前の話
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── 初めまして。
皆さんにはまず始めに、この物語の主人公は "朝蔵大空" と覚えてもらいたい。
春休みだ、だが明日でこの春休みも終わってしまう。
長い休みは終わるのが辛いよ……。
と言っても私はインドアなので、休み中なーんもしてないんだけどね!
そう言えば明日から私の肩書きは『高校2年生の女子』と言う事になる。
所謂アニメ・漫画で言う所の、主人公の学年である。
私は今、自分の部屋のベッドに横になって、天井を見つめながら自身の人生をひとり振り返っている。
そんな私の表情は虚無顔。
今まで何かを成し遂げた訳でもなく、何か賞を取った経験も、何も無いのです。
……実は彼氏も出来た事が無い。
私の人生はイマイチ冴えない経歴。
天井を見るのに満足した私は、今度はベランダに出てきて、お月様がひとりぼっちになった夜空を見上げる。
私の人生。
あ、なんか急に眠くなってきた。
さっきまで眠気ゼロだったのに……。
時計を見ると、現在時刻は23時57分。
明日からは新学期が始まるので早く寝なくてはならない。
星の見えない暗空を観測するのは誰しも1分も経たずに飽きるだろう。
私も、そんか夜空マニアじゃない。
私は大人しく寝床に着き、布団を首まで被って両目を閉じた。
私、またこんな事言ってる。
ううん、ダメだこのままじゃ。
その後すぐに目を開いて……。
私はそっと目を閉じた。
この独り言を呟いたのは一体何回目だろう、私は自分で数えていない。
だけど何回こんな事を口に出しても、引っ込み思案な私は行動になんか移せない。
きっとまた明日来るのはいつもの一日、一生このまま。
言うだけなんだ。
私は寝息を立てて熟睡だ。
そしてこのまま朝までぐっすり……のはずだが。
何かいつもと違ったモノを感じる。
始めは夢かと思った。
だけど普通の夢とは違って、意識がしっかりあり体も自由に動かせる。
私は変だなと思い、周りを見渡した。
視界に広がるのは 薄紫色 の世界。
環境音も BGM も一切無い。
自分以外の影も無い、ただそれだけの世界。
何も無いし、何も聞こえない。
気持ち悪い……金縛り? とは違うよね?
突然聞こえてきた声に、私はびっくりして後ろに尻餅を着く。
あ、あれ? 痛い?
夢のはずなのに、しっかりと尻に痛みを感じた。
謎の声の主がこれは夢じゃないと言っている。
この人は神か何かなのか?
確かに男の人の声が聞こえるのに、人のような何かはいくら探しても見つからない。
相手は勝手に自己紹介を始めた、しかも意味不明な事をひとりで言っている。
魔法使いとは?
私は訳の分からない状況に戸惑っている。
のに、声の主は妙におどけた口調で話すのだ。
私はその者に恐怖するより段々とムカついてきてしまった。
私は聞き慣れない言葉に思わず聞き返してしまった。
声の主は私の問い掛けにも適当に返す。
私、朝蔵大空は魔法使いに呪いをかけられたようで。
は?
私に掛かった呪いは、名前が無いらしい。
恨みも無く人に呪いをかけるなんて、迷惑な魔法使いもいたもんだなと思った。
生まれてから現実で魔法使いと関わりを持つなんて初めてだけど、この人は多分ロクな魔法士じゃない。
まともじゃない。
正直私は話が見えなくて苛立っていた。
解放?
魔法使いは都合が悪くなったのか、さっきまでデカデカと喋っていたのに急に声が小さくなった。
私はまさかと思って声を荒らげる。
また男の声が言葉の末当たりで小さくなった。
必死になった人間はきっとなんでも出来るはず。
だが私がそう言っても魔法使いは黙ったまんまだった。
どうしたんだろうと思いつつも、私は相手が喋り出すまで大人しく待つ事にした。
魔法使いは、 "ここからはおふざけ無し" みたいな口調で話し出した。
聞こえてきた条件はふざけているのかと思った。
なんだろう……このTHEご都合主義の設定は。
そんなの、乙女ゲーでしか聞いた事ない。
"つまらない"
その言葉は確か寝る前に私が外のベランダでひとり吐き捨てたセリフだ。
この魔法使い、まさかその時から既に近くに居たと言うのか?
気味が悪い、聞いていたとしか思えないほどのタイミングだ。
魔法使いがどこかへ消えてしまう、そう察した瞬間私は口を大きく開けて……。
叫んだ。
だけど誰かの返事が帰って来る事は無かった。
魔法使いは謎を多く残したまま、その姿を私に見せる事も無く私の元から消えて行ってしまった。
── そして。
もう朝が来たらしい、さっき眠ったばっかな気さえするのに、外も明るくなっていた。
朝は無情だ、すぐに帰って来る。
まるでこの私に何か期待しているように、いつも前のめりになってやって来る。
コンコンっ……。
背伸びをしていると部屋のドアが2回ノックされた。
聞き逃しそうなほど控えめなノック音。
このノック音は、きっと弟の 真昼 だろう。
部屋の外には、やっぱり真昼が居た。
弟は面倒臭いと顔に書いてあるかの様な表情だった。
この可愛い子は自慢の弟の 朝蔵 真昼 。
真昼とは正真正銘、本当の姉弟であるが、歳は1個違いで、今年から真昼も私と同じ高校に通っている。
幼稚園、小学校、中学に続き高校もお姉ちゃんと同じ学校を選ぶなんて本当に可愛い奴め。
お察しの通り、私は軽度のブラコンだと思う、それを私は本人や周りに隠すのにいつも必死だ。
制服に着替えて朝食を食べていると、私のお母さん、 朝蔵 葵 によってリビングのテレビが点けられた。
ベテランオカマタレントが今アツいインフルエンサーをゲストとして呼んで適当に持ち上げる番組。
しかし、この番組は朝にやっているようなやつじゃない。
ソファで夢中になって、ハート目でテレビを見ているのは私の母、 朝蔵 葵 (大のイケメン好き)。
千ちゃん、千兄 とは、テレビの向こうでオカマタレントと一緒に映ってる私の兄、アサノヨゾラこと 朝蔵 千夜 の事だ。
男の娘系ファッションデザイナーとして持ち切りのインフルエンサー、それが私の "兄" なのだ。
千夜お兄ちゃんは美大入学と同時に家を出て行ってしまった。
最後に会った時にはまだ普通に男性らしい格好をしていたので、男の娘化してテレビに出て来た時は本当にびっくりした。
もう何年も会えていない、久し振りにお兄ちゃんに会いたいなぁ……。
と言って真昼は、学校カバンを持って足早にリビングから出て行った。
私は真昼に続くように家から出て学校に向かった。
まあ別に、真昼は一緒に登校してくれる訳ではないが。
プルルッ♪ プルルッ♪
その時、リビングの電話機が鳴り出した。
つづく……。
















編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。