第52話

絶望のリュシア
3
2025/11/04 09:00 更新
――宙に浮かぶリュシアの姿は、まるで氷の彫像だった。
 その髪は灰色に染まり、瞳には光がない。
 だが、彼女の手には見覚えのある“杖”が握られている。
 それは、かつてエマと笑い合いながら戦った、あの杖だった。

「……リュシア、なの?」
 エマが一歩近づく。
 けれど、返ってきたのは杖の先から放たれる、鋭い光線だった。

 轟音。
 地面が裂け、光がすべてを呑み込む。
 その威力は、まさに“人の記憶を焼く”ものだった。

 避けながら、エマは息を荒げた。
「ちがう……これは、あなたじゃない!」

『わたしは――リュシア。
 でも、あなたの中の“記憶”がそう言ってるだけ。
 わたしの中の“リュシア”はもう死んだ。』

 その声は、冷たくも悲しい。
 ステラが遠くで微笑む。
「ねぇ、いい声でしょう?
 “絶望”の音って、こんなにも綺麗なのよ。」

 ミレナがステラを睨みつける。
「あなた……人の想いを、何だと思ってるの?」

「想い? ああ、あの壊れやすい幻想のこと?
 それはね、素材よ。魔女を生むための。
 あなたが“神”として見ている希望だって、全部その延長線上にあるの。」

 ミレナの背から、光が強く放たれた。
「……なら、わたしがその幻想を終わらせる!」

 翼が広がり、天へと突き上がる。
 エマはその光の中でリュシアを見上げ、剣を構えた。

 ――リュシアは攻撃を止めない。
 だが、その表情の奥に、ほんのわずか“ためらい”があった。

「リュシア……あなた、まだ、どこかにいるんでしょう?」
 エマの声が震える。
「なら、わたしが、取り戻す!」

 レクイエムが光を放つ。
 剣先がリュシアの杖とぶつかり、空気が歪む。
 衝撃波が辺りを包み込み、ステラすらも目を細めるほどの閃光が走った。

 ――その瞬間。

 リュシアの瞳に、一筋の涙が流れた。

『……やっと、届いた。』

 彼女の身体が砕け、光の粒となって消えていく。
 その光の中に、小さなストーンがひとつ、落ちた。

 それは、エマが以前に見た“リュシアのストーン”とは違い、
 穏やかに脈動していた。

「……リュシア、今度こそ、休んで。」

 エマがそれを抱きしめたとき――
 空が暗転した。
 ステラの笑みが、不気味な静けさに変わる。

「“絶望”を超えた先に、何があると思う?」

 エマは答えない。
 ただ、光を握る。

 その時、ステラの背後で――何かが動いた。
 まるで“鏡”のように、ステラ自身の影が立ち上がる。
 その影の眼が、赤く光った。

 ミレナが息を呑む。
「まさか……ステラ、あなた……」

 ステラが、微笑んだ。
「ええ、次に生まれる魔女は――“わたし自身”よ。」

 その言葉と共に、空が割れ、
 ステラの影が世界を呑み込んでいった。

プリ小説オーディオドラマ