いやさ…なんとなく察してた。察してたけど…
なぜ増えてる
来やがった…と少し驚き、思わず茹でた枝豆を落としそうになるが、なんとか持ちこたえ、目の前の少年たちに問いかける。
お互い大変だな。えっと…橘くん(だったはず)。
おーい。あなたの耳ちゃんと機能してる?
私の言葉をスルーしそう言う下っ端君。
よく見たら3人とも手を後ろにしている。
こいつら賄賂の意味わかってんのか。
3人がそれぞれ持ってきたものを私の前に差し出してくる
それらを一瞥し、即座に切り捨てる
だからなんなんだその制度は。
そして橘くんが常識人で良かった。
ただ友達のことをもっと積極的に止めてくれ。
ブレーキ役。
私がそう言うと3人はその持ってきた賄賂を開けて自分達で食べ始めた。
それ、賄賂じゃなくて自分達で食べたかったやつだよね?
そのまま帰るのかと思いきや、下っ端君は前の人の椅子を、橘くんと日和くんは私の斜め前の人の椅子を借りて私の机を囲うように座ってきた。
席の周りが昼休みに昼練へ繰り出す人達ばかりだからまだマシだけど、こんなに下級生が居座ったら私もだし、周りも迷惑す────
周りを見渡してぎょっとする。
そこには一定距離を保ってこちらを見るクラスメート達がいた。特に女子はキラキラとした視線を私の目の前にいる後輩達に送っている。
そして下っ端君が1回来なかっただけで話かけてきた藤沢さんはというと、何故かこの状況に全く興味を示さず、それはそれは美味しそうにミルクフランスパンと書かれたパンを頬張っている。キャラが全く掴めない。何なんだ藤沢さん。
藤沢さんは置いておいて、まぁこの後輩達は顔はいい方だ。普通の女子が嫌がるはずもなかったと今更ながらに悟る。
男子も男子でredのメンバーというのが珍しいのか好奇の目で3人を見ているし
それに全く反応せず(ただ単に気づいていないだけかもしれないが)、相変わらず理不尽で一方的な言い草をしてくる下っ端君を一蹴し、私は橘くんと日和くんの方を交互に見た。
そう言いながら、デザートのぶどうを1粒食べる。
ぶどうって美味しい…
いきなり話を振られたせいか、少し間を置いてから日和くんは答える。
へぇ、この調子じゃ、この少年は姫の本性気づいてるのかな。
日和くんの意見に少し驚いた様子を見せた橘くんは慌てて自分の意見も述べた。
日和くんに対してこちらは気づいていないらしい。まあ、計算や養殖天然は男は気づけないのが普通らしいから、仕方ないよね。
だが、困った。
言いくるめて下っ端君に諦めるよう説得してもらおうとしたのに、これでは逆に余計ややこしくなりそうだ。
何人で言われようとも出す結論は変わらない。
なりたいと言ってもなれるものではないのは知っているし、私が嫌と言ったところで何なれる前提みたいに言うなと言われるかもしれない。
だが、とにかく嫌なのだ。あんな奴らと関わりたいなどとはこれっぽっちも思っていない。
私は傍観するだけで十分。ただ誰が何をしようとも関わらず、空気の様に傍観しているだけでいい。
その中に自分がいるなんてごめんだ。
それが私の揺るぎない思い。
姫が誰だろうと私には関係ないし。
日和くんの顔が少し歪んだ気がする。それもそうか。あの姫の本性をしった上で私は気づかなかったフリをしている。
あんな姫、私だったらお断りだからな。
でも、やっぱり私にとってはどうでもいい────
私が姫は1人でいい、と言うと、下っ端くんは俯いた。
そして少しの間、口を開かなかった。
ガタンッ!!!と思いっきり椅子から立ち上がりそう叫ぶ下っ端君。
他の雑音が一切なくなり、教室内全ての視線がこちらに集中する。
だがそれにも構わず下っ端君は続ける。
目にはいっぱいの涙をためて。
私の言葉を遮り捨て台詞のようにそう言うと、彼はそのまま教室の外へ走り去っていった。
ぽかん。
その表現がぴったり似合うような表情を、残された目の前の2人はしていた。多分私も同じような顔をしているだろう。
…と思っていたら、2人は顔を見合わせたあと、急に笑いだした。
え、え、なんで笑ってるの?怖い…
2人はひとしきり笑うと、私の方へ向き直す
しっかりと一礼したあと、下っ端くんの分まで椅子を直したあと、教室から出ていった。
ため息のように吐き出した言葉は、そのまま取り戻した教室の雑音に溶け込んでいった
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。