ドンッ ドンッ
銃声が響き、敵の手を撃ち抜く。振り向いた方には、飯田と雄英教員がいた。
「1ーAクラス委員長飯田天哉!ただいま戻りました!」
オールマイトが脳無を倒し、疲弊した状態で死柄木、黒霧と呼ばれる二人に立ち向かっていたところだった。どうやら逃げ出した飯田が教員を呼びに行ったようだった。
「ゲームオーバーだ。今度は殺すぞ、オールマイト。」
そう言い残し、敵は消え去る。
先程まで戦地だった緑谷の周囲には、少しほっとした空気が流れた。セメントスによってオールマイトが視界から遮られ、緑谷除くその場にいた数名が帰るよう命じられる。火子も大きく息をつき、ゆっくり立ち上がって彼らについて行く。
歩いていると、ふと轟が火子の気配に気づき、振り返る。
「お前、あっちに逃げてなかったのか」
「えぇ、だってああ言われてほっといて逃げる訳にもいかんでしょうよ」
火子がそう言うと、轟が何か言いたげな表情をした後、結局何も言わず前を向いて歩き出した。火子も、そんな彼を見てこてん、と首をかしげたあと、再び歩き出す。
(初めての実習、災難だったなぁ……)
×××
「おはよお……」
「あら、おはよう火子ちゃん」
朝、火子が教室に欠伸をしながら入ると、蛙水が挨拶を返す。
「眠そうね、眠れなかったのかしら?」
「あんなことがあったので……」
「今日はヘアピンついてないのね」
「あ、忘れた…」
「なくても可愛いわよ」
「どうも」
軽く会話をしてから、火子は自分の席に向かう。鞄を下ろし、ある程度荷物を出してから、席にどさりと座り、眠る。あまりにも眠かったため、一瞬で意識は遠のいた。
「おはよう柳くん!!!!」
「だああああああ!?!?!?」
突然響いた大声に立ち上がって悲鳴をあげる。どうやら火子に挨拶した飯田の声のようだ。
「もうすぐHRが始まるぞ!起きた方がいい!」
「うん……どーも…」
火子はキーンとする耳をぐりぐりした後、席に座って、首を振って眠気を覚ました。
「「相澤先生復帰はや!!!」」
相澤はまさかの復帰で、クラス全員が驚く。その姿は包帯ぐるぐる巻きで、ミイラのようだ。火子もトラウマになるほどの大怪我だったのに、ケロッとしている彼に引いていた。
「お前らにはまだやることがある。」
相澤の姿に引いていた火子が、その声にはっとする。慌てて姿勢を正し、前を向いた。
「それは、雄英体育祭だ」
「「ちょう学校っぽいのきたァァァ!!」」
クラス全体が沸き立つ。学校開始早々、非日常過ぎる日々を過ごしているからだろうか。突然大声が響いたので、火子は驚いて耳を塞ぐ。
「敵に襲撃されたばっかなのに体育祭を開催して大丈夫なんですか?」
「また襲撃されたりしたら…」
(それな……)
飛び交う不安の声に火子も同意する。
「逆に開催することで雄英の危機管理体制が磐石だって示す考えらしい。警備も例年の5倍に増やすらしい。何よりウチの体育祭は最大のチャンス。敵ごときで中止していい催しじゃない。」
国民が注目するからなあ、と、その理由に火子も納得する。
「ウチの体育祭は今じゃ日本のビッグイベントのひとつ。かつてのオリンピックに代わるのが雄英体育祭だ。」
「当然プロヒーロー達も見ますのよ。スカウト目的でね!」
相澤の言葉に八百万が付け足す。
「当然、名のあるヒーロー事務所に入った方が経験値も話題性も高くなる。時間は有限。プロに見込まれればその場で将来への可能性が高くなるわけだ。年に1回。計3回だけのチャンス。ヒーローを志すなら絶対に外せないイベントだ。その気があるなら準備を怠るな。」
大きな返事が教室に響く。相澤は以上、と言ってHRを終えた。
(体育祭かぁ……ファットガムとか見るかな)
火子はファットガムの大ファンである。あのフォルムに人目惚れしたのだ。
(スカウトされたら、なんて、夢物語かぁ?)
うーん、とうなってから机に突っ伏す。ファットガムにスカウトされるといいな、と願いながら、再び目を閉じた。
放課後。
1年A組の教室の前は、人でごった返していた。A組の生徒たちも、出られない、と文句を言っている。何しに来てんだ?と火子が疑問に思っていると、丁度良いタイミングで爆豪が話し出した。
「敵情視察だろ、雑魚。敵の襲撃を耐え抜いた連中だもんな。体育祭の前に見ておきたいんだろ。そんなことしたって意味ねェから、どけモブ共。」
(うわぁ……)
爆豪の暴君っぷりに火子は若干、いやかなり引く。
「噂のA組、どんなもんかと見に来たが、ずいぶんと偉そうだな。ヒーロー科に在籍する奴らは皆こんななのかい?」
突如、集団の間を割って、誰かが前に出てくる。
「こういうの見ちゃうと幻滅するな。普通科とか他の科ってヒーロー科を落ちたから入ったってやつ結構いるんだ。」
紫の髪の、ちょっと隈っぽい目の少年だった。こんな大勢の前でここまで堂々と話せる彼に、火子は驚く。
「体育祭のリザルトによっちゃ、ヒーロー科編入も検討してくれるんだって。その逆もまた然りらしいよ。」
彼は挑発するような表情、声色で続ける。
「敵情視察?少なくとも俺は、いくらヒーロー科とはいえ、調子乗ってっと足元ごっそりすくっちゃうぞっつう、宣戦布告しにきたつもり。」
(うわぁ……)
この人もこの人ですごいな、とまた火子は引く。
すると、別の人の声も聞こえてきた。
「おうおうおう隣のB組のもんだけどよ。敵と戦ったっつうから話聞こうと思ったんだがよ。えらく調子づいちゃってんなおい!」
(うわぁ……)
火子が誰かに引くのは今日何度目だろうか。決して目立つのが好きではない火子は、恥もなく堂々と我を通す彼らに驚いてばかりである。
火子が、熱血な彼に注目していると、切島が爆豪に文句を入れていた。
「お前せいでヘイト集まりまくってんじゃねえか!」
「関係ねえよ。」
爆豪はそれを一蹴する。
「上に上がりゃ関係ねぇ。」
端的にそう言うと、すたすたと教室を出ていった。なんて向上心のある我の強い生き物なんだ、と、引くのを通り越して火子は感心する。ついでに彼が開いた道を通って火子も帰ろうとした。爆豪のすぐ後ろを通り、私は空気、私は空気、と念じながら歩く。すると、廊下の両端にずらりと並ぶ生徒たちから、ひそひそと声が聞こえてきた。
「なんであんな格好の……」
「ギャルみたいな子がヒーロー科なんてさ……」
「ちょっとどーなんだろーね、」
「ギャルなのに雄英ヒーロー科です〜ってかっこつけたとか?」
「え、なにそれダサ、w」
「お前ら!!」
彼らの、彼女らの声は全て火子の耳に届いていた。火子の大声が廊下に響き渡る。しんと場が静まり返る。爆豪も彼女の方を振り返った。
火子は、明らかにこじつけで、悪意のある言葉を放った二人の方をぐるりとむき、目を見開いて、無表情でじっと見つめる。恐ろしい瞳に、火子の前にいる生徒たちが、ひっと小さく悲鳴を上げる。
「なんか文句ある?」
ただ、それだけ。
火子がそれだけ言うと、問われた生徒たちはぶんぶんと首を横に振った。火子はそれを見ると、無表情のまま先程よりも早足で歩き出す。火子の様子をじっと見ていた爆豪も追い抜き、人混みなのでついでにその際肩がぶつかってしまったが、彼は何も言わなかった。
(別に、いいだろ)
火子は、ずんずん歩きながら、もんもんと考える。
(私が、私であるだけなのに。)












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!