ファンアは言った。
「私は、憎まれるべき鬼の子なんだよ。」そうやって。
私は、いつも通りカフェにてミルク多めの珈琲を頂いていた。
ファンアの仕事は、死にたい人から血を貰うこと。そして、そのお詫びとして、生きるか死ぬかを選ぶ余地が与えられるとのことだ。
珈琲を一口、口の中で味わってみる。
私のように、例え寿命がなくたって、例え借金取りに追われている人ですら、ファンアが認めればその選択肢は貰えるのだ。
なぜ、ファンアが人を助けているのかも、なぜ鬼の子なんて卑下するのも、全く理由は分からなかった。
聞くこともできない、そんな謎。
ふと、店の前を見る。
珈琲豆を買った紙袋を片手に抱えて、なにやらしゃがみ込んでるみたいだ。
風の音が強かったからか、私も扉に向かって歩いて、そっと開いた。
傘で光が遮断されて、焦げないのかなって呑気に考えてた。
それと同時に眩しくて、その光景に耳を澄ましたのだ。
ファンアの目の前に蹲っていたのは、4〜5歳くらいの女の子。
泣き啜りながら、ボブカットの可愛い子だ。
いやらしい笑みを浮かべて、手を差し伸べている。
その手には、綺麗な花を持っていた。
手を伸ばした。
目を見開いて。
その時、ファンアは彼岸花に手を翳して何かをしていた。
その何かなんて、よく分からなかったけど、その先に見た二人の景色は、
何だろう。
別に、何も言えないけれど、
希望みたいな、太陽みたいな、そんな景色だ。
親子が去ったところで、ドアの前に立ちっぱなしだったことに気がついた。
それよりも先に、ファンアは私を見て微笑んでいた。
この子が、私と同じくらいの可愛い女の子が、悪魔の子供?
ふざけるな。
拳を強く握りながら微笑み返す。
憎い。
私の命を紡いでくれた恩人のその覚悟とやらに、私は何も役に立つことができていない。
本当に、私は私が憎くて堪らない。
あの日、病院で、初めて見た外の景色。
どれくらいかなんて、もう知っている。
カフェに戻って、私は席についた。
机の上には、昨日から置いてある封筒だ。
手を伸ばして見てみても、手のひらを広げる勇気が無い。
もう、二年も経っているのだ。
言い切る前に、机に思いっきり手を置いた。
分かっている。
ファンアがいつも言いたいことは、私なりに察しているつもりだ。
だけど....だけどさぁ。
豆をひく手を、無理やり止めた。
ほら、お前は弱い。
やっと見つけたこの言葉、その意味は、まだ知らない。
圧倒的なこの違いから、私は少し戸惑うんだ。
でも、そんな貴方に、期待する。
絶対に、私が理解できない思い出を、しまっていると思うから。
また、珈琲の準備をしていた。
少年は、私の前に堂々と立っていた。
時は深夜、治療所ですら寝静まって静かすぎるその場所に、少年は諦めたような顔をした。
これまた唐突に、頭を下げてきた。
サラサラの髪の毛に、少し高めの声色、まるで女の子みたいだ。
だけど、この場にいる誰よりも勇敢で、今の私の姿は、吸血鬼そのものなのに。
恐怖よりも、命だった。
すると、迷いもなく差し出して、泣き出した。
泣いているけれど、目は開いてる。
真っ直ぐで、優秀な、覚悟を持ったそんな目だ。
少年君は隣の病室に指差した。
透明の幕で囲まれて、包帯で頭を巻かれて、今の時代の最先端な治療とも言えるけれど、瞳はつむって動きもしない。
震えるように、目を瞑って。
後悔するように泣いている声を聞いていた。
あぁ、なるほど。
少年は、少女を大切に思ってる。
その事実だけが、まだ少年を生かしている。
諦めたような瞳の意味が、ようやく分かった気がするよ。
泣いている子供を前にして、何百歳の私が無視をするのはどうかと思う。
だけど、とても気分じゃない。
ファンアじゃない。
私の本名は、ファンアじゃない。
本当の自分が大嫌いだ。
そんな自分で、生きていたいなんて思わない。
気付けば、私も泣いていた。
あぁ。
私はただの鬼の子だった。
それまで普通の、ただの鬼の子だったんだ。
ふと、テレビをつけてみた。
......ッ。
ニュースで知った。
少し大人びた、髪の長い可愛い女性が転落死。
いわば、自殺した。
.....関係ないって、思うだろう。
何十年前?テレビなんてなかった時代。
私は、その人たちと関係ない。
名前すらも知らない少女、少年は、もう寿命で平和に死んでいる。
.........もう、死にたい...........
ごめん。ごめんごめんごめん。
ごめんね。少年。ほんと、ごめんなさい。
やっぱり、生きることが大嫌いだ .... .
ごめん。全部、全部私のせいだ。
ほんと.......ごめんね......
少年は、生きる道を選んだ。
そう、ファンアが知っている、過酷で辛すぎる、生きる道を。
二人で生きて、二人で死ぬことを選んでいた。
だけど。
ファンアは言った。
「初めて血で人を救う。確実性は保証できない。」
「何百年と、目を覚ますのに時間がかかるかもしれない。」
「それでも、最善は尽くすけど......」
少年は涙を拭いた。
「私を、吸血鬼にしてください。」
「何年でも、妹を待ちます。」
「私は、兄です。気弱な妹の、一人しかいないお兄ちゃんです。」
「共に生きて、共に死ぬ。」
ファンアは微笑み、少年はまた泣いた。
感謝の言葉を何度も言って、ファンア少し照れていた。
そんな少年は、まだ、この世界に生きている。
ファンアが知る、この世界に、たった一人で息してる。
この瞬間、私は、思考の狭さをようやく知れた。
生きるか死ぬか。
その選択肢の意味を、ようやく、理解した。
遅すぎるけど。
遅すぎるけど、まだ間に合った。











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。