第27話

27曲目
68
2026/07/11 15:14 更新

その日は、いつもより夕焼けの赤が濃い放課後だった。


いつものように客席の特等席でワンダショのショーを観終えた私は、みんなに挨拶をして、ゆっくりと帰路につこうとしていた。


すると、ステージの片付けをしていた4人が、お互いに顔を見合わせて小さく頷き合った。


それから、意を決したように私の方へと歩み寄ってきたのだ。
鳳 えむ
鳳 えむ
あの、ね!あなたちゃん!

えむちゃんが、いつもより少し真剣な、でもとびきり温かい瞳で私の両手をぎゅっと握りしめた。
鳳 えむ
鳳 えむ
わたしたちね、ずーっと考えてたんだ
鳳 えむ
鳳 えむ
……あなたちゃんと一緒にショーがしたいなって!
えむちゃんの弾けるような言葉が、夕暮れのステージに響いた
(なまえ)
あなた
…えっ…

その瞬間、私の心臓が冷たく跳ね上がった。


驚きで見開いた私の視界に、天馬くん、寧々ちゃん、そして類の真剣な顔が映り込む。
天馬 司
天馬 司
あぁ、その通りだ来栖!
天馬 司
天馬 司
お前が客席で、本当に愛おしそうに俺たちのステージを見つめる姿を、俺たちは何度も見てきた!
天馬 司
天馬 司
お前がもう一度輝けるステージを、俺たちが全力で用意しよう!

草薙 寧々
草薙 寧々
……最初は、無理させちゃうかなって迷ったんだけどね

寧々ちゃんも優しく微笑みながら、一歩前に出る
草薙 寧々
草薙 寧々
でもあなたが少しでも舞台を好きって気持ちがあるなら、応援したいの
草薙 寧々
草薙 寧々
セリフがなくても、声が出しづらくても、輝けるステージを類なら絶対に作ってくれるから

みんなの、どこまでも真っ直ぐで、温かい善意。


それが伝わってくるからこそ……


私の胸の奥から、どす黒い恐怖が、まるで泥のようにせり上がってきた
(なまえ)
あなた
(私が、舞台に……?)

頭の裏で、あの日のお母さんの冷たい声が、お父さんの失望した視線が、フラッシュバックする。
母親
声が出なくなったなら、もう用済みよ
父親
期待していたのに、お前にはがっかりだ
(なまえ)
あなた
っ…

喉が、きゅっと拒絶するように締まる。


みんなのことは大好き。


みんなのショーも大好き。


でも、もし私がステージに立って、またあの時みたいに足がすくんで、何もできなくなってしまったら?


こんなに優しいワンダショのみんなを、私のせいでがっかりさせて、嫌われてしまったら?


そう思うと、怖くて怖くて、たまらなくなった。
(なまえ)
あなた
ごめ、んなさい……私……っ

私は小さく首を振ると、えむちゃんに握られていた手を、そっと、でも拒絶するように引き抜いてしまった。


一歩、後ろへと後退りする
(なまえ)
あなた
…うれしい…よ
(なまえ)
あなた
みんなが、そう言ってくれるの、すごく嬉しい、けど……
(なまえ)
あなた
でも、私は…もう、あの頃の『舞姫』じゃないし…声も、ちゃんと出ないから……
(なまえ)
あなた
きっと、みんなの足を引っ張っちゃう……

俯いて、自分のスカートの裾をぎゅっと握りしめる。 みんなの顔が見られない


せっかく誘ってくれたのに、拒絶するような真似をして、最低だ。


静まり返った客席に、類の静かな足音が近づいてきた。


類は、怯える私を安心させるように、そっと私の目線に合わせて腰を落とした。


その黄色の瞳には、怒りも失望もなく、ただどこまでも深い優しさだけが湛えられている。
神代 類
神代 類
…焦らなくていいんだよ、あなた

類は優しく、私の震える手を包み込んだ。
神代 類
神代 類
君が何を恐れているのか、僕には少し分かる
神代 類
神代 類
…すぐに『はい』と言えないくらい、君がショーを重く、大切に思っていることもね
神代 類
神代 類
だから、今すぐ返事をしなくて大丈夫さ

類の言葉に、えむちゃんも「うんっ!」と大きく頷いて、もう一度一歩近づいてくれた。
鳳 えむ
鳳 えむ
ごめんね、あなたちゃん
鳳 えむ
鳳 えむ
びっくりさせちゃって。無理に今すぐじゃなくていいの!
鳳 えむ
鳳 えむ
わたしたちは、あなたちゃんが“やりたい!”って思えるまで待つからね!!
天馬 司
天馬 司
あぁ! 気が向いた時に、いつでも声をかけてくれ!
草薙 寧々
草薙 寧々
あなたのペースでゆっくり考えてみて

天馬くんも寧々ちゃんも、本当に優しく私を見守ってくれている。
(なまえ)
あなた
みんな…

差し伸べられた手の温かさに、胸の奥がキュッと切なく痛む。


断ってしまったのに、それでも私を待っていると言ってくれる。


私は差し出されたみんなの手を見つめながら、複雑な想いを胸に、小さく俯くことしかできなかった。

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