お前が嫌いだった。
お前が役人としてこの屋敷に来たのは
たった二ヶ月前のことで
ひ弱でうじうじした態度が最初から気に入らなかった。
怪しく思って、聞けば農民一家の長男だそうで
その分際でこの屋敷に転がり込んできたのも不愉快だった。
お前の呼びかけに、僕は何も答えず
ひざまづくお前を睨みつけて通り過ぎようとした。
嫌な目だった。
その嫌な目がこちらを向いていて、
無意識にも、僕の中で何か嫌な感情が湧いてくる感覚を覚えた。
お前を前にするたびに内側からふつふつと湧いてくるこの感情が何なのかわからなくて、
むしゃくしゃして、腹が立って
それをお前にぶつけることしかできなかった。
とにかく、あの頃僕は幼くて
お前のすべてが嫌いだった。
* * *
「ここ最近、屋敷の臣人の不審死が立て続けに起こってるんですって」
書庫で書物を探していると、障子の向こうからそんな声が聞こえてきて、僕は思わず動きを止めた。
「それもね、どの遺体も首に噛み跡があるんだとか…」
「そりゃあきっと、そこの山に潜む鬼の仕業だわ…!
あぁ恐ろしいこと…」
"鬼の仕業"…か………
なんだか書物を読む気にはなれず、僕は何も持たずに書庫を出ようと戸を開けると
目に飛び込んできたのは僕の嫌いな顔だった。
またお前か。と言う代わりにはぁ、と溜息をつく。
一人時間になんだというのか。
するとお前はひざまずき、強張った表情で恐る恐る口を開いた。
ありえない。
僕に、お前と四六時中一緒にいろと言うのか?
すぐに断ることだってできたのに、理由を聞いてやろうと思った自分を褒めてやりたい。
この時ばかりはお前も珍しくしつこかった。
けれど本当に、いらないものはいらないのだ。
僕が冷たくそう言い捨てると、お前はよくわからない表情をした。
僕はそんなお前が嫌いだった。
よりによってお前が僕を守るなんて
そんなもの、鬱陶しいだけだ。
* * *














編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。