私が質問をしたのに何故か質問を返されて困惑する。
理想なんて無いけど好きな人はいる。
しかも、その好きな人を前にしてそんな事を言えるわけも無くて、
虎太郎とは言わないけど、少しくらいは気付いて欲しくて分かりやすそうな言葉を口にしてみたけれど、
気付いているのかいないのか、真面目な表情を浮かべながらそう返してきた。
心の中で悪態をつきながらも表面では何でもないみたいな顔をしながらおどけて見せて、
さっきの質問に答えて貰えるよう誘導していく。
虎太郎に悪気は無いって分かってる。
心地良いとか言われるのも素直に嬉しい。
でもね、それも全て『友達』としてしか見られていないのが悲しいの。
胸の奥がチクリと痛むけど、それは表に出さず、
私も嬉しいとだけ伝えるのが精一杯だった。
虎太郎と居ると、一日があっという間に過ぎていく。ショッピングの後はファストフード店でひと休みして、駅ビルを出る頃にはすっかり暗くなっていた。
話をしながら徒歩で帰る私たち。
駅から自宅までは歩いて十五分ちょいの距離。
家に少し近付くたび、楽しい時間がもう終わるという淋しさが込み上げ、だんだん悲しくなってくる。
そして、住宅街を少し歩いた先のY字路に差し掛かる。
私の家はこの道を左で、虎太郎の家は右方向にある為、必然的にここで別れることになる。
悲しい気持ちを隠し、今日は楽しかったということを告げた私が家の方へ歩いて行こうと足を一歩踏み出した、その時、
そう口にした虎太郎が再び私の隣に立った。
虎太郎のその言動は、凄く凄く嬉しい。
こんな風に女の子扱いしてもらえるのなら、嘘でも『恋人同士』なのは嬉しいと思いながら、あと少し一緒に居られることに喜びを感じていた。
くるりと身を翻した虎太郎は、手をヒラヒラと振りながら来た道を戻って行く。
そんな彼の後ろ姿を見送りつつ、想いが届けばいいのにと願いながら、
そう小さく呟いた。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。