第28話

28曲目
72
2026/07/14 10:32 更新
(なまえ)
あなた
…私、どうしても一歩が踏み出せないの、ミク

ワンダショのみんなに誘われた日の夜。


気がつくと私は、いつもの“独りぼっちのセカイ”に佇んでいた。


仄暗い光をたたえる、どこまでも静かな海。


そこにポツンと立つ赤い鳥居の根本で、和服姿のミクは、濃紺の袖を潮風に揺らしながらじっと私の話を聞いてくれていた。
(なまえ)
あなた
類たちと、一緒にショーがしたい。本当は……
(なまえ)
あなた
また、あの眩しい舞台の上で笑いたいって思った
(なまえ)
あなた
でもね……怖いの

私は水面に自分の顔が映るように、ぽつぽつと言葉を落としていく。
(なまえ)
あなた
もし私がまた失敗したら…
(なまえ)
あなた
みんな、どこかへ行っちゃうんじゃないかって…
(なまえ)
あなた
そう思ったら、どうしても頷けなかったの。私は、みんなに嫌われるのが一番怖い……

完璧じゃなければ、愛されない


声を失ったあの日から、私の心に深く突き刺さったままの棘が、今も痛む。


涙が足元の水面に落ちて、小さな波紋を広げた。


ミクは静かに水の上を歩き、私の目の前でそっと腰を落とした。


そして、私の凍えた手を、優しくて冷たい、けれどどこか温かい両手で包み込んでくれる。
初音 ミク
初音 ミク
あなた、あの日、類たちがあなたのためにしたショーを覚えている?
(なまえ)
あなた
…うん。声を失くした、女の子の話
初音 ミク
初音 ミク
あの最後、女の子はどうなった?

ミクの問いかけに、あの日の記憶が鮮明に蘇る。


声が出ないままの女の子の手を引いて、旅の役者たちは楽しそうに笑っていた。


そして、類のセリフが、頭の中で再生される
神代 類
神代 類
君の心というゼンマイは、まだちゃんと動いている
神代 類
神代 類
……さぁ、僕たちと一緒に、もう一度新しいステップを踏もうじゃないか
初音 ミク
初音 ミク
あの人たちはね、あなたの『声』や『完璧な演技』だけを見て、一緒にいたいって言っているわけじゃないんだよ

ミクは、深海のような静かな瞳で、真っ直ぐに私を見つめた。
初音 ミク
初音 ミク
あなたが傷ついていることも、声が出ないことも、全部知った上で、それでも『あなたと一緒にいたい』って手を伸ばしてくれたの
初音 ミク
初音 ミク
お母さんたちとは、全然違う
(なまえ)
あなた
ミク…
初音 ミク
初音 ミク
完璧じゃなくても、壊れていても……
初音 ミク
初音 ミク
あなたがあなたのままでいるだけで、類たちは嬉しいんだよ
初音 ミク
初音 ミク
あなたが自分の心に、嘘をついていなければね

ミクはそっと手を離すと、海の向こうに立つ、一本の赤い鳥居を指差した。
初音 ミク
初音 ミク
前も言ったけど、まだ怖いなら、大きな声は出さなくてもいい
初音 ミク
初音 ミク
大きく一歩を踏み出さなくてもいい
初音 ミク
初音 ミク
ただ、自分の心というゼンマイを、もう一度だけ、少しだけ巻いてみて

初音 ミク
初音 ミク
あなたがその鳥居をくぐって、新しい物語を始めるのを……みんな、ずっと楽しみに待っているよ

潮風が、ミクのツインテールと和服の裾を大きく揺らす。


ミクの優しい微笑みに背中を押されるように


私の胸の奥で、カチリ、と小さなゼンマイが静かに動き出したような気がした。

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