第15話

夜の街
71
2022/07/09 16:14
後でエリックから詳細を聞くと、翌日の夜に有名な飲食店で宴が行われるらしい。

その店にある高級酒を盗んで、依頼者へ渡すことで大金が貰えるという内容だった。

実施は夜のため、それまでに睡眠を取って夕方ぐらいに食堂で集まろうという話だった。
翌日、朝から昼までアンナは小さな飲食店を開いているドーラの下準備の手伝いをした。

ドーラは、盗賊でもあるが週3ぐらいに夜の飲食店をしているようだ。ドーラは、ご飯を作るのが好きな為…この店を自力で開いたらしい。

昼から夕方までは、エリックから言われたとおりにしっかりと睡眠をとり、体調を整えた。

日が暮れる前、アンナは髪の毛をとかしてマントを被り…食堂へ降りた。そこには、もうガラフが先に来ていた。
アンナ
アンナ
___ガラフ!おはよう!
アンナ
アンナ
あら、おはようなの…かしら?
アンナ
アンナ
こんばんは?それもなんか違うなぁ…
ガラフ
ガラフ
…おはよう。でいいだろ。
ガラフ
ガラフ
ちゃんと睡眠は…とれたみたいだな。
アンナ
アンナ
ふふっ!バッチリよ!
ガラフこそ、睡眠とれた!?
ガラフ
ガラフ
ああ、勿論だ。
アンナ
アンナ
エリックと一緒の仕事なんて、わくわくしちゃうね!
ガラフ
ガラフ
……そーかよ、良かったな。
ガラフとそんな会話をしていたら、エリックが大きなリュックを背負いながら降りてきた。
エリック 《盗賊》
やぁ!お待たせ!
じゃ、行こっか!!
ガラフ
ガラフ
そんなでけぇリュック要るのか?
エリック 《盗賊》
ふっ、依頼者の酒のみならず…自分達用の酒も盗むんだよ!その為のスペースさ!
エリック 《盗賊》
当たり前だろ!?何の為にこの依頼を受けたと思ってんだ!
ガラフ
ガラフ
はぁ、そうだった…
エリックはそーいう奴だったわ。
あはははっ!と陽気に笑いながらも、エリックは先頭を歩いた。その後ろにガラフとアンナが歩く。
日は暮れ、少しずつ街灯が灯し始めてくる。いつもと違う街へ、アンナは胸をワクワクさせた。

初めて踏み出す夜の街の改札が只今開いた。

星空の下、灯る光の全てが未来を照らす光に見えた。それに触れたくて、もっと広い街を見たくて、アンナはフードを脱いだ。
アンナ
アンナ
わぁ……、綺麗な夜。
今まで見た街と同じなのに、全く別世界みたい。

夜でも素敵だと思える街がそこに広がっていた。通り過ぎていく街灯の明かりにアンナは、珍しいものを見るかのように眺めていた。

それに気づいたエリックが小さく笑った。
エリック 《盗賊》
ははっ、凄かろ?夜の街は。
エリック 《盗賊》
アンナ嬢ちゃん、この夜はいかがでしょう?
アンナ
アンナ
想像を遥かに超えた凄い世界ね…!
アンナ
アンナ
こんなにもわくわくして楽しい夜はきっと今夜だけよ。
ずっと目を動かして風景を眺め、真顔になる暇もないアンナ。 

景色に見とれて少しずつ歩く速度がゆっくりと遅くなるアンナに気づいたガラフは、少し距離が出来たアンナの手を握って自分の方へ引っ張った。
アンナ
アンナ
わっ……!
ガラフ
ガラフ
…歩くの遅くなってんぞ。
ガラフ
ガラフ
夜も人多いから気をつけろ。
夜も人は多く、馬車も道を行き通る。昼より夜の方が人々が多いように思えた。そりゃ、そうだよね。夜の街は昼の時よりもわくわくするんだもの。

そんな中、はぐれないようにアンナの手をとって歩くガラフの背中を見てアンナは柔らかく微笑んだ。

アンナは歩く速度を元へ戻し、ガラフの後ろじゃなくて横へと並んだ。
アンナ
アンナ
……今夜だけ許してね。
アンナも、繋いでいるガラフの手をそっと握り返した。ガラフも気づいたはずだけど、何も言わずに繋いでいてくれた。
そして、沢山の客が出入りする目的地の飲食店へ着いた。

想像していた大きさの3倍ぐらいある建物だった。中からは、宴を盛り上がるような陽気な音楽が流れていた。
エリック 《盗賊》
___さぁ、入るぞ!
エリックの一言で、私達は中へ入る。

建物内はうす暗く、綺麗な形をした電球がたくさん天井から吊るしてあった。ぼんやりとオレンジ色や赤色の蛍光が照らす下、大勢の人々が酒の入ったグラスを持ちながら楽しんでいた。

城でよく開くパーティとは違った雰囲気が広がる夜の宴だった。

沢山の机や席がある向こうに丸い舞台があり、そこには綺麗な布を纏った踊り子が陽気な音楽とテンポのいい太鼓に合わせて踊っていた。
太鼓の音に合わせて、観客は手拍子をする。


楽しそうに振る舞う踊り子の姿には、アンナの母が踊っていたのと同じだった。
アンナ
アンナ
…お母様_____。
エリック 《盗賊》
お?あれは踊り子か!
宴だから、踊り子も来てんだな!
エリック 《盗賊》
さて、怪しまれないように普通の客として振る舞うぞ!いいか?ガラフ、アンナ。
エリック 《盗賊》
2人とも年齢の割には大人っぽく見えるから大丈夫だろ!
3つの席があるいい場所をとって私達は座る。エリックは、店員に飲み物を頼んだ。

エリックには、ウイスキー。ガラフと私には綺麗な色をしたフルーツジュースだった。
ガラフ
ガラフ
いいのかよ?こんな高いの頼んで…
エリック 《盗賊》
いーの、いーの♪
どーせ、その後 お金を頂くんだから!
ガラフ
ガラフ
はぁ。…てか、何で俺達も連れて来たんだよ。
エリック 《盗賊》
それ今、聞いちゃう〜?
エリック 《盗賊》
…ん〜、別に俺だけでも良かったんだけど…。
寂しいじゃん?こんな楽しいところに一人で来るとか…!
そう言うエリックに、ガラフは冷たい視線を送った。
エリック 《盗賊》
こんな目で見るなよ、ガラフ。
ガラフ
ガラフ
しょーもない理由で呆れているんだよ。
エリック 《盗賊》
まぁ、それだけじゃないぞ!理由は!
お嬢ちゃんにそんな所もあるよ〜って見せたかったのが本来の理由かもな。
アンナ
アンナ
ふふ!ありがとうございます、エリックさん!
アンナ
アンナ
私…、ここに来れて良かったです。
見ているだけで、楽しい気持ちになる。

だってここにいる人は皆、笑顔なんだから。
そうしている間にも、踊り子によるパフォーマンスが終わったみたいで拍手が起こる。
エリック 《盗賊》
__さーて、いつ盗みに動こうか。
ガラフ
ガラフ
エリック、高級酒の場所は分かってんのか?
エリック 《盗賊》
ふっ、入った時に発見済みだ。
馬鹿にすんじゃねぇよ〜、ガラフ。
やはり、慣れや体験なのだろうか?もう最初から依頼の酒の在り場を掴んだエリックは、視線で2人に教えた。

エリックの視線に辿って見た先は、確かに目的の酒があった。カクテルのカウンターに接する店員の後ろの棚だ。
困ったことに、常に人の目がある難しい場所だった。
エリック 《盗賊》
ん〜、どっしよっかな…。
エリック 《盗賊》
あんな人目のつく所にあったらどうにも出来ねぇ。そこで、ガラフ。仕事だ。
なんか注目を浴びることをしてみろ。
ガラフ
ガラフ
…は?突然言われてもな…。
アンナ
アンナ
…エリックさん!
その仕事、私にやらせてください!
アンナ
アンナ
私が作ります!エリックさんが盗める時間を!
エリック 《盗賊》
…え?アンナ嬢ちゃん?
アンナの発言に目を丸くする二人。

アンナは自信に満ちた笑顔を浮かべてから早速、舞台へ向けて迷いもなく走っていった。



丁度、司会だろう男性が【次の踊り子】がまだ着かないことに対する謝罪言葉を述べている時だった________。










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