第4話

聴取
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2020/10/03 15:00 更新
「……くそ、胸糞悪い」


 何百枚にもなる『脅迫状』からランダムに数枚を読んだ。どれもこれも『早く死んでくれ』だの『お前を殺したくてたまらない』だの、殺意と悪意に満ちた言葉が並んでいた。

 舞浜さんは苦しげに顔をしかめれば、読み終わった『脅迫状』を箱に戻した。全てを改めた訳では無いが、この調子ではどの手紙も同じだろう。


「キリさん、これを送り付けやがった犯人をとっ捕まえてやらねぇと。死んだ神田が浮かばれねぇや」

「あぁ、とりあえず話を聞きに行くか」

「おう、車出すぜ、乗りな」


 どこの誰に、と言わずとも舞浜さんはさっさとパトカーを走らせてくれた。着いた先は警察署。話を聞くのは勿論───


「はじめまして、『百瀬(モモセ) 茜(アカネ)』さんですね?」


 取り調べ室前の廊下で、一人ベンチに座っている女性に声をかけた。彼女は不思議そうにこちらを見つめると、慌てたように立ち上がる。

 肩ほどまで伸びた黒髪は、最近パーマでもかけたのか、ふわふわと巻かれている。春らしいカーディガンを着た、穏やかそうな顔立ちの女性だった。


「は、はい。えっと……」

「舞浜 雄大、刑事をやっております」

「同じく、桐谷 優司(ユウジ)と申します」


 揃って警察手帳を見せる。署内なので疑われはしないだろうが、念の為、だ。


「百瀬さん、お疲れのところ申し訳無いのですが、神田さんについてお聞きしたい事がありまして」


 神田の名前を聞くと、表情を曇らせる。悲しげと言うよりは、辛そうな表情。まだ気持ちの整理がついていないのだろう。


「とりあえず、落ち着ける所にでも座りましょうか」


 悲痛な面持ちの彼女を気遣ってか、舞浜さんが署内の休憩スペースまで案内する。自動販売機で俺達はコーヒーを、彼女は緑茶を買った。


「渋いですね」


 と声をかけると、彼女はクスリと笑ってみせる。


「小さい頃から好きなんです。苦いのとか」


 どうやら、落ち着きはしたようだ。テーブルを囲むように座ると、少しの間沈黙が訪れる。

 最初に口を開いたのは、百瀬さんだった。


「……神田くんを見つけたのは、今日の朝頃です。同じ大学なんですけど、最近来てなくて」


 警官から聞いた話と照らし合わせながら聞く。確かにここ数日間、神田は大学に行っていなかったようだ。


「それで、私は合鍵を持ってたので、部屋に行ってみたんです。電話しても、出なかったから」


 神田の携帯電話には、不在着信が何件も入っていた。彼女だけでは無く、神田の友人からの留守番電話も何件かあった。

 『元気か?』とか『連絡出来たらくれよ。また飲みに行こう』など、神田の健康を案じたり、心配する声ばかりが残されていた。


「神田くん、もう………」


 消え入りそうな声で、涙を堪えるように俯いた。これほど周囲に愛されながら、彼はなぜ自殺をしたのだろう。

 いや、一人だけ彼を憎んでいた者がいるのだった。おびただしい数の『脅迫状』その送り主が。

 神田さんの死を哀しむ人のためにも、その外道を探し当てねばならない。そんな思いで、俺は百瀬さんへの聴取を始めた。

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