「……くそ、胸糞悪い」
何百枚にもなる『脅迫状』からランダムに数枚を読んだ。どれもこれも『早く死んでくれ』だの『お前を殺したくてたまらない』だの、殺意と悪意に満ちた言葉が並んでいた。
舞浜さんは苦しげに顔をしかめれば、読み終わった『脅迫状』を箱に戻した。全てを改めた訳では無いが、この調子ではどの手紙も同じだろう。
「キリさん、これを送り付けやがった犯人をとっ捕まえてやらねぇと。死んだ神田が浮かばれねぇや」
「あぁ、とりあえず話を聞きに行くか」
「おう、車出すぜ、乗りな」
どこの誰に、と言わずとも舞浜さんはさっさとパトカーを走らせてくれた。着いた先は警察署。話を聞くのは勿論───
「はじめまして、『百瀬 茜』さんですね?」
取り調べ室前の廊下で、一人ベンチに座っている女性に声をかけた。彼女は不思議そうにこちらを見つめると、慌てたように立ち上がる。
肩ほどまで伸びた黒髪は、最近パーマでもかけたのか、ふわふわと巻かれている。春らしいカーディガンを着た、穏やかそうな顔立ちの女性だった。
「は、はい。えっと……」
「舞浜 雄大、刑事をやっております」
「同じく、桐谷 優司と申します」
揃って警察手帳を見せる。署内なので疑われはしないだろうが、念の為、だ。
「百瀬さん、お疲れのところ申し訳無いのですが、神田さんについてお聞きしたい事がありまして」
神田の名前を聞くと、表情を曇らせる。悲しげと言うよりは、辛そうな表情。まだ気持ちの整理がついていないのだろう。
「とりあえず、落ち着ける所にでも座りましょうか」
悲痛な面持ちの彼女を気遣ってか、舞浜さんが署内の休憩スペースまで案内する。自動販売機で俺達はコーヒーを、彼女は緑茶を買った。
「渋いですね」
と声をかけると、彼女はクスリと笑ってみせる。
「小さい頃から好きなんです。苦いのとか」
どうやら、落ち着きはしたようだ。テーブルを囲むように座ると、少しの間沈黙が訪れる。
最初に口を開いたのは、百瀬さんだった。
「……神田くんを見つけたのは、今日の朝頃です。同じ大学なんですけど、最近来てなくて」
警官から聞いた話と照らし合わせながら聞く。確かにここ数日間、神田は大学に行っていなかったようだ。
「それで、私は合鍵を持ってたので、部屋に行ってみたんです。電話しても、出なかったから」
神田の携帯電話には、不在着信が何件も入っていた。彼女だけでは無く、神田の友人からの留守番電話も何件かあった。
『元気か?』とか『連絡出来たらくれよ。また飲みに行こう』など、神田の健康を案じたり、心配する声ばかりが残されていた。
「神田くん、もう………」
消え入りそうな声で、涙を堪えるように俯いた。これほど周囲に愛されながら、彼はなぜ自殺をしたのだろう。
いや、一人だけ彼を憎んでいた者がいるのだった。おびただしい数の『脅迫状』その送り主が。
神田さんの死を哀しむ人のためにも、その外道を探し当てねばならない。そんな思いで、俺は百瀬さんへの聴取を始めた。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。