『胡蝶の夢』
昔者莊周夢爲胡蝶。
栩栩然胡蝶也。
自喩適志與。
不知周也。
俄然覺、
則蘧蘧然周也。
不知、周之夢爲胡蝶與、
胡蝶之夢爲周與。
周與胡蝶、
則必有分矣。
此之謂物化。
昔者荘周夢に胡蝶と為る。
栩々然として胡蝶なり。
自ら喩しみて志に適へるかな。
周たるを知らざるなり。
俄然として覚むれば、
則ち蘧々然として周なり。
知らず、周の夢に胡蝶と為れるか、
胡蝶の夢に周と為れるかを。
周と胡蝶とは、
則ち必ず分有らん。
此を之れ物化と謂う。
薄暗い通りに小さな灯火を落とす、酒場の白い看板。
地下にある店内には、古いジャズの音楽が流れていた。
深い飴色に変色したカウンターにバー・スツール。
カウンターの向こうでは、初老のバーテンダーが酒杯を拭いていた。
そこで飲んでいる二人の友人を見ては、
その場に似つかわしくない年頃であろう青年は声をかけた。
その青年__太宰は指で銃の形を作り、ばんばん、と撃ってみせた。
不意に、太宰がグラスを持った。
太宰がそういいグラスを掲げた。
カラン、と氷の音が鳴った。
太宰が話して、織田作が返事して、安吾が突っ込む。
そこにいる全員が笑っていて、無限に尽きることのない言葉を交わす。
もう戻らない虚像の空間の中で、夜は更けてゆく。
あんなに幸せな夢を見たのはいつぶりだろうか。
そう思いながらまだぼやける視界で時計を確認する。
おっと、私は2時間も寝ていたのか。
我ながら珍しい。
そう言いケラケラと笑ってみせると、
敦くんは困ったように眉を八の字に曲げた。
国木田くんからの拳骨だ。
因みにこれ、かなり痛い。
はて、準備とはなんのことだろうか?
てっきり、私は、
「早く仕事をしろ!」
等と怒鳴られると思っていた。
身体を起こすと、
みんながこっちを見て笑っていた。
え、何々、怖いんですけど?
《 パン! 》
脳の処理が追いつかない。
クラッカーを向けられていることはわかる。
しかし何故?
理由が全くわからない。
色とりどりの紙が私の頭上を舞った。
嗚呼、そういえば、
私は今日誕生日だったっけ。
誕生日なんて、
しばらく祝われてなかったからなぁ、
なんだか恥ずかしい。
探偵社の新人の二人を指して云う。
なるほど、私の誕生日を知って、、、
嗚呼、私は、存外、愛されているようだ。
探偵社での、夢。
みんなが暖かくて、幸せな夢だったな。
そう思いながらまだぼやける視界で時計を確認する。
おっと、私は2時間も寝ていたのか。
我ながら珍しい。
そう言いケラケラと笑ってみせると、
敦くんは困ったように眉を八の字に曲げた。
身体を起こしてみると、覚えのある匂いが鼻をくすぐった。
これは何の匂いだろうか。
割と記憶力には自信があるのだが、
これはすぐには思い出せそうにない。
それは間違いなく、彼の声だった。
もう二度と聞けるはずのない声。
しれが今こんなにも近くで_______
そうだ、彼は、死んだのだ。
私の腕の中で、死んだのだ。
織田作が生きているはずがない。
自分でも意外なほど、冷たい声が出た。
怒りを隠そうともしない私を見て、周囲が固まっている。
しかしそれは今の私にはどうでも良いことだ。
私は彼の元へ歩を進める。
更に空気が冷えた。
その瞬間、彼の手が触れた。
彼は、織田作は消えなかった。
こうなるともう認めざるを得ないじゃないか。
ひらり、と砂色の外套を揺らし、
私は笑ってやった。
ほら見給え!私は佳い人になった。
君のおかげで私はこんなにも大きくなったのだよ、
と声には出さずに云う。
織田作の口元が少し緩んだ。笑っている証拠だ。
すると急に後ろから拳骨が飛んできた。
いつの間にか皆の空気も緩んでいる。
見ると、国木田くんは面白いくらい間抜けな表情で固まっていた。
陽が沈み、夜の闇が街を支配する時間。
今宵、其の中にある小さな灯火の下に、
再び三匹の迷い犬が集まる。
皆狡い!と頬を膨らませて云う太宰は、まるで拗ねた子供だ。
安吾が呆れたように笑い云った。
織田は数枚の原稿用紙の束を出した。
恥ずかしいのだろうか。
少し視線を下にやってから答えた。
カラン、と氷の音が鳴った。
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p.s.
誤りを訂正させていただきました。
他に間違いが見つかり次第、
そちらも訂正させていただきます。
皆様もなにか見つけたらコメントに書いていただけると嬉しいです。
失敬












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!