その日は、いつもより夕焼けの赤が濃い放課後だった。
いつものように客席の特等席でワンダショのショーを観終えた私は、みんなに挨拶をして、ゆっくりと帰路につこうとしていた。
すると、ステージの片付けをしていた4人が、お互いに顔を見合わせて小さく頷き合った。
それから、意を決したように私の方へと歩み寄ってきたのだ。
えむちゃんが、いつもより少し真剣な、でもとびきり温かい瞳で私の両手をぎゅっと握りしめた。
えむちゃんの弾けるような言葉が、夕暮れのステージに響いた
その瞬間、私の心臓が冷たく跳ね上がった。
驚きで見開いた私の視界に、天馬くん、寧々ちゃん、そして類の真剣な顔が映り込む。
寧々ちゃんも優しく微笑みながら、一歩前に出る
みんなの、どこまでも真っ直ぐで、温かい善意。
それが伝わってくるからこそ……
私の胸の奥から、どす黒い恐怖が、まるで泥のようにせり上がってきた
頭の裏で、あの日のお母さんの冷たい声が、お父さんの失望した視線が、フラッシュバックする。
喉が、きゅっと拒絶するように締まる。
みんなのことは大好き。
みんなのショーも大好き。
でも、もし私がステージに立って、またあの時みたいに足がすくんで、何もできなくなってしまったら?
こんなに優しいワンダショのみんなを、私のせいでがっかりさせて、嫌われてしまったら?
そう思うと、怖くて怖くて、たまらなくなった。
私は小さく首を振ると、えむちゃんに握られていた手を、そっと、でも拒絶するように引き抜いてしまった。
一歩、後ろへと後退りする
俯いて、自分のスカートの裾をぎゅっと握りしめる。 みんなの顔が見られない
せっかく誘ってくれたのに、拒絶するような真似をして、最低だ。
静まり返った客席に、類の静かな足音が近づいてきた。
類は、怯える私を安心させるように、そっと私の目線に合わせて腰を落とした。
その黄色の瞳には、怒りも失望もなく、ただどこまでも深い優しさだけが湛えられている。
類は優しく、私の震える手を包み込んだ。
類の言葉に、えむちゃんも「うんっ!」と大きく頷いて、もう一度一歩近づいてくれた。
天馬くんも寧々ちゃんも、本当に優しく私を見守ってくれている。
差し伸べられた手の温かさに、胸の奥がキュッと切なく痛む。
断ってしまったのに、それでも私を待っていると言ってくれる。
私は差し出されたみんなの手を見つめながら、複雑な想いを胸に、小さく俯くことしかできなかった。
















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!