――宙に浮かぶリュシアの姿は、まるで氷の彫像だった。
その髪は灰色に染まり、瞳には光がない。
だが、彼女の手には見覚えのある“杖”が握られている。
それは、かつてエマと笑い合いながら戦った、あの杖だった。
「……リュシア、なの?」
エマが一歩近づく。
けれど、返ってきたのは杖の先から放たれる、鋭い光線だった。
轟音。
地面が裂け、光がすべてを呑み込む。
その威力は、まさに“人の記憶を焼く”ものだった。
避けながら、エマは息を荒げた。
「ちがう……これは、あなたじゃない!」
『わたしは――リュシア。
でも、あなたの中の“記憶”がそう言ってるだけ。
わたしの中の“リュシア”はもう死んだ。』
その声は、冷たくも悲しい。
ステラが遠くで微笑む。
「ねぇ、いい声でしょう?
“絶望”の音って、こんなにも綺麗なのよ。」
ミレナがステラを睨みつける。
「あなた……人の想いを、何だと思ってるの?」
「想い? ああ、あの壊れやすい幻想のこと?
それはね、素材よ。魔女を生むための。
あなたが“神”として見ている希望だって、全部その延長線上にあるの。」
ミレナの背から、光が強く放たれた。
「……なら、わたしがその幻想を終わらせる!」
翼が広がり、天へと突き上がる。
エマはその光の中でリュシアを見上げ、剣を構えた。
――リュシアは攻撃を止めない。
だが、その表情の奥に、ほんのわずか“ためらい”があった。
「リュシア……あなた、まだ、どこかにいるんでしょう?」
エマの声が震える。
「なら、わたしが、取り戻す!」
レクイエムが光を放つ。
剣先がリュシアの杖とぶつかり、空気が歪む。
衝撃波が辺りを包み込み、ステラすらも目を細めるほどの閃光が走った。
――その瞬間。
リュシアの瞳に、一筋の涙が流れた。
『……やっと、届いた。』
彼女の身体が砕け、光の粒となって消えていく。
その光の中に、小さなストーンがひとつ、落ちた。
それは、エマが以前に見た“リュシアのストーン”とは違い、
穏やかに脈動していた。
「……リュシア、今度こそ、休んで。」
エマがそれを抱きしめたとき――
空が暗転した。
ステラの笑みが、不気味な静けさに変わる。
「“絶望”を超えた先に、何があると思う?」
エマは答えない。
ただ、光を握る。
その時、ステラの背後で――何かが動いた。
まるで“鏡”のように、ステラ自身の影が立ち上がる。
その影の眼が、赤く光った。
ミレナが息を呑む。
「まさか……ステラ、あなた……」
ステラが、微笑んだ。
「ええ、次に生まれる魔女は――“わたし自身”よ。」
その言葉と共に、空が割れ、
ステラの影が世界を呑み込んでいった。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。