第14話

Episode2 終わり
32
2025/11/28 09:14 更新
ファンアは言った。

「私は、憎まれるべき鬼の子なんだよ。」そうやって。

私は、いつも通りカフェにてミルク多めの珈琲を頂いていた。
ファンアの仕事は、死にたい人から血を貰うこと。そして、そのお詫びとして、生きるか死ぬかを選ぶ余地が与えられるとのことだ。

珈琲を一口、口の中で味わってみる。

私のように、例え寿命がなくたって、例え借金取りに追われている人ですら、ファンアが認めればその選択肢は貰えるのだ。
ムアン
.....ほんと、お人好しというか何というか、

なぜ、ファンアが人を助けているのかも、なぜ鬼の子なんて卑下するのも、全く理由は分からなかった。
聞くこともできない、そんな謎。

ふと、店の前を見る。
珈琲豆を買った紙袋を片手に抱えて、なにやらしゃがみ込んでるみたいだ。
風の音が強かったからか、私も扉に向かって歩いて、そっと開いた。

傘で光が遮断されて、焦げないのかなって呑気に考えてた。
それと同時に眩しくて、その光景に耳を澄ましたのだ。
ファンア
こんなところで何してるの?
ファンア
小さい子供ちゃん。

ファンアの目の前に蹲っていたのは、4〜5歳くらいの女の子。
泣き啜りながら、ボブカットの可愛い子だ。
....
......
ファンア
そっか。迷子、ねぇ。

いやらしい笑みを浮かべて、手を差し伸べている。
その手には、綺麗な花を持っていた。
ファンア
....ww
ファンア
この花は、彼岸花。
ごく最近の地球に認知された花だよ。綺麗でしょ?

手を伸ばした。
目を見開いて。
....
何、?これ、
ファンア
君に似合う黄色だよ。
ファンア
私は、この花が一番大好きだ。
....
見たことないよ、。
彼岸花って、この花が、彼岸花?
ファンア
そうだよ。これが彼岸花だ。

その時、ファンアは彼岸花に手を翳して何かをしていた。
その何かなんて、よく分からなかったけど、その先に見た二人の景色は、
....
....ッ!?
ファンア
あはは。
ファンア
うん。

何だろう。
別に、何も言えないけれど、
ムアン
....ww。

希望みたいな、太陽みたいな、そんな景色だ。
....
あっ!花ッ!!
....
もう〜どこ行ってたのッ!!?
....
すみません...娘が大変ご迷惑を....
ファンア
あはは。
ファンア
大丈夫大丈夫。
ファンア
「その花、秘密だよ」
....
「うん!」



親子が去ったところで、ドアの前に立ちっぱなしだったことに気がついた。
それよりも先に、ファンアは私を見て微笑んでいた。
この子が、私と同じくらいの可愛い女の子が、悪魔の子供?
ふざけるな。

拳を強く握りながら微笑み返す。

憎い。
私の命を紡いでくれた恩人のその覚悟とやらに、私は何も役に立つことができていない。
本当に、私は私が憎くて堪らない。
ムアン
あれから、何年経った?

あの日、病院で、初めて見た外の景色。
どれくらいかなんて、もう知っている。
ファンア
二年だよ。
ファンア
まだまださ。
ムアン
.....そうか。

カフェに戻って、私は席についた。
机の上には、昨日から置いてある封筒だ。
手を伸ばして見てみても、手のひらを広げる勇気が無い。

もう、二年も経っているのだ。
ファンア
焦ることないよ。
ファンア
無理だったら出ていけばいい。
実家だって、いつでも帰ってこいって言ってるんでしょ?
ムアン
ああ。そう言われてる。
ファンア
じゃあ大丈夫。
ファンア
その封筒は、人間の弱さだ。
ファンア
無理に掬うことは無いよ。
勿論、私は君とは違う悪まッ.....

言い切る前に、机に思いっきり手を置いた。
分かっている。
ファンアがいつも言いたいことは、私なりに察しているつもりだ。

だけど....だけどさぁ。
ムアン
違うだろ。ファンア。

豆をひく手を、無理やり止めた。
ファンア
違くないよ。全く持って、間違っていない。
ムアン
違う!
ムアン
せめて...せめてファンアがやること全て!
私は一緒に責任を取りたいんだ!
ファンア
君は人間だ。
人間の寿命は短いこと、よく分かってる。
ムアン
.....鬼の子。
ファンア
不正解。
ファンア
"憎まれるべき、鬼の子だ。"
ムアン
その鬼の子が、私を助けてくれたんだ。
ファンア
........へぇ。

ほら、お前は弱い。
やっと見つけたこの言葉、その意味は、まだ知らない。
ムアン
この封筒も。お前の命も。
全部全部、憎まれるべき鬼の子なのか?
ムアン
違うだろ!
ムアン
なぁ....
ムアン
何が憎まれるべきなんだよッ....!
ムアン
.....納得するか?その理由は。
ムアン
論理的に、述べられるのか?その全て。
ファンア
あはは。
ファンア
君は、本当に私と違うね。
ファンア
本当に .....ちょっと違ってる。
ムアン
.......ッ
私だって、一番最初に気づいたんだよぉ ......!!!

圧倒的なこの違いから、私は少し戸惑うんだ。
でも、そんな貴方に、期待する。
絶対に、私が理解できない思い出を、しまっていると思うから。
ファンア
後悔しない。
ファンア
私が知ってる優しさは、自分が付き添う、
それだけだったんだよね。
ファンア
何年も、何千年も、この地球を見てきたから。
ムアン
.......
ファンア
.....ww。
ファンア
らしくないなぁ。
ファンア
笑え踊れ死にたいよりも殺すほどに。
ファンア
もっと笑って?時間無いから。
ムアン
.......あぁ、
ファンア
......
また、珈琲の準備をしていた。
ファンア
前に、私がこの地に降り立った時、
私は人を殺した。
ファンア
病院だった。
ファンア
君が入院していたような、少し暗い雰囲気が漂う病院。
昔の話だから、昔は病院なんて言わないけどね。
ファンア
そんな病院で、ある少年少女と出会った。
ムアン
少年少女?
ファンア
少女は意識不明。
その兄の少年君と出会ったんだ。
ムアン
.....悪い、続けてくれ。
ファンア
....w
ファンア
私がその場所に降り立ったのも気まぐれだ。
ファンア
動物の血とかを貰っていたんだけど、流石に弱りすぎちゃって。
人間の血を貰おうと思った。だから、弱っている人間がたくさんいる、そんな病院に足を赴いたんだ。




少年は、私の前に堂々と立っていた。
時は深夜、治療所ですら寝静まって静かすぎるその場所に、少年は諦めたような顔をした。



ファンア
......ん?君は?
少年
.....
ファンア
少年君か。良い子は寝る時間だぞ。
少年
助けてください。

これまた唐突に、頭を下げてきた。

サラサラの髪の毛に、少し高めの声色、まるで女の子みたいだ。
だけど、この場にいる誰よりも勇敢で、今の私の姿は、吸血鬼そのものなのに。
恐怖よりも、命だった。
ファンア
君の命?要らないよ。
あぁ、でも、血が欲しいな。
ファンア
少しだけ分けてくれない?

すると、迷いもなく差し出して、泣き出した。
少年
違います。
私の命ではなくて、妹の命を助けて欲しいのです。

泣いているけれど、目は開いてる。
真っ直ぐで、優秀な、覚悟を持ったそんな目だ。
ファンア
妹?

少年君は隣の病室に指差した。
透明の幕で囲まれて、包帯で頭を巻かれて、今の時代の最先端な治療とも言えるけれど、瞳はつむって動きもしない。
少年
事故だったんです。
少年
食料を調達するために、動物を狩っていました。
その時、他の人が放った矢が、偶然妹に ....

ファンア
その矢を放った人間は?
少年
私が、殺しました。
ファンア
.......

震えるように、目を瞑って。
後悔するように泣いている声を聞いていた。

あぁ、なるほど。
少年は、少女を大切に思ってる。
その事実だけが、まだ少年を生かしている。

諦めたような瞳の意味が、ようやく分かった気がするよ。
ファンア
君は私に何を望む?
ファンア
少年君。
この大切な少女ちゃんを生かすために、君に何が出来るんだい?
ファンア
君はまだ、ただの子供で、ただの人間だ。
少年
私は!
今この瞬間、人間じゃない特別な貴方に出会うことが出来ました。
ファンア
それは、どういうこと?
ファンア
人助けをする趣味は無いよ。
少年
私の命を差し上げます!
妹だけ、助けて頂けませんか!?

泣いている子供を前にして、何百歳の私が無視をするのはどうかと思う。
だけど、とても気分じゃない。
ファンア
人の命。とても儚いものなんだ。
ファンア
その命を助けて、少女ちゃんは喜び幸せに満ちると思う?
少年
ぇ. ..。
ファンア
君は、今幸せ?
生きたいって、何があっても本気で望める?
少年
それ...は...。
ファンア
私は吸血鬼だ。
人を喰らっていない、ただの怪物だ。
ファンア
それでも、君たち人間は、吸血鬼と明かした瞬間に態度が変わった。

ファンアじゃない。
私の本名は、ファンアじゃない。

本当の自分が大嫌いだ。
そんな自分で、生きていたいなんて思わない。
ファンア
......
ファンア
例え、化け物だって言われ続けて拷問されて、太陽の光に炙られて、冷たい水に沈められて。
それでも不老不死な私は生きた。何百年。
ファンア
奴らは死んだ。人間だから。
ファンア
だけど、私は死ねないんだ。
奴らがしてきた行いも、言動も、私の中で生きている。
ファンア
その辛さを持ってして、私は死ねなかったから、"ファンア"を作って逃げたんだ。
少年
.......
ファンア
生きるっていうのは、死ぬことだ。
死んでも生きて、死んでも生き返る。
ファンア
その辛さを、大切な者に託す覚悟、それを君は持つんだよ。
ファンア
助けてあげる。今すぐにでも、助けてあげることはできる。
その術を、私は何個も持っている。
ファンア
だけど.....
ファンア
乗り越えられない辛さがある。
ファンア
例え君が死んでも生きても、君らは私のように何かを作って逃げることは出来ないんだ。
少年
.......
ファンア
私はすぐに死ぬ。
だから、君に会うのは今日が最後だ。
ファンア
希望を託してあげる。
ファンア
だけど、君が一番やっちゃいけないことは、
その少女ちゃんを死なせることだ。
ファンア
一秒たりとも、その少女だけは死なせちゃだめだよ。
ファンア
少女ちゃんが自ら"生きる"って決めたわけじゃない。
今、少女ちゃんの声は聞けない。
少年
.....貴方は、
ファンア
.....ん?
少年
貴方はなぜ、そんなことを言うんですか。
少年
貴方はなぜ....なぜ...... 
ファンア
絶対に......。
ファンア
絶対に、君は後悔するだろう。
ファンア
あの時この選択を選ばなければ良かったって。
ファンア
太陽に炙られて、そのまま死ぬ選択肢が見えた鬼の子は、死ぬよりも明日を生きることを選んでしまった。
ファンア
その結果が、このザマだよ...w
ファンア
......
ファンア
.....ッ。
ファンア
生きてね。少年君。
少年
.....!!

気付けば、私も泣いていた。
ファンア
辛い。苦しい。死にたい。消えたい。
ファンア
今でもそう.....思っちゃう。
ファンア
生かしてあげる.....辛い道を、歩んで......
君が望む命を、ちゃんと与えてあげるから ... ..
ファンア
生きるか死ぬか.....選んでいいよ. ....?
ファンア
さぁ....君の答えは、どっちだろう.....
ファンア
迷わないで.....時間が無いの。
ファンア
生きるという、辛さを選んでくれるかい....?








あぁ。
私はただの鬼の子だった。
それまで普通の、ただの鬼の子だったんだ。

ふと、テレビをつけてみた。

......ッ。
ファンア
あぁ.... .  あ、ぁ.........

ニュースで知った。
少し大人びた、髪の長い可愛い女性が転落死。
いわば、自殺した。


.....関係ないって、思うだろう。
何十年前?テレビなんてなかった時代。
私は、その人たちと関係ない。
名前すらも知らない少女、少年は、もう寿命で平和に死んでいる。

.........もう、死にたい...........

ごめん。ごめんごめんごめん。
ごめんね。少年。ほんと、ごめんなさい。
やっぱり、生きることが大嫌いだ .... .
ごめん。全部、全部私のせいだ。

ほんと.......ごめんね......












少年は、生きる道を選んだ。
そう、ファンアが知っている、過酷で辛すぎる、生きる道を。
二人で生きて、二人で死ぬことを選んでいた。

だけど。
ファンアは言った。
「初めて血で人を救う。確実性は保証できない。」
「何百年と、目を覚ますのに時間がかかるかもしれない。」
「それでも、最善は尽くすけど......」

少年は涙を拭いた。
「私を、吸血鬼にしてください。」
「何年でも、妹を待ちます。」
「私は、兄です。気弱な妹の、一人しかいないお兄ちゃんです。」
「共に生きて、共に死ぬ。」

ファンアは微笑み、少年はまた泣いた。
感謝の言葉を何度も言って、ファンア少し照れていた。
そんな少年は、まだ、この世界に生きている。
ファンアが知る、この世界に、たった一人で息してる。






ファンア
....あはは。
ムアン
.......あぁ.....分かるよ。
ムアン
あぁ、お前のことなら、よく知ってるよ。
ムアン
........何も、心配いらないから。

この瞬間、私は、思考の狭さをようやく知れた。
生きるか死ぬか。
その選択肢の意味を、ようやく、理解した。

遅すぎるけど。
遅すぎるけど、まだ間に合った。
ファンア
あぁ。
ファンア
話すつもりなんて、なかったけど。
ファンア
......
ファンア
生まれてこなければさぁ.....
ファンア
良かったよね!






ファンア
ね。
ファンア
そうだよね。恨むよね。ごめんね。
ファンア
生きたいって、言ってみれば.......
ファンア
いいと、思う、はずなんだけど......
ファンア
辛いなぁ。








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