前の話
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それは、突然動き出した。
以前、裏神のボスである香坂慎太郎が俺達の組に来た時、五十嵐の親父が爆発に巻き込まれて重傷を負ったあの日。
香坂は去り際に俺達にこんな事を言ってきた。
新城の兄貴を止めるのに必死で俺は半ばキレ気味に反応を取る。香坂は不気味な微笑みを作りこう言った。
その言葉を聞いた組の人間が混乱する中、新城の兄貴は冷静だった。いや、冷静になったと言う方が正しいな。今にも相手に掴みかかりそうな勢いが消えた。俺とカシラはひとまず安心して手を離した。
新城の言葉にも香坂は表情一つ変えずにこう返す。
それでは失礼します、と言って香坂達は去っていった。裏神とは相容れないと再認識した後、俺達は混乱去らぬまま話し始めた。
俺は不安げに聞く。仙石の兄貴が大きく溜息をついてこう言った。
話し始めてから一度も口を開いていなかった新城の兄貴がふとこう疑問を呟いた。
新城の兄貴は納得しない表情を見せる。
返答に困っている俺を見て兄貴は申し訳なさそうに言った。
そう言いながらも何となく浮かない兄貴の表情が俺の心を不安にした。
ふと、携帯を操作していたカシラが俺達にこう言った。
とにかく不安だった。さっきの話が嘘なら嘘で双方の組員達は更に怒って戦いが激化する理由にも成りかねない。けれど本当だった時は…伊武の兄貴はどうなるのだろうか。けれど、何よりも怖いのは…
仙石の兄貴がそんな俺を見兼ねて声をかけてくれた。心から気に掛けてくれている表情を見て、嬉しさと申し訳無さが心に染みる。
俺はその言葉を聞いて尚、うまく返事を返せなかった。仙石の兄貴がまた心配そうに俺を見つめて、視線を地面に落とす。
俺は兄貴達に向けて言葉を発した。
その言葉に皆が険しい表情を浮かべる。
カシラは携帯を操作して眉済組長に電話を掛ける。数回コール音が鳴った後、それがプツリと途切れた。
カシラは事の顛末を眉済組長に説明した。聞き終わった眉済組長は少し考えた後、口を開いた。
カシラは俺にちらりと視線を向けた。大方、何を言うか察した眉済組長は少し笑ってこう言った。
お互いに挨拶を交わして電話を切った後、カシラは俺達に言った。
そう言ってカシラは皆を安心させるように笑ったが、俺はどうしても不安で仕方なかった。
眉済Side
六車からの話を聞いた俺は柳楽を呼び出し、事を説明した。
頭を抱える俺を見て、柳楽は口を開いた。
暫くしてから、伊武が組長室へ来た。
いつも通り口を開いたかと思いきや、普段はいないはずの柳楽の方を向いて少し不思議そうに首を傾げた。
至って真面目な顔で聞くものだから俺は吹き出してしまった。柳楽は笑いを堪えるようにしている。その様子を見てぽかんとしているその顔もなかなかに面白かった。少し笑いが冷めてから、俺は話を切り出した。
伊武は驚いたように目を見開いた。
柳楽の言葉に、伊武はそっと目を伏せた。
伊武は俯いたまま、拳を固く握った。何も言ってくれないかと思ったその時、伊武が口を開いた。
伊武は少ししてから呟いた。
伊武は俯いていた顔を上げて、もう一度口を開いた。
俺達は信じられないような気持ちで伊武を見つめた。
伊武は自嘲気味に笑った。
伊武は再び独り言のように呟いた。お互いに何も言えず静まり返った時、伊武が耐えきれなかったかのように組長室のドアを思い切り開けて走っていった。
俺は思わず立ち上がる。
伊武Side
バレた、ずっと隠し通してきたことが。俺は組の廊下を走りながらこう思っていた。誰もいないのが唯一の救いだった。舎弟達にはこんな情けない姿を見せたくはなかった。
誰もいないと思って走っていたからか、俺は前に見た人影に気づかなかった。そのまま派手にぶつかって俺は倒れ込んだ。
ぶつかったのは犬亥の兄貴だった。俺は驚きと混乱で何も返せずに立ち上がった。
兄貴に言われてようやく気付いた。俺は泣いていたらしい。
悲しいだとかそういう訳では無かった。
ただ、申し訳無かった。自分の行動が、組員達を傷つけたり命の危機に晒していたことに。腹が立った。父親を止められない無力な自分に。
後ろから親父とカシラが追ってくる音が聞こえた。それでも、後ろを振り向けなかった。あの二人の顔を見たら余計に泣き出してしまいそうだったから。
真実を知って尚、いつもと変わらぬ声色で話し掛けてくれる親父の優しさがやけに胸に染みて、涙は一層増した。
二人とも、俺が泣いていることには幸い気づかなかった。犬亥の兄貴は少し考える表情をした後、親父とカシラにこう言った。
カシラは相変わらず無言だったけれど、俺を気に掛けてくれているようだった。二人がいなくなってから、犬亥の兄貴が口を開いた。
俺は無言のまま付いていくしか無かった。
犬亥Side
俺は使っていない部屋の鍵を開けて電気を着け、誰も来ないように鍵を閉めた。
伊武はソファに座り、ぼーっと窓の外を見つめていた。
出来るだけ優しく言ったつもりだが、また伊武の目から涙が溢れた。
俺は伊武の隣に腰掛けて、せめて泣き止めと願いを込めて頭をくしゃくしゃと撫で回した。
ひとしきり、涙が落ち着いた頃に伊武がやっと口を開いた。
伊武は俯いてこう言った。
伊武はゆっくりと話し出した。
伊武はそこで一度言葉を切り、再び口を開いた。ただ、泣きそうな声で。
俺は伊武を落ち着かせられるように言った。
伊武は苛立ったように叫んだ。
伊武はせきを切ったように泣き出した。俺はただ、背をさすってやることしかできなかった。ただ、一つだけ言いたいことがあった。
伊武はあり得ないという風に俺の顔を見つめた。
俺は軽く笑ってそう言った。
伊武は暫くぽかんとしていたが、席を立ち、ぺこりとお辞儀をした。
伊武はまた俺の隣に座って、しみじみと呟いた。
伊武は少し寂しそうに笑った。
俺は何も言えず、伊武を見つめていた。
どういたましてーって書きたい。のに、犬亥の兄貴はどういたしましてしか言わなそう…












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。