夜の帳が地を覆い、月光だけが荒野の石を白く照らしていた。
オジェ=ル=ダノワは、何もない田舎道を一人進んでいた。銀警官としての派手な制服は脱ぎ、私服姿のまま。白金の伊達眼鏡の奥の瞳は、冷え切った湖のように静かだった。
任務は簡単だ。監視区域の巡回。
だが、その夜、地面に落ちていた奇妙な実を拾い上げたとき、全ては狂い始めた。
黄金の光沢を帯びた卵型の実。触れるだけでぬめりとした温度が指に移る。オジェは一瞬だけ逡巡したが、好奇心が勝ち、そのまま口に含む。
舌に触れる瞬間、脳に金属の刺激が走った。
喉を滑り落ちた感覚と共に、体中を熱が駆けめぐる。
視界が揺れ、世界の色が変わる。月は血のように滲み、星は歪んで踊った。呼吸を乱しながら彼は壁際に手をつく。
鼓動が速くなる。笑みがこぼれる。
――度重なる金血の重み。
「……私は…どのくらい摂れば気が済むのだろうか……」
自分の声が他人のように乾いていた。
数分後、熱を持ち始めた身体を冷やすため、彼は近くの簡易ネットカフェに入る。シャワーを浴びても、火照りは収まらない。鏡の前で、自らを抱きしめるように両腕を組む。勝手に、そうしていないと呼吸が狂いそうだった。
やがて、不可解な鼻唄が漏れる。
熱を抑え込むために、強制的に眠りへ落ちた。
―最初の夜。
霧が立ちこめる廃橋の上で、白黒の髪を持つ男と遭遇する。
名はバイスカウント。白黒保安官。任務中らしく、幼体保護の書状を携えていた。
「通り過ぎるなら名を名乗りなさい」
オジェは静かにバッグからチェーンソー斧を引き抜く。
その瞬間、金血が共鳴した。心拍が跳ね、筋肉の動作全てが軽くなる。
刃が唸り、橋梁の鉄柱が鳴る。
数分後、熱風と共に戦闘は終わった。バイスカウントは床に伏し、彼の心臓も暴れ続けていた。
――次の夜。
褐色の肌を持つ男、カウントが現れる。黒保安官。
彼は無線通信越しに仲間と連携しながら任務中だった。
その時「……あ、待って。今、おっかねぇの通りかかったわ。旋回すんわ」
その声に、オジェの中の情が一瞬疼く。
だが、理性の表層が金血に焼かれ、戦闘が始まった。
笑いながら斧を振り下ろす自分の姿に、恐怖ではなく陶酔を感じていた。
――三つ目の夜。
雪が降る。白い島国の保安官、マーキス。
慈悲深い眼差しで、彼は迷子の白者とその幼体の保護活動の最中に通りかかったオジェに目をやる。
「すいません、どなさいましたか?」
その問いに、オジェは答えられなかった。
代わりに白金の機械羽根が背から広がり、風を切る音が言葉の代わりになった。
戦いの果て、辺りは金の雪に染まった。マーキスが倒れたとき、オジェの額を冷たい風が撫でた。
「痛みが……心地いい……」
彼のすべては、静かに崩れ落ちていった。
理性も温情も――まるで金の光の中で、燃え尽きるように。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。