昼休みの講堂で、
俺はいつものように仲間に囲まれている。
テヒョンも斜め前の席で
他の仲間と他愛もない話で盛り上がっている。
こうやって、テヒョンと一緒に過ごす時間が
自然と増えてきたけど、
いつも他の誰かと一緒で
テヒョンにとっての俺は、
単なる友達の中の1人…
ジミンのような「特別」にはなれない。
それにしてもジミンって
やっぱりすごい。
どんなに重い雰囲気でも
ジミンがそこにいるだけで
空気が変わるんだ。
みんなが口々に言う。
「ジミンがそう言うなら…」
「ジミンの頼みなら」 って。
昔からそう、
情に熱くて、男気がある。
今も昔も
やっぱりジミンには敵わない。
俺だって…
周りの人にはいつも恵まれていた。
友達だって多い方だし、
彼女だって今まで何人も…
なのに、どうしてテヒョンの事になると
こんなに臆病なんだろう…
自分にまるで自信が持てなくなる。
俺は、テヒョンにどんな風に思われてるんだろう…
嫌い…ではないよな…?
だって、この前好きって言ってくれたし…
まぁ、それは…
ちょっと抜けてる俺が好き…って事だけど。
何だっていいんだ…
今は、テヒョンの心の片隅にでも
俺がいたら嬉しいから。
ジミンが教授からの呼び出しから戻ると、
みんなが笑いながらジミンを迎える。
肩を組みながらジミンは
いつも通りに俺の隣の席に座る。
何だかんだ言っても
コイツの横が一番落ち着くんだよな。
ジミンの笑顔を見てると
心があったかくなるって言うか
自然体の俺でいられる…。
ほら、目を見つめられても
全然見ていられるし。
それに比べて…
テヒョンに見つめられると
心臓がギュッと掴まれるみたいに
苦しくなって…
ドキンッ…
前に座るテヒョンに視線を移すと
さっきまで前を向いて
仲間と話していたテヒョンが
俺たちを見上げていた。
いつから見てた…?
一瞬、俺の方を見たかと思って
ドキっとしたけど、
視線はすぐに横にいる
ジミンに向けられた。
ジミンを見るテヒョンの優しい表情。
子供が母親を見つけたように
安心したような瞳…
その視線の意味が
恋愛とは違う物だって、ちゃんとわかってる。
ほらね。
やっぱりジミンは特別なんだ。
テヒョンは鞄からおにぎりを取り出して
ジミンに差し出す。
あ…
ジミンの大きな声で我に返る。
気がついたら、俺はジミンに差し出された
おにぎりを、テヒョンの手ごと握り締めていた。
パッと手を離して
テヒョンの顔を見ると
目をまん丸くして固まっている。
俺、マジで何してんだろ…
でも…テヒョンの作ったおにぎり…
他の人に食べさせたくないって思ってしまったんだ。
それが例えそれが
親友だとしても…
テヒョンが俺に向かって
おにぎりを持った手を差し出す。
ドクン…ドクン…
あ…やば…
えっと…
つい力が入って
思ったよりも大きな声を出してしまった…
みんなの視線が俺に集まっているのを
痛いほど感じる。
でも…今はテヒョンから視線を逸せない。
俺、変な奴だと思われてるよな…
少しの間を置いて
テヒョンが何か言いたげに口を開こうとした時、
ジミンの声が響く。
急に堪えきれなくなったように
テヒョンがケラケラと声をあげて笑い出す。
みんな呆気に取られたような顔で
テヒョンを見つめる…
テヒョンにつられて、みんなも笑い出す。
びっくりした…
テヒョンって、こんな笑い方もするんだ。
新しい一面を知る事が出来て
胸がドキドキしてる。
笑顔のテヒョンは少しあどけなくなって
何だか可愛い。
そんなテヒョンを見て、
俺はすごく嬉しくなったけど…
あの笑顔を俺だけの前で
見せて欲しいって思ってしまう。
テヒョンの事を
独占する権利も、資格もないのにさ…
どんどん欲張りになっていく。
恋って…大変。
ジミンは立ち上がり、俺の肩をポンっと叩いていく。
ごめん…
本当は腹なんか空いていないのに。
手に残されたおにぎりを見つめながら
ちょっとだけ罪悪感が残る。
声に反応して視線をあげると、
テヒョンが頬杖をついて俺を見上げていた。
うそ…
そんなストレートに聞かれるなんて…
あ… おにぎり…
テヒョンの事かと思った…
特別な感情を持っているのは
俺の方だけなんだから…
テヒョンの何気ない一言に
俺の心がジェットコースターみたいに
揺れ動くって知らないだろ…?
テヒョンが俺の名前を呼ぶ…
大きな瞳が、じっと俺を見つめる…
テヒョンの視線が
今は他の誰でもない
俺だけにむけられている…
湧き上がってくる想いを
堪える事ができなくなってくる…
テヒョン…
お前の事が好きなんだ…
テヒョンの瞳が左右に揺れて
一瞬時が止まったように見つめ合う。
俺、今上手く話せてる…?
ちゃんと笑えてるかな。
良かった…テヒョンも笑ってくれた。
大丈夫。
ちゃんと誤魔化せてるよな…
テヒョンはふと考え事をするような
表情を見せる。
テヒョンのこのゆっくりした話し方や
会話のペースがすごく心地よく感じる…
パッと何か思いついたように目を開き、
口を尖らせるような表情で
テヒョンが俺に尋ねる。
何で急にキンパ…?
ドクン…
ドクン、ドクン…
あ…
すごい大きな声出してしまった…
テヒョン…変に思ったかな?
だって…嬉しかったから。
テヒョンは少し間をおいて
右手の小指を立てて、俺に差し出す。
ドクンッ!
鼓動がさらに速くなる。
指切り…
何年ぶりだろう。
緊張で震える小指を
テヒョンの小指に絡める。
どうか…
この胸の鼓動がテヒョンに
気づかれませんように。
突然声がして横を見ると、
ジウンが俺の隣に座って
俺とテヒョンの2人を交互に指差していた。
テヒョンは片眉をあ上げて、
少しおどけた表情を見せてから、
前に向き直る。
約束か…
テヒョンと初めての約束…
お前にとっては何でもない事なんだろうな。
でも…俺にとっては
身体が震えるほど嬉しい事なんだ。
テヒョンと絡めた小指に
視線を落とす。
心にじわりと温かいものが広がっていく…
たしかに…
ちょっとムキになりすぎたかも…
ジウンが節目がちに
小さな声で何か呟いたけど、よく聞こえない。
いつも笑顔のジウンと
雰囲気が違うから
少しだけ気になる…
いつもの元気なジウンに戻った…
さっきの表情は何だったんだろう。
再び、前に座るテヒョンに視線を向ける。
この席は結構好きなんだ。
テヒョンの事をずっと見ていられるから…
いつか…
今じゃなくていいんだ。
隣に座って、肩を組んで笑いあったり
たまには喧嘩をしたり。
優しい目で見つめられて
俺も自然に見つめ返せるような
そんな関係になれるかな…?
その時は、隣に座らせて…
俺の今の望みは
テヒョンにとっての
「特別」な存在になりたいんだ…
だから…テヒョン。
もっと俺をみてよ…
お前に見つけてもらえるような
俺になるからさ…
テヒョン…好きだよ。
テヒョンのおにぎりを机において
スマホのカメラを構える。
カシャ…
また一枚…大切なモノが増える。

















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!