第3話

第2章
1
2025/10/18 15:11 更新
雪がしんしんと降っていた。音を吸い取るような白い闇の中に、白銀荘の灯がぼんやり揺れている。  
オジェ=ル=ダノワは、任務報告のためにそこへ戻ってきた。
だが、胸の奥では、別の何かが蠢いていた。金血が身体の奥で波打ち、鼓動が冷気と逆行して熱を放つ。

門前に立つと、警備員が即座に顔を強張らせた。
その瞳が彼の異様な光を捉えたのだろう。
通報音が鳴る。
わずか数秒で、バリケードが展開された。黒と茶のダイヤモンド素材が組み合わされ、鈍い光を弾く。

「待って……報告が――」
言葉を最後まで出せなかった。
射線の向こう、サキマが現れた。白銀の拳銃を携え、隣にはユディットとヴァロ。
三人とも銀警官の制服のまま、迷いのない姿勢だった。

「通さないから、大人しく森へ帰るがいい!」
サキマの声は冷たいが、仲間を守る熱い思いが心底にこもっていた。

オジェはゆっくりバッグを手放す。無抵抗を示す仕草、しかし胸の金血が裏切る。
体温が急上昇し、白い息が蒸気のように立ちこめる。
視界の縁がぼやけ、音が遠ざかっていく。激しく呼吸しながら、一瞬笑った。

「ユディくん……本当に、撃つのか」

「お! くたばれ!!!」
ユディットが叫ぶ。
その瞬間、引き金が鳴り、銀の弾丸が飛ぶ。
オジェは反射的に身を翻し、クラッチバッグを弾くと、鋭い金属音とともに斧の刃先が広がった。

閃光。
武器がぶつかり、雪が爆風で舞い上がる。
サキマは的確に弾を放ち、ユディットは剣で受け流し、ヴァロは距離を取りながら戦況を分析する。
しかし、三対一の攻防の最中で、オジェの眼差しだけが変わっていた。

――彼らを、知っている。
音の底で、懐かしい叫びが脳裏に蘇る。
笑い合い、任務をこなした日々。
それが今、敵として銃口を向けている。

「……サキマ…く…ん……君は…まだ……私に名をつけてくれたこと…覚えてるかな?」

「意味が分からない!」
声が、悲鳴のように白に吸い込まれた。

オジェは戦闘をやめた。
斧を降ろし、白金の機械羽根を展開した。羽根の軋む音が夜を裂く。
吹雪の中へと飛び上がる。
下では、サキマたちが銃を構えたまま動けずにいた。

空を行く途中、頬を伝って熱い雫が零れた。初めて流す涙。
それでも顔の筋肉は笑っていた。

「……こんなにも…痛みが温かいとは……ね……」

雪よりも高く、光よりも遠く。
オジェ=ル=ダノワは、空の奥へと姿を消した。

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