まる。
そんなに分かりやすかっただろうか。
そう答えると、ジョシュアは優しく頭を撫でた。
その手は温かかった。
安心する。
なのに。
胸の奥のもやもやだけは消えなかった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
その夜。
私は久しぶりに高校時代のアルバムを開いた。
家族が保管していたものだ。
何度見ても思い出せない。
それは変わらない。
ページをめくる。
文化祭。
体育祭。
修学旅行。
たくさんの写真。
楽しそうに笑う自分。
でも。
他人の思い出を見ているようだった。
ページをめくる手が止まる。
集合写真だった。
たくさんの生徒が写っている。
私は一人ひとりの顔を見ていく。
その時だった。
写真の端に映る男子生徒を見た瞬間――
胸が大きく跳ねた。
知っている。
そんなはずないのに。
見覚えがある。
私は思わず写真に顔を近づけた。
けれど。
画質が悪くて顔まではよく見えない。
ただ。
その姿を見た瞬間。
胸が苦しくなった。
懐かしくて。
切なくて。
理由の分からない感情が込み上げる。
私はそっとアルバムを閉じた。
そして知らなかった。
その写真の端に映っていたのが――
ジョンハンだったことを。















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!