深い夜だった。
総統室には安物の置き時計が刻む秒針の音と、
羽ペンが紙の上を滑る乾いた音だけが響いている。
ふとそんな考えがよぎる。
前はもう少し騒がしかったはずや。
笑い声や、怒鳴り声や、どうでもええ言い合い。
そういうもんが、当たり前にあった。
今、トントンの周りにあるのは、天井まで積み上がった書類の山だけやった。
短く息を吐き目頭を押さえる。
視線の先には数カ国との貿易統計。
数字は嘘をつかへん。
コンコン
2023年6月、コネシマが消えてから。
穴は埋めたはずやった。それでも
こうして形になって出てきている。
パタン
二人が去り、部屋には再び静寂が戻る。
椅子に深く体を預け窓の外を見る。
月光に照らされた軍旗が力なく揺れていた。
誰も答えへん言葉が静かな部屋にただ落ちた。
ふと首筋に手を当てたけど何も残ってへん。
跡なんてとっくに消えてる。
それでも
触れた場所だけ、妙に熱い気がした。
あの声が、耳に残っている。
甘い誘いと逃げ道。
全部投げてあいつの隣にいれば
どれだけ楽か。
立ち上がり部屋の奥の扉を見る。
その向こうにあるのは総統室。
そこにあいつがおって
その隣には、選ばれたやつらがいる。
手を伸ばせば届く距離やのに
届かへん場所。
あの日、言うたはずや。
逃げる選択肢はない。
最初からそんなもん選んでへん。
ペンを握り直し、机の上の資料を一枚抜き出す。
B国との直接交渉申請書。
ここで動かなければ、もう持たへん。
この国を守るためなら、どんな条件でも飲むしかない。
たとえそれが取り返しのつかん一手やとしても。
トントンは迷わず署名を書き入れた。
コツコツコツ、、
ワイは大先生の部屋の前で止まった
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!