久しぶりに定時で帰れた日 。
せっかくだから早く家に帰りたかったけど 、
日用品とか食材とか買えてなかったから買い物に 。
両手にマイバックをぶら下げて 、暗くなった外を歩く 。
仕事終わった時は明るかったのになぁ 。
「 ねぇねぇ 」
そんなとき 、後ろから声をかけられた 。
「 おねえさん 」
絶対振り向かない 。無視よ無視 。
こういうのって無視し続ければ諦めてくれるから 。
「 ねぇ 、おねえさんってば 」
『 あ 、ちょっ 、ちょっと ! 』
その男は諦めるどころではなく 、右手に持ってたマイバッグをひょいと取っていった 。
『 返してくださいっ 、 』
「 久しぶりなのに無視はひどくない ? 」
被っていたパーカーのフードから出てきた顔は 、
残念ながら見たことある顔 。
しかも最悪な相手 。
『 …… 勝利 』
勝「 やっぱ覚えてんじゃん 」
『 … お久しぶりです 、お元気で何より 。じゃっ 』
早くその場から立ち去ろうと思い 、マイバッグを取り返そうとしたんだけど 、ひょいとかわされて 。
勝「 ちょっちょっ 、冷たくない ? なんかあった ? 」
『 … はぁ 。会いたくない人に会って機嫌悪いだけ 。もういい ? 用がないならさっさと別の女の子捕まえてこればいいのに 』
勝「 俺そんなタラシじゃないし 」
『 よく言うよ 、私のこと暇つぶしだったんでしょ ? 』
勝「 違うって 。キミのこと本当に好きだった 」
声の主 、勝利とは前に付き合ってた時がある 。
ただこの人 、本当にクズ男で 。
女の子捕まえては一緒に夜を共にして 、
飽きたら捨てる 。
付き合う前は私にとことん尽くしてくれて 、
たくさん大好きって言ってくれたからそれに騙された 。
勝利にとって大好きは挨拶同様 。
自分は友達優先するくせに私を束縛して 。
友達と遊びに行ってくるなんて言ったら 、
持ち前のその綺麗なお顔で " 行かないで " なんて 。
勝「 キミも変わらないね 、甘いものが好きなところ 」
私から奪ったマイバッグの中を見てそう言った 。
『 … 勝利も変わらないね 。その " キミ " って呼び方 』
勝「 なにそれ 」
『 たくさんの女の子の名前覚えられないからキミって呼ぶようにしてるんでしょ ? それと間違い防止のため 』
勝「 ざんねーん 。俺今独り身 」
『 どうでもいいし 。もういいかな ? 私もう行きたいんだけど 』
勝「 キミは ? 彼氏いる ? 」
『 関係ないでしょ 』
勝「 だって気になるもん 」
『 … はぁ … 。あのさ 、私たちもう別れたの 。わかったら私にちょっかいかけてないでそろそろ心から大事にできる女の子見つけたら ? 』
勝「 うん 。いま見つけた 」
『 じゃあいってらっしゃい 』
勝「 キミのことだよ 」
『 … いいからそういうの 。ほら 、あそこに喫煙所あるから 。いってらっしゃい 』
勝「 おれもう煙草やめたよ 」
『 … ふーん 。そのほうが体にいいと思うよ 』
勝「 なんでやめたと思う ? キミが煙草の匂い嫌いって言ったからだよ 。キミのことを思ってやめたの 」
『 …… そう 、知らないから 。ほんとそろそろいい加減にして 。怒るよ 』
勝「 無理だよ 。キミは俺のこと嫌いになれない 。だってさっき俺の言葉にドキってしたんでしょ ? 」
言葉が詰まってしまった 。
うまく言い返せない 。
だって 、
…… ほんの少し 、彼の言葉にドキドキしたから 。
私のために煙草をやめたとか 、
心から大事にできる女の子が私のことだとか 、
嘘でもそんな真っ直ぐ言われたらドキッとしてしまう 。
このせいでなかなか彼から抜け出せなかった 。
勝「 明日の夜 、Roseってバーで待ってるから 」
『 … Rose …… 』
勝「 覚えてる ? キミと初めて会った思い出の場所 」
『 覚えてたの … ? 』
勝「 まぁね 。明日 、来てくれるの楽しみにしてる 」
『 … 行かないよ 』
勝「 待ってる 。おれずっと待ってるから 」
私のマイバッグが私の手元に返ってきた 。
そして私の横を通り過ぎてその場を離れていった 。
… と思ったけど 。
勝「 あなた 」
勝「 明日 、絶対来てね 。待ってる 」
勝「 大好きだよ 」
『 … っ ……… 』
… 名前 、覚えててくれたの … ?
横を通り過ぎた瞬間 、ほのかに香ったあの匂い 。
変わらない 、あの煙草の匂い 。
彼は嘘つき 。
根っからのクズ男 。
大好きなんてただの挨拶 。
それでもきっと私は 、明日あのバーに行くんだろう 。
いつまでたっても勝利から離れることなんてできない 。
Fin .












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!