第3話

緑×青【恋とBBQ】
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2026/03/28 03:30 更新
※緑視点(赤×青 恋人設定)


俺がまだ新入社員だった頃、仕事を一から丁寧に教えてくれたのは正門くん。

元は『さん』呼びやってんけど、


正門「"さん"やと堅苦しくない?付けんでええよ」


と言われてから、自然と正門くん呼び状態。


いつの間にか、目で追う存在になっていた。


でも、正門くんを目で追うと、必ず視界に入ってくる人がいる。

それは五年前に正門くんと同期入社していた末澤さん。
仕事は完璧にこなすが、正門くんとタイプは真逆。


正門くんは総務で縁の下の力持ち。頼まれたことは断らず、気づいた時には誰かのフォローに回っている。


一方の末澤さんは営業成績トップで、顔が整っている。話が上手く、自然と人が集まるタイプ。


今日の会社のBBQも、まさにそのまま。


食事スペースから少し離れた所に設置された焼き台。
そこにはずっと正門くんが立っていた。

若手の自分が焼くべきだと思って声を掛けた。


佐野「代わります。向こうでゆっくりしてください」


すると、正門くんはいつもの柔らかい笑顔で答える。


正門「若いねんから、お腹いっぱい食べてきや〜」


佐野「えっ、でも…」


正門「ええから。肉無くなったら呼ぶわ」


その言い方があまりにも自然で、俺は引き下がるしかなかった。


テーブルに戻ると同期の小島くんがニヤニヤしてる。


小島「また断られたん?笑」


佐野「うるさい、、」


小島「ほんま優しいよな」


わかる。ほんまに優しいねん。

焼き台に長時間立っている正門くんは、煙が上がる度に目を細めながら、焦げないように丁寧に肉を返している。

俺はノンアルコールを片手にその様子をぼんやりと眺めていた。


一方で、末澤さんは輪の中の中心に立っていた。


『末澤さーん!写真いいですか?』

後輩に囲まれ、上司に肩を組まれ、写真を撮られ、いかにも"主役"って感じ。


…でも、ふと気づいた。


末澤さんの視線は時々、正門くんの立っている焼き台のほうに向けられている。

最初は気のせいと思っていたが、三回目で確信した。


…見てるな、あれ。


正門くんはその視線には気づいておらず、網の上の肉と
周りの「ありがとう」で忙しそうにしていた。


小島「なぁ、あれ見てみ」


二人の様子を指摘する小島くん。


佐野「…見てるな」


小島「やろ?さっきからずっとやで」


佐野「同期ってだけであんなに見るもんなん?」


小島「あれは見すぎやな」


なんて会話をしているタイミングで


末澤「俺、ちょっと抜けます」


末澤さんが自然と輪の中から抜ける。

俺も含め、何人かがその後ろ姿を目で追っていた。


真っ直ぐ向かった先は予想通り、焼き台。


末澤「まだやってんの?」


末澤さんの声と表情が明らかに柔らかい。

正門くんは驚いた顔で振り返る。


正門「うん。意外と人気で」


末澤「代わる」


正門「もう少しで落ち着くから大丈夫。みんな待ってるやろ?」


末澤「待ってへんわ。あいつら肉しか見てへん」


正門くんの手元は常に焼き台の上で動いていたため、トングを持つ手が赤くなっていた。


末澤「手赤くなってるやん」


正門「そんな大したことあらへんよ」


末澤「交代」


そう言ってトングを正門くんの手から自然に末澤さんの手へと持ち替えていた。


正門「えっ、ちょっ…」


正門くんは一瞬だけ迷って、それから小さく笑って下がった。


末澤「ちゃんと食べてる?」


正門「…これから食べる」


末澤「はい」


焼けた肉を皿に盛り、正門くんに渡すその動きがあまりにも自然すぎる。


そう思っていると、隣でお肉を頬張っていた小島くんが肘でつついてきた。


小島「なぁ、今の見た?」


佐野「うん。…距離近いなぁ」



同期やから仲良いのは100歩譲って分かる。
でも、あれは "仲良い" の範囲では収まらない。


焼き台では末澤さんが正門くんのお皿をチラチラ確認しながら、お肉を焼いている。

正門くんも、末澤さんがお肉を焦がしそうになると、
横でフォローしている。


正門「そのお肉、裏返した方がいいかも」


末澤「わかってる」


ちゃんと従う末澤さん。なにを見せられてんねん、、


さっきまで中心に立っていた末澤さんはこっちに戻る様子はなく、社員が呼びに行っても「あとでな」と手を振るだけ。

そして、正門くんが美味しそうに食べる姿を見て、満足そうな顔をしている。


小島「あれは確信やな」


佐野「付き合ってる…?」


小島「付き合ってるやろ。あれ」


特別な会話はなく、触れもしない。でも、空気が違う。


俺はノンアルを一口飲みながら、静かに思う。


あの二人には、俺の知らない五年分の時間がある。


俺がもっと早く入社していたら、正門くんの隣に立っていたのは俺かもしれない…。

今更、後悔しても遅い。

末澤さんが正門くんの隣に立っている姿は悔しいくらい自然で、最初から俺の入る隙間なんて無かった。


佐野「はぁ…」

思わずため息が漏れた。


小島「失恋顔やな、、」

佐野「ちゃうし…」


否定したが、説得力なんて無いのは自分でもわかってる。


焼き台の前で、末澤さんが何か言って笑った。
それを見て、正門くんも小さく笑う。

その一瞬だけで、胸の奥がぎゅっと締め付けられる。


…あぁ、無理やな。


不意に正門くんと目が合い、視線を逸らす。


正門「佐野ちゃんー!ちゃんと食べてる?」


焼き台の向こうから、声が飛んでくる。


佐野「…食べてます」


そう返すと、正門くんが嬉しそうに頷いた。

たぶん俺は、この人のそういうところに惹かれたんやと思う。

誰にでも優しく、でもちゃんと見てくれているところ…


小島「まぁ、今日は腹いっぱい肉食おうや!」


小島くんが軽く肩を回してくる。
ふざけた調子なのに、力はやけに優しい。


焼き台の向こうで笑う人を見ながら、俺はもう一度、肉を取りに立ち上がった。

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