第14話

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2023/03/15 10:15 更新
話をしたいのならば図書室から出ればいいのだけど、机の下で内緒話というのが意外なほど楽しかった。

小さな頃、2人の兄が作った秘密基地に入ワクワク感に近いものがある。

じゃなかったら、図書室の先生に見つからないようにする「かくれんぼ」か。

たぶん、それだ。

いまあなたが味わっているこの楽しさは、童心に返るとか、そういうやつだ。

久保隼斗が小説を書いていると教えてくれたことも、何かこう、夢があるというか、自分が知らぬまに忘れてた素直さみたいなものを思い出させねくれる。
黒島(なまえ)
黒島あなた
ねえ、ちょっと読ませてよ
隼斗の学ランの袖を摘まんで引っ張ってみたが、隼斗の反応はよろしくない。
久保舜斗
久保舜斗
だから、これは飛び飛びの、お世辞にも原稿なんて呼べない代物しろものなんだってば
黒島(なまえ)
黒島あなた
それでもいいから、ちょっと読ませてよぉ
こういうとき、紗子だったらどうやって頼むのだろうと、ほんの、一瞬の十分の一くらい考えてみたが、駄目だ。

今ここで大声は出せないのだから、なんにせよ参考にはならない。

隼斗が、皺を伸ばすみたいにノートの表紙を撫でる。
久保舜斗
久保舜斗
なんて言ったらいいかな……うん、分かるんだ、そういうのも。興味を持ってくれるのは嬉しいんだけど、でもさ……作ってる側からしたら、下手なところは見せたくないわけよ
下手なところ?
黒島(なまえ)
黒島あなた
隼斗くん、字ぃ上手だったよ
久保舜斗
久保舜斗
そこ、じゃないんだな
黒島(なまえ)
黒島あなた
じゃあどこ
あなたも、自分が無理を言っているのは分かっている。

でも不思議と、その無理を隼斗に対しては言えてしまう。

たぶん、この「かくれんぼ」感がそうさせているのだろう。

今日、隼斗とはほとんど初めて口をいたのに、もう昔から知っている友達のように思えてならない。

隼斗にとっては、ただの迷惑な錯覚なのだろうが。

隼斗は、まだノートの表紙を撫でている。
久保舜斗
久保舜斗
だからさ……未完成なものを、よ。竜平と黒島さんに読んでもらうとするよね
黒島(なまえ)
黒島あなた
私のことも、あなたでいいよ
久保舜斗
久保舜斗
ああ……じゃあ、あなたと竜平に読んでもらったとして、で、もしだよ。面白くないって言われたら、そしたら、私だって言い訳したくなっちゃうよ。本当はこんなんじゃないんだよ、もっと面白いんだよって
黒田竜平
黒田竜平
そんな、面白くないなんて……
隼斗が、まあまあ、みたいにてのひらを向ける。
久保舜斗
久保舜斗
その逆でもさ、面白いって言われても、本当かなって私は思っちゃうわけ。そんな、部分的に読んで面白いって言われても、私は嬉しくないし。だったら、途中までにしたって、ちゃんとした形で読んでもらいたいっていうか
なるほど、言われてみればそうかもしれない。
黒島(なまえ)
黒島あなた
じゃあ、ちゃんとした形で読ませてよ
久保舜斗
久保舜斗
それは、そうなんだけど、じゃあいつ、どういう形で読んでもらうかっていうのも、なかなか難しくてさ
難しい?
黒田竜平
黒田竜平
なんで。普通に、プリントアウトしてきてよ
久保舜斗
久保舜斗
ウチいま、プリンター壊れてるんだ
黒島(なまえ)
黒島あなた
買い替えのご予定は?
久保舜斗
久保舜斗
父親の、冬のボーナスが出たら
まだ夏休みも終わってないのに、冬って
黒田竜平
黒田竜平
それまで、隼斗はどうすんの
久保舜斗
久保舜斗
俺は別に、パソコンで読めればしばらく問題ないけど、あなたと竜平、家に自分のパソコンある?
黒島(なまえ)
黒島あなた
ない。ウチの家族、全員スマホしか使ってない。お父さんはノートパソコン持ってるけど、普段は会社に置いてきちゃうし
黒田竜平
黒田竜平
ウチにあるっちゃあるけど、弟がゲーム用で使ってる
久保舜斗
久保舜斗
じゃあ、ファイルで渡すわけにも行かないじゃん
黒島(なまえ)
黒島あなた
メールは?
久保舜斗
久保舜斗
2人とも、スマホにワープロソフト入ってる?
黒田竜平
黒田竜平
僕はない
黒島(なまえ)
黒島あなた
分かんないけど、たぶん入ってない
舜斗が、うん、と1つ頷く。
久保舜斗
久保舜斗
そうなんだよ。俺は、あったら便利だろうなって思って、ワープロ入ってるケータイ買ってもらったんだけど、けっこう使いづらいし、だったら学校言ってる間くらい、ノートに手書きでもいいやってことなんだよね
正直、パソコンのことはよく分からないが、そんなに難しいことなのだろうか。
黒田竜平
黒田竜平
ワープロが入ってるケータイじゃないと駄目なの?普通に、メールにコピーして送るってできないの?
舜斗が、目をまん丸くして仰け反る。
久保舜斗
久保舜斗
……俺、そんな気持ち悪いこと、したことないから分かんない
黒島(なまえ)
黒島あなた
気持ち悪いって、何が
久保舜斗
久保舜斗
だって、メールって横書きじゃん
黒島(なまえ)
黒島あなた
だね
久保舜斗
久保舜斗
小説って縦書きでしょ、普通
なるほど。
黒田竜平
黒田竜平
小説って、横書きだと気持ち悪いの?
久保舜斗
久保舜斗
んー、やったことないから分かんないけど…まあ、ネットの小説とかはそうかもしんないけど、俺はやっぱり、自分の作品は縦で読みたい。そもそもさ、ケータイで小説読むって、けっこう慣れが必要なんだよ。俺、自分の作品だって嫌だもん。たった十行かそこらでスクロールさせなきゃいけないしさ、一行だって、文庫本と比べたらだいぶ短いし。慣れた人なら、まあアリなのかもしれないけど
今のところ、ちょっと引っ掛かった。
黒島(なまえ)
黒島あなた
ねえ、っていうことはさ、舜斗くんのケータイには、その原稿が入ってるってこと?
舜斗は急に表情を失くし、半分くらい薄目であなたを見た。
久保舜斗
久保舜斗
……そこ、気づいた
黒島(なまえ)
黒島あなた
うん、気づいた
久保舜斗
久保舜斗
あなたって、意外と鋭いんだね
黒島(なまえ)
黒島あなた
竜平、ひょっとして私のこと馬鹿にしてる?
久保舜斗
久保舜斗
馬鹿にはしてないけど、少しあなどってたかもしれない
一周回ってけなされてるようにしか聞こえないが、気づいたのはあなただ。聞き逃さなかったあなたの勝ちだ。
黒田竜平
黒田竜平
ということは、舜斗のケータイでなら、現行は読めると
久保舜斗
久保舜斗
すっごい読みづらいよ
黒田竜平
黒田竜平
でも、読めると
久保舜斗
久保舜斗
目ぇ疲れるし、しょっちゅうスクロールしなきゃなんないよ
黒島(なまえ)
黒島あなた
でも、読めると
舜斗が、がっくりうなだれる。
久保舜斗
久保舜斗
……しくじったなぁ。俺も途中で、なんでケータイの話、し始めちゃったんだろうって、思ったんだよね……マズったなぁ
口がすべった、というやつか。

でも、そんなことに落ち込む必要はない。

それくらい、誰にだってよくあることさ。
作者
作者
お久しぶりですっ

更新遅くてごめんなさい

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