あの後、彼はそう手を合わせるだけで
鳥居を背に、宿へ行ってしまった。
そのときスマイリーは、彼が何か、
キラリと光るものを落として
いったことに気づき、慌てて拾った。
とは言えもちろん「これ落としましたよ」と
声をかけることなんてできず、拾ったそれは
こちらで大事に持っておくしかなかった。
これはあくまでスマイリーの憶測に過ぎないが、
それが本当なら、彼は大分困るのではないか。
スマイリーは慌てて
鳥居を飛び出そうとした。
が、その瞬間とんでもなく
強い力に身体を押し戻され、
スマイリーは後ろへ倒れ込んだ。
再度鳥居の中に閉じ込められる。
スマイリーは、夜の12時から
1時にしかここを抜け出せない。
そういう決まりなのだ。
正確には、“殺された”
のが、深夜なのだが。
スマイリーはあの夜のことを、
詳しく覚えていない。
ただ鮮明に思い出すのは、
今日みたいな、あの夢だけだ。
何者かもわからない少年と、
辿々しく指切りを交わすあの夢。
そもそも誰と、何を
やくそくをしたのだったか。
朧気な記憶は決して、その底を
見せてくれることはない。
◇
深夜12時を回った頃。
村人は皆、寝静まっていた。
あの、なろ屋という者は
どこで羽を休めているのだろう。
どうやらこの鍵は形状的に
宿の鍵ではないらしく安心したが、
実家の鍵とかならば
尚更届ける必要がある。
スマイリーは鳥居を出ると、
そこら中を散策し始めた。
そして数分も経たないうちに、
スマイリーは
それらしき宿を見つけた。
ガララ、と部屋の戸を開ける。
彼はどうやら
眠っているようだった。
まあ寧ろ好都合であるが。
どこに置いておこうか迷ったとき、
ふと玄関から入ってすぐのところに、
履物を仕舞う棚があるのに気がついた。
無難だが、スマイリーはそこの上に
鍵を置いておくことにした。
そして祠に戻ろうと踵を返す。
しかしそれよりも早く、
何者かによって腕を強く掴まれた。
それが誰かなんて、
そんなのひとりしかいない。
ふと彼の手が、
スマイリーの頬を優しく撫でた。
何事かと、スマイリーは
じっと彼の目を見つめる。
知ったような口ぶりに
疑問を持ったところで、
彼が両手を使って、
スマイリーの頬を撫で回すので、
スマイリーは思わず少し抵抗した。
その様子を見て可笑しく思ったのか、
彼は小さく、ふふ、と吹き出す。
礼を言われて嬉しくなった
スマイリーは、少し頬が緩む。
だが、届けるのがこんなにも
遅くなってしまったのは申し訳ない。
そう尋ねると、
彼は迷わずこくりと頷いた。
彼は、小首を傾げるスマイリーに
向かって悪そうに笑って見せた。
…………。
…………。
たっぷり間を置いた後、
スマイリーの口からは
自然とそんな声が漏れた。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。