岩本side
姉さんが外に出て30分。やっと帰ってきた。そしてそのまま俺に抱きついてくる。俺を見上げる姉さんは疲労困憊な顔をしている。
『岩本…』
岩本「おかえりなさい、姉さん。部屋に戻りましょう。」
姉さんを抱きかかえて楼主部屋まで連れていく。途中すれ違った佐久間に襖を開けてもらった。
岩本「少し寝ますか?」
『うん…』
岩本「分かりました。ちなみに今日は?」
『……宮舘。』
岩本「かしこまりました。ではゆっくりおやすみくだs…姉さん?」
俺が出ていこうとした時だ。姉さんが俺の浴衣の裾を掴んだ。
岩本「どうされました?」
『…ここに、いて。』
岩本「分かりました。ふっかに今日の相手だけ伝えるので少し待ってて下さいね。」
そう伝えると姉さんは小さく頷いた。ふっかの部屋に行きこの事を伝える。
岩本「……って事だからよろしく。多分久々に外出歩いて疲れきってるから。」
深澤「分かった。姉さんの事頼む。」
分かったと伝え俺は姉さんの元へ戻る。姉さんはいつもの顔に戻っていた。
岩本「お待たせしました、姉さん。」
『もう、外出たくない…』
さっき外出る時の威勢はどこに行ったのか。行く前は威勢がいいのに帰ってくるとこれだ。ま、そこが可愛いんだけど。
岩本「もう、だから無理しないで下さいっていつも言ってるじゃないですか。」
『だって、あの女の事だって思ったら…あそこ行くしかないし、あんたらに任せても警戒されるだけだし…』
そう呟いて姉さんは俺を強く抱き締めた。
岩本「ふふ、よく頑張りましたね。」
俺は優しく姉さんの頭を撫でる。すると姉さんはポンっと小さい煙を出して本来の姿に戻る。
ここまで読んでくれた皆はある程度予想してたかな。姉さんは妖狐と人間の間に産まれた者。本来の姿は10代の姿に狐耳としっぽを生やした綺麗な女の子だ。この姿のまま何百年も生きている。
『照…っ。』
岩本「っは…ふふ、姉さんの事はなんでも分かりますよ。少し寝ましょ。疲れたでしょう。」
『うん…』
岩本「大丈夫。どこにも行かないですから。」
しばらく抱きしめていると姉さんは規則正しい呼吸をしながら寝ている。
あの時とは真逆だな…もし姉さんが人間なら何歳になるんだろう。俺たちを育てたのはラウールを拾う数年前だから10年以上前か。
あの頃は毎日姉さんに怒られてたな。女の人を抱いて金を稼ぐってのに凄い抵抗してたし、特に阿部ちゃんなんてそれで金を稼ぐっていう姉さんを嫌っていた。
でも姉さんが居なきゃ俺たちは生きていけないんだ。それは姉さんも同じ。姉さんの黒い闇は永遠に取れることは無いんだろうけど、一時的に癒せてあげれるのは俺達だけ。
岩本「姉さん、愛してますよ…」
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!