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第1話

胡蝶之夢
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2024/06/23 09:16 更新























『胡蝶の夢』












昔者莊周夢爲胡蝶。
栩栩然胡蝶也。
自喩適志與。
不知周也。
俄然覺、
則蘧蘧然周也。
不知、周之夢爲胡蝶與、
胡蝶之夢爲周與。
周與胡蝶、
則必有分矣。
此之謂物化。










昔者荘周夢に胡蝶と為る。
栩々然として胡蝶なり。
自ら喩しみて志に適へるかな。
周たるを知らざるなり。
俄然として覚むれば、
則ち蘧々然として周なり。
知らず、周の夢に胡蝶と為れるか、
胡蝶の夢に周と為れるかを。
周と胡蝶とは、
則ち必ず分有らん。
此を之れ物化と謂う。























薄暗い通りに小さな灯火を落とす、酒場の白い看板。

地下にある店内には、古いジャズの音楽が流れていた。

深い飴色に変色したカウンターにバー・スツール。

カウンターの向こうでは、初老のバーテンダーが酒杯を拭いていた。
太宰治
やあ、今日は私が最後かい?

そこで飲んでいる二人の友人を見ては、

その場に似つかわしくない年頃であろう青年は声をかけた。
織田作之助
嗚呼、そうだな。
坂口安吾
今日は仕事が早く終わったんですよ。
太宰治
それは良かったじゃないか!
でも、それならもっと早く仕事を終わらせたのに。
坂口安吾
ところで最年少幹部様の今日の仕事は何だったんですか?
随分と包帯の面積が増えているようですが。
太宰治
嗚呼、何、大したことはないさ。
ちょっと別の組織と撃ち合いになった。

その青年__太宰は指で銃の形を作り、ばんばん、と撃ってみせた。
坂口安吾
それをちょっとといえるあたり、流石ですね。
織田作之助
じゃあ、その怪我はその時にできたものなのか?
太宰治
いいや?これは此処に来る途中に蛞蝓に殴られてね。もっと真面目に仕事しやがれって。
織田作之助
最近の蛞蝓は喋るのか?
太宰治
嗚呼。小さいくせに迚も五月蝿い。
織田作之助
それは見てみたいな。
坂口安吾
太宰君、織田作さんをからかうのは辞めなさい。
そして織田作さんもいい加減其の蛞蝓が人間であることに気付いてください。
織田作之助
そうなのか?太宰。
太宰治
だって、織田作が面白いのだもの。
坂口安吾
ああもう、他に突っ込んでくれる人はいないですか?
織田作之助
それは安吾で十分だろう?
坂口安吾
全く、、、
不意に、太宰がグラスを持った。
太宰治
さて、今日は何に乾杯する?
坂口安吾
お好きにどうぞ。
太宰治
じゃあ、、、







太宰治
迷い犬ストレイドッグに_____』

太宰がそういいグラスを掲げた。
坂口安吾
迷い犬ストレイドッグに」
織田作之助
迷い犬ストレイドッグに」







カラン、と氷の音が鳴った。













太宰が話して、織田作が返事して、安吾が突っ込む。

そこにいる全員が笑っていて、無限に尽きることのない言葉を交わす。

もう戻らない虚像の空間の中で、夜は更けてゆく。











中島敦
太宰さん、起きてください。
太宰治
...もう少しだけ寝かせておくれよ、敦くん。
今とぉっても夢見が良かったのに。

あんなに幸せな夢を見たのはいつぶりだろうか。

そう思いながらまだぼやける視界で時計を確認する。

おっと、私は2時間も寝ていたのか。

我ながら珍しい。
中島敦
ダメですよ。
これ以上寝たら、国木田さんの胃に穴が開くだけでは済まなくなります。
太宰治
それは素晴らしい噺じゃあないか!


そう言いケラケラと笑ってみせると、

敦くんは困ったように眉を八の字に曲げた。

国木田独歩
何が素晴らしい噺だこの唐変木!
太宰治
いでっ


国木田くんからの拳骨だ。

因みにこれ、かなり痛い。

国木田独歩
貴様は毎回毎回俺の理想を台無しにしよって、少しは俺の気にもなれ!
太宰治
無理だよ国木ぃ田くん。私が少しでも理想だとかなんとか言ってみなよ。
国木田独歩
、、、想像もつかんな。
太宰治
でしょう?
国木田独歩
と、に、か、く、お前は何時まで寝る心算つもりだ!
準備は済んだというのに!

はて、準備とはなんのことだろうか?

てっきり、私は、

「早く仕事をしろ!」

等と怒鳴られると思っていた。

身体を起こすと、

みんながこっちを見て笑っていた。

え、何々、怖いんですけど?





     《 パン! 》







太宰治
へ?

脳の処理が追いつかない。

クラッカーを向けられていることはわかる。

しかし何故?

理由が全くわからない。

探偵社の皆
誕生日、おめでとう(ございます)!


色とりどりの紙が私の頭上を舞った。

嗚呼、そういえば、

私は今日誕生日だったっけ。

誕生日なんて、

しばらく祝われてなかったからなぁ、

なんだか恥ずかしい。

国木田独歩
此奴等がどうしてもと云うからな。仕方無く、だ。


探偵社の新人の二人を指して云う。

なるほど、私の誕生日を知って、、、

太宰治
ありがとう。なんだか照れるなぁ。
中島敦
安いやつですが、皆で割り勘して、ケーキも買ってきました!みんなで食べましょう!
太宰治
ん、じゃあ皆もお金を出してくれたのかい?
谷崎潤一郎
太宰さんにいつもお世話になっているので、、、
谷崎ナオミ
その通りですわ!お兄様。この前もお買い物に付き合って頂きましたし。
宮沢賢治
太宰さんにはよく、解らないことを教えてもらっています!
日頃の感謝を伝えるためにも、僕も協力しました!
与謝野晶子
命を大事にしないのは戴けないが、なんだかんだ、まだ此処で笑って生きているんだ。
それを祝ってやってもいいだろう?
泉鏡花
敦だけじゃない。貴方がいてくれたから、私は今此処にいる。
江戸川乱歩
ま、可愛い後輩の誕生日くらい祝ってやろうじゃないか!
あっ、その苺は僕のだよ?
中島敦
太宰さんは僕の恩人なので!!
、、、その、なにか恩返しがしたくて。
太宰治
そっか。じゃあみんなで食べよう!
ほら、食べるよ、ケーキ。お皿ある?
宮沢賢治
此処にありますよー!





嗚呼、私は、存外、愛されているようだ。


中島敦
太宰さん、起きてください。
太宰治
...もう少しだけ寝かせておくれよ、敦くん。
今とぉっても夢見が良かったのに。

探偵社での、夢。

みんなが暖かくて、幸せな夢だったな。

そう思いながらまだぼやける視界で時計を確認する。

おっと、私は2時間も寝ていたのか。

我ながら珍しい。
中島敦
ダメですよ。
これ以上寝たら、国木田さんの胃に穴が開くだけでは済まなくなります。
太宰治
それは素晴らしい噺じゃあないか!


そう言いケラケラと笑ってみせると、

敦くんは困ったように眉を八の字に曲げた。

身体を起こしてみると、覚えのある匂いが鼻をくすぐった。

これは何の匂いだろうか。

割と記憶力には自信があるのだが、

これはすぐには思い出せそうにない。

織田作之助
お早う、太宰。


それは間違いなく、彼の声だった。

もう二度と聞けるはずのない声。

しれが今こんなにも近くで_______

織田作之助
久しぶりだな。
身長も随分と伸びている。


そうだ、彼は、死んだのだ。

私の腕の中で、死んだのだ。

織田作が生きているはずがない。

太宰治
死者は、生き返らない。
生き返らせては、ならない。


自分でも意外なほど、冷たい声が出た。

怒りを隠そうともしない私を見て、周囲が固まっている。

しかしそれは今の私にはどうでも良いことだ。

私は彼の元へ歩を進める。

太宰治
君は、誰だい?
返答次第では、今、此処で、君のその口を二度と聞けなくする。


更に空気が冷えた。



太宰治
誰かが織田作に成りすましているのか、
織田作を生き返らせたのか。
目的は何だ?何のために、、、
その瞬間、彼の手が触れた。
織田作之助
安心しろ、太宰。俺だ。


彼は、織田作は消えなかった。

こうなるともう認めざるを得ないじゃないか。

太宰治
、、、馬鹿。
織田作之助
知ってる。
太宰治
君は私を置いて逝こうとした。
織田作之助
嗚呼。
太宰治
君のせいだ。君のせいで私は今生き延びてしまっている。
織田作之助
済まなかったな。
太宰治
君はやっぱり大馬鹿者だ。
織田作之助
そうだな、俺はお前に無茶をさせた。
太宰治
無茶?
織田作之助
嗚呼。あの日、俺はお前に急に佳い人になれといったことだ。
そして同時に、お前には善も悪も大差ないとも云った。
善も悪もわからなかったお前は佳い人になれと云われても困るだろう?
太宰治
、、、、、ふっ、
あははっ、
そうだね。君はそういう人だ。
でもね、安心し給え。ここは、武装探偵社。
私みたいなのが善人になるにはもってこいの場所さ!


ひらり、と砂色の外套を揺らし、

私は笑ってやった。

ほら見給え!私は佳い人になった。

君のおかげで私はこんなにも大きくなったのだよ、

と声には出さずに云う。

織田作の口元が少し緩んだ。笑っている証拠だ。

すると急に後ろから拳骨が飛んできた。
国木田独歩
阿呆が。再会を喜ぶのはいいが、さっさと仕事をしろ。


いつの間にか皆の空気も緩んでいる。

太宰治
手厳しいね、国木田くんは。
織田作之助
仕事があるなら、そちらを優先しなければな。
太宰治
ええ、織田作までそれ云う?
仕方無い。さっさと終わらせてしまおう。
見ると、国木田くんは面白いくらい間抜けな表情カオで固まっていた。
太宰治
そうだ、織田作。今日は久しぶりに飲もうよ。3人で。
織田作之助
嗚呼、そうだな。
呼ぶのか?
太宰治
其の必要はないよ。
なにせ、特務課のエージェントだよ?
誘わなくても、彼の方から来てくれる。


陽が沈み、夜の闇が街を支配する時間。

今宵、其の中にある小さな灯火の下に、

再び三匹の迷い犬が集まる。

太宰治
いやあ、こんなことってあり得るんだね。
私があの場を離れてすぐに与謝野さんが駆けつけてきてくれたなんて。
乱歩さんと与謝野さんには感謝してもしきれないよ。
織田作之助
そうだな。あの二人がいなかったら此処でこうして話すこともできなかった。
太宰治
そうそう。しかもその後欧州で身を隠していた?
生きてるなら一言ぐらい言ってくれたら良かったのに。
織田作之助
済まない。そうしたかったのだが、太宰の場所がわからなかったからな。
太宰治
ま、確かにね。仕方ないか。でも、安吾は別だよ。
知ってたらしいじゃないか!


皆狡い!と頬を膨らませて云う太宰は、まるで拗ねた子供だ。

坂口安吾
仕方ないでしょう。
機密事項でしたし、僕だってつい一週間ほど前に知ったばかりなんですよ。
太宰治
それでもだよ!なんで私より安吾のほうが先に知るのさ。
織田作之助
喧嘩は良くないぞ。
太宰治
、、、、、、、、、、、、、
坂口安吾
、、、、、、、、、、、、、
安吾が呆れたように笑い云った。
坂口安吾
駄目ですね。身体が忘れてしまっています。
慣れるまで、もう少し時間がかかりそうですね。
織田作之助
そういえば、今日会うことにしたのにも理由があるんだ。
太宰治
理由?会えるから、じゃなくて?
織田作之助
其れもあるんだが、これも渡したくてな。


織田は数枚の原稿用紙の束を出した。

太宰治
真逆、、、
織田作之助
嗚呼、執筆してみた。
お前に一番最初に読んでほしくてな。
太宰治
これ、本当に私が一番最初に読んでもいいのかい?
織田作之助
逆に、太宰以外にいるとでも?
太宰治
ほらだって、安吾とか、、、
坂口安吾
僕は無理ですよ。
それにほら、今日は太宰くんの誕生日でしょう。
太宰治
、、、今日って何日だっけ?
織田作之助
6月19日だ。
太宰治
そう、自分の誕生日なんて、興味がなくて忘れていたよ。
坂口安吾
まあ、そんなことだろうと思いました。
織田作之助
受け取ってくれるか?
太宰治
勿論だよ!今読んでもいい?
織田作之助
駄目だ。お前が一人のときに読んでくれ。


恥ずかしいのだろうか。

少し視線を下にやってから答えた。

太宰治
わかった。帰ってから読もう。










坂口安吾
では、今日は何に乾杯します?
太宰治
決まっているだろう?
織田作之助
決まっている。






三人
『友との再開と誕生日に!』











カラン、と氷の音が鳴った。

































/////

p.s.

誤りを訂正させていただきました。
  他に間違いが見つかり次第、
  そちらも訂正させていただきます。
  皆様もなにか見つけたらコメントに書いていただけると嬉しいです。
  失敬



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