昔、そこでは“魔女裁判”が行われていた。
彼女は、とある人間に呼び出されたんだって。
『…なに?!』
「…………あ、」
「…あんた、悪魔?」
『どういうこと、なの…』
足元に描かれた魔法陣、
床に等間隔に置かれる蝋燭は蝋を垂らしている。
分厚い本を抱えて重い前髪からこちらを冷たい、
生気のない瞳で見据える人間。
状況を理解するには、余りにも簡単すぎる。
『私を…召喚したの?』
「うん、そう。」
『……なんで』
なんで、は別に呼び出した理由なんかじゃなくて。
魔法陣で呼び出されるのは下級の悪魔だと決まっていたから。
それが、Dominantの彼女が呼び出されてしまった。
魔法陣の不備か、神の思し召しか。
それとも………この人間の、
才能か、感情か。
「悪魔契約、させてくれるんでしょ?」
「…美しければ」
『…っ、』
その瞬間、理解した。
この人間は、わざとDominantである私を呼んだのだと。
力の強いDominantと悪魔契約することで、
その怨念をより強固にし、滅亡へ運ぶために。
『…何がしたいの』
「………辞めさせるんだ」
『え?』
「…今、この世界では“魔女裁判”が行われている」
「あんたも知ってるだろうけど、魔女裁判の対象は
女だけじゃない、男も…。」
「何かの罪にかこつけて、
悪魔と契約しただのなんだの無理やり因縁付けられて、
虚偽の証拠と抵抗のできない自白、最終的にはみんな火炙りさ」
『…そうね』
「…俺の兄さんも、火炙りにされたんだ」
「ここと同じ作りの部屋がバレて、
悪魔研究をしていた兄さんは捕まった」
「でも、兄さんはまだ悪魔契約をする前の段階だった」
「だから俺が証明するんだ」
『…自らの悪魔契約を以て、
悪魔契約をしていないのに火炙りにされる人間を救おうって?』
「…そう、なかなかに物わかりがいいね、さすがDominantだ」
『やっぱり…わかってて私を呼んだの』
「そうだよ、これは」
「Dominantを呼ぶ、召喚魔法陣だ」
俺の魂を捧げるから、俺を君と同じにして。
俺が、こんな世界を変えるんだ。
そう告げた彼の目は途轍もなく綺麗で、
彫刻みたいに美しいその顔に思わず手を伸ばした。
まだ、まだ食べるには青すぎる。
どうせなら、少年がもっと熟してから、
美味しくなるまで育ててから食べたいものだ。
私がそれまでは彼のそばで、彼を見守る。
『…1ヶ月後のこの日。』
「え?」
その日、悪魔契約をしましょう。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!