後でエリックから詳細を聞くと、翌日の夜に有名な飲食店で宴が行われるらしい。
その店にある高級酒を盗んで、依頼者へ渡すことで大金が貰えるという内容だった。
実施は夜のため、それまでに睡眠を取って夕方ぐらいに食堂で集まろうという話だった。
翌日、朝から昼までアンナは小さな飲食店を開いているドーラの下準備の手伝いをした。
ドーラは、盗賊でもあるが週3ぐらいに夜の飲食店をしているようだ。ドーラは、ご飯を作るのが好きな為…この店を自力で開いたらしい。
昼から夕方までは、エリックから言われたとおりにしっかりと睡眠をとり、体調を整えた。
日が暮れる前、アンナは髪の毛をとかしてマントを被り…食堂へ降りた。そこには、もうガラフが先に来ていた。
ガラフとそんな会話をしていたら、エリックが大きなリュックを背負いながら降りてきた。
あはははっ!と陽気に笑いながらも、エリックは先頭を歩いた。その後ろにガラフとアンナが歩く。
日は暮れ、少しずつ街灯が灯し始めてくる。いつもと違う街へ、アンナは胸をワクワクさせた。
初めて踏み出す夜の街の改札が只今開いた。
星空の下、灯る光の全てが未来を照らす光に見えた。それに触れたくて、もっと広い街を見たくて、アンナはフードを脱いだ。
今まで見た街と同じなのに、全く別世界みたい。
夜でも素敵だと思える街がそこに広がっていた。通り過ぎていく街灯の明かりにアンナは、珍しいものを見るかのように眺めていた。
それに気づいたエリックが小さく笑った。
ずっと目を動かして風景を眺め、真顔になる暇もないアンナ。
景色に見とれて少しずつ歩く速度がゆっくりと遅くなるアンナに気づいたガラフは、少し距離が出来たアンナの手を握って自分の方へ引っ張った。
夜も人は多く、馬車も道を行き通る。昼より夜の方が人々が多いように思えた。そりゃ、そうだよね。夜の街は昼の時よりもわくわくするんだもの。
そんな中、はぐれないようにアンナの手をとって歩くガラフの背中を見てアンナは柔らかく微笑んだ。
アンナは歩く速度を元へ戻し、ガラフの後ろじゃなくて横へと並んだ。
アンナも、繋いでいるガラフの手をそっと握り返した。ガラフも気づいたはずだけど、何も言わずに繋いでいてくれた。
そして、沢山の客が出入りする目的地の飲食店へ着いた。
想像していた大きさの3倍ぐらいある建物だった。中からは、宴を盛り上がるような陽気な音楽が流れていた。
エリックの一言で、私達は中へ入る。
建物内はうす暗く、綺麗な形をした電球がたくさん天井から吊るしてあった。ぼんやりとオレンジ色や赤色の蛍光が照らす下、大勢の人々が酒の入ったグラスを持ちながら楽しんでいた。
城でよく開くパーティとは違った雰囲気が広がる夜の宴だった。
沢山の机や席がある向こうに丸い舞台があり、そこには綺麗な布を纏った踊り子が陽気な音楽とテンポのいい太鼓に合わせて踊っていた。
太鼓の音に合わせて、観客は手拍子をする。
楽しそうに振る舞う踊り子の姿には、アンナの母が踊っていたのと同じだった。
3つの席があるいい場所をとって私達は座る。エリックは、店員に飲み物を頼んだ。
エリックには、ウイスキー。ガラフと私には綺麗な色をしたフルーツジュースだった。
そう言うエリックに、ガラフは冷たい視線を送った。
見ているだけで、楽しい気持ちになる。
だってここにいる人は皆、笑顔なんだから。
そうしている間にも、踊り子によるパフォーマンスが終わったみたいで拍手が起こる。
やはり、慣れや体験なのだろうか?もう最初から依頼の酒の在り場を掴んだエリックは、視線で2人に教えた。
エリックの視線に辿って見た先は、確かに目的の酒があった。カクテルのカウンターに接する店員の後ろの棚だ。
困ったことに、常に人の目がある難しい場所だった。
アンナの発言に目を丸くする二人。
アンナは自信に満ちた笑顔を浮かべてから早速、舞台へ向けて迷いもなく走っていった。
丁度、司会だろう男性が【次の踊り子】がまだ着かないことに対する謝罪言葉を述べている時だった________。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!