ㅤ翠希ちゃんの家から帰ってきた後。その日の夜、結局千春の両親は向こうにそのまま泊まって、祖母の様子次第で何も無ければ明後日には帰ってくるとの連絡があった。
ㅤちょうど明日は土曜日でお休み、ひとまず学校の心配も今は要らないので、千春も我が家に泊まっていくことになり、母が夕食の準備をしている時。
ㅤ千春とリビングのソファーに並んで座って適当な番組を
見ていると、キッチンで慌ただしくフライパンを振っている母からそう声がかかる。
ㅤテレビの続きだって見たいし、正直言って面倒くさい。だが、今夜のメニューは私の大好きなオムライスだとさっき聞いたばかり。ご飯と変えられる物などないので、はーいと渋々立ち上がる。
ㅤ一緒にソファーを降りた千春を軽くあしらいつつ、モニターを覗く。画面には、数時間前別れたばかりの見慣れた顔が映っていた。
ㅤ既にそこそこ空が暗い時間なのもあってか、翠希ちゃんの後ろには翠希ちゃんの親のものであろう車が停まっている。わざわざどうしたんだろうと急いで玄関の扉を開ける。
ㅤ真っ白でモコモコした上着を羽織っている翠希ちゃんを見て、まだ冬本番ではないものの、そういえばうっすら肌寒い空気が漂っていることに気がつく。
ㅤ見る度に思うけど、翠希ちゃんってオシャレで可愛いよね。
ㅤ翠希ちゃんは「これ……」と、閉じた片手を私の前に出して開く。手のひらに乗っていたのは、ピンク色のいちごの飾りがついたシンプルで可愛いヘアピン。聞かなくてもこれは……
ㅤ今日は急いで翠希ちゃんの家に向かっていたから着く頃には髪の毛が乱れていて。遊ぶ途中で一度髪の毛をくくり直したので、そのタイミングで落としてしまったのかもしれない。
ㅤ翠希ちゃんの手からヘアピンを受け取って、大事に握りしめる。それで終わりと思いきや、翠希ちゃんは静かにちょいちょいと手招きをする。
ㅤよく分からないまま近くに行くと、翠希ちゃんは更に顔を寄せて、内緒話をするように小声で切り出す。
ㅤなんとなくポジティブな内容ではなさそうだと、その表情から思った。
ㅤ確かに千春は言ってしまえば変わってる子だし、今日4人で遊んだ中でモヤモヤする部分がなかったと言えば嘘になる。多分、翠希ちゃんも同じシーンを浮かべているはず。
ㅤだけど、他にも何か気に触ることがあったのだろうか?2人しかいない状況でも、大きな声じゃ話せないほど?翠希ちゃんは、浮かない顔でしばらく口をパクパクして。
ㅤ「忘れていいよー!」なんて、言いながらニカッと笑う翠希ちゃんはすっかりいつも通りで。私もなんだか力が抜けてしまった。そこで会話は終了して、また学校でね〜と翠希ちゃんの明るい挨拶で解散した。















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!