雑草一本生えることの無い、とある空き地に魔族が集合していた。
そこに更に二人、青髪と白髪の双子姉妹が、手を繋ぎながら駆け付けてきた。
先生は二人が来たのを確認して振り向くと、微笑みながら手招きして”半透明な扉“を開いた。
そして二人は一礼して中に入ると、改めて頭を下げた。
そう…”半透明な扉“というのは、此処が令治くんの作った一つの空間だからである。
気温はこの空間だけ外と遮断され、心地よい気温になっている。
だから寒い訳ないだろうに…まぁ、確かに寒そうな格好してる人は何人かいるけれど。
先生がそう仰ったので、私は視線だけを動かして二人を探した。
確か私が此処に来る時には、既に二人はいたはずで……あ、本当にジャージとパーカーのままだ。
その続きの言葉は、私達と先生の間に吹いた突風によって塞がれた。
色とりどりの花弁が辺りに舞っている事から、誰が来たのか察して、呆れた目をする者や溜息を吐く者もいた。
確かに風はとても強かった。
一般人がこの突風に巻き込まれたら吹っ飛ぶくらい…それでも私達が吹っ飛ばずに済んでるのは、各々の魔法で風を制御したからだ。
ただそのせいで空間が一時的に破壊されかけたので、冷風が襲いかかり…少しだけ寒かった。
…それに、中には急いで櫛で髪を整えてる子もいる。
私は別に風が吹き荒れようと、元からこの…他人に理解されづらい髪型なので別にいいんだけど………あ、心叶ちゃん後ろ髪が前に来ちゃってる。前髪と後ろ髪別の色だから分かりやすい。
そんな嫌味混じりの由太くんの言葉にも物怖じすることなく、花の天使はにこりと微笑んだ。
そして彼女は周りに浮かんでいる青い花弁を手に掴み、両手で包むと「ほーい」と言って空き地に放り投げた。
フラワーさんが花弁を空き地に投げると、それはルーレット台に変化していた。
…確かに有能なのは認めざるを得ない。
だってその花弁どうなってんですか。
なんで数秒前までふわふわ浮いてた青い花弁が両手で包んだだけでルーレット台になるんですか??
有能って言うよりは恐怖。地球時代から生きてる天使って怖い。
だけど、ここで言うと明らかに調子に乗る未来が見える。望來ちゃんじゃないけど見える。
そして煽ってくることでもあったら、合戦前に血祭りになりかねない。…いや、私じゃなくて他の子が明らかにブチ切れそう。
本当にあるんだ、全員の名前。
だから道理でそんなに細かいんだ、60人もいるし。
…そう。
三日前の夜、私達眷属は合戦を承諾した。
己が抱えている鬱積の発散にもなるし、何より民に対する嫌がらせ…一種の”復讐“でもあると。
…つまり、極力やらない方がいいという事だろう。
そのルールに則ってしまえば、最早何でもありの大乱闘になってしまう。
それだけは私も避けたい…不必要な争いは好きじゃないから。
そう言って先生はルーレットに近づき、円の端を掴む。
…遂に、来る。そう思って、私は手を握り締めた。
あまり感情が出ない方(碧夣ちゃん程ではないが)だと思われてるらしいが、普通に私にだって喜怒哀楽はある。
……緊張だって、する。
どうか、私が足を引っ張る事だけは避けたい。
そしてなるべく、穏便に合戦を済ませたい…私の為にも、他の子の為にも…先生達の為にも。
くるくるとルーレットは回り、針は誰を指すのか分からなくなった。
…そして遂に円は止まり、針はとある名を指していた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!