実技テストから数週間経った。
私等の国は少しずつ、暑さが増している。
あの日から変わったことといえばなんだろうか。
何人かへの私達が向ける視線は大きいだろう。
だが、視線を向けられる張本人たちも変わったようだ。
噂をすれば、だ。
明るく声を上げたのはワイス・ビオラ・フィーネ。
彼の家系は軍人や政治家等が多くいる。
そのため元々注目はされていたが、
今回の実技テストでその注目度は跳ね上がった。
彼は自身独自の武器を、自由に扱っていた。
彼に声をかけられたのはメン・オースティン・オハラと、ネオン・リー・グリーの二人。
彼等は今回、目立った活躍はない。
というか、彼等は最下位であった。
平凡な者たちは彼等を笑った。
『最弱だ』と。
入学してから時々彼らと話すことはあった。
しかし、彼等はあんなにも優しく、微笑むような男であったか。
三人で一緒にいるとき、彼等は以前よりも楽しそうで、嬉しそうで。
フィーネは元々笑顔だったが、更に表情を明るくさせた。
快諾した彼等も、笑みを深くした。
私は思わず呟いた。
本当に小さなそれに、彼等は気付いたのか。
聞こえるはずはない距離であったのに、深緑と淡桃の二対の瞳が僕へ向く。
きっと、私の黄色と緑の瞳はその様子をきれいに反射しているだろう。
もう一度、そらしてしまった視線を彼等に戻すと、彼等は何もなかったようにしている。
そんな他愛もない話に、彼等も混ざるようになったら、きっと楽しいのだろう。
彼等への少しの負い目を、無くせたらすぐにでも彼等へ話しかけるのに。
放課後、俺達は出かけることにした。
おらふくんの言う、シュークリームの美味しい店だ。
俺達はあまり甘いものをたくさん食べたり、買い食いをしたりと、そういったことをしてこなかったので、(顔には出さないが)結構興奮している。
おんりーは早速買ったようだ。
手にはチョコレートを練り込んでいると思われる、茶色のシュークリーム。
確かにおんりーは、時たま買うチョコレート系統のお菓子を好んでいると思う。
本人は気付いていないかもしれないが、他のものよりもがっついて食べるのだ。
店員さんに代金を支払い、商品を貰う。
俺が選んだのは東洋の材料を使ったという。
"日本"という国の"桜"という花を使ったらしい。
淡い桃色が綺麗だと思ったのだ。
おんりーのシュークリームは甘く、チョコチップも所々にあって美味しい。
おんりーはおんりーで、少し酸味のある味に驚いている。
おらふくんはまだ、店のショーケースを睨んでいる。
戸惑いながらも開かれたおらふくんの口に、俺はシュークリームを突っ込んだ。
始めは驚いていたようだが、途中から目がキラキラとなっていった。
おらふくんは店員さんにショーケースを指差しながら、どの商品が良いかを言っている。
それに微笑んでしまうが、店員さんと他のお客さんが死にそうな顔をしているので心配だ。
心の中を見ても、『何あれてえてえ…!』とか言っていて怖い。
おんりーがおらふくんにシュークリームを食べさせる様子が、親鳥が雛にご飯をやっている様子にしか見えなかった。
それで笑ってしまった俺は悪く無いと思います。はい。
だからおんりー。睨むな。ごめんて。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。