『どうしたA組ィ!どんなサービスだァ!?』
休憩を挟み、始まった午後の部。火子たちA組女子は、大衆の目に晒されていた。チア服で。
「峰田さん上鳴さん騙しましたわね!」
峰田と上鳴の策略にまんまとはまり、チア服を着せられてしまったのである。火子は目立ちすぎて既に魂が口から抜けていた。
「あかん、火子ちゃん逝ってしまっとる!」
「ちょ、生き返って」
耳郎に背を叩かれ、はっと目を覚ました火子は、真っ赤になって顔を隠す。そしてぼそりと一言。
「峰田、上鳴、あとでちょっと来い」
「やっべぇ俺ら殺される」
「声色がやばい、マジなやつ」
慌てふためいて逃げる二人を他所に、レクリエーションはスタートした。
(でもチア服って可愛いよなぁ…着るならもうちょい違う感じのアクセ付けたかった……)
レクリエーションが終わり、いよいよ最終種目が始まる。4チーム総勢17名からなるトーナメント形式で、一対一のバトルだ。レクリエーションの前にくじ引きをして、対戦の組を決めてある。しかし、最終種目に進出したのは17名、急遽、シードを作ることになったのだ。その枠に入ったのが……
「シードってなんか目立つやんか……」
火子である。火子は1回戦は出場せず、2回戦からの参加となる。爆豪か麗日のどちらかと対戦することになるのだ。胃が痛い、と火子は呟いてから、自分の席に座って、初戦の緑谷と心操の戦いを眺めた。
火子の前には1回戦目の8試合と、2回戦目の3試合があり、中でも爆豪対麗日の戦いや緑谷対轟の戦いは、火子もハラハラしっぱなしだった。2回戦目の第2試合、火子は観戦するのも忘れて椅子の上で体育座りをして縮こまっていた。
(どうしようどうしようどうしよう、爆豪くんはがちでやってくる。殺す気でくる。殺されるかも殺されるかも!)
「火子ちゃん!」
「っ!麗日さん…」
「大丈夫!火子ちゃんなら!」
麗日は火子の肩に手を乗せ、真っ直ぐと目を見つめ言う。力んでいた火子の肩の力が、少しずつ抜けていく。
「めっちゃ怖い!怖いけど!でも、大丈夫。」
優しく、一生懸命伝える彼女の声に、言葉に、火子の緊張や恐怖が少しだけ和らぐ。
「ありがとう……」
彼女にそう告げると、ゆっくり立ち上がって控え室に向かう。少し早いが、歩いた方が気持ちが落ち着く気がした。
かち、こち、と、時計の音が嫌に響く。控え室の中、火子は忙しなく指先を動かして心を落ち着かせていた。きっと大丈夫、大丈夫、と繰り返し、爆豪に勝つ方法を模索する。
火子の個性、念力は、このような勝負で先制攻撃を行うことに長けている。なぜなら、ほぼノータイムで発動できるからだ。理想的なのは、スタートの掛け声がかかった瞬間、火子が爆豪を念力で掴み外へ放り出すことだが、果たして爆豪が本当にそんな容易くやられるだろうか。絶えず不安は次々と出てきて、そうしているうちについに火子の試合の時間が来てしまった。
『個性を上手く使って予選ではそれなりの順位のできるギャル!ヒーロー科、柳火子!!』
プレゼントマイクが大々的に爆豪と火子を紹介する。火子は肩をすぼめながら入場していった。
「いや〜爆豪も相手運があんまだなー」
1Aの客席で瀬呂が話し出す。上鳴もその言葉に賛同した。
「女の子連続相手だもんな。あの顔で女の子攻撃したらだいぶヤバいやつに見えちゃう。俺火子ちゃんに勝って欲しい。」
火子と爆豪が構える。どれだけ先に動けるかが勝負だ。二人は辺りの音が聞こえなくなるほど集中する。火子がこく、と唾を飲み込んだ、そのとき。プレゼントマイクの声が響き渡った。
『スタート!!!!』
火子の念力の手が爆豪に触れる、その瞬間。
ドォォォォン!!!!!
とてつもない爆音と爆風が、会場中に広がった。ほぼ最大火力の爆破。恐らく火子に手を離させるため。火子も爆発に怯み、爆豪から手を離してしまう。
「しまっ」
「ッハッハァ!!」
焦った時には遅く、背後から爆豪が飛んできて連続で爆破する。
「ゔっ!」
腕で顔を覆って後ずさり、何とか距離をとる。急いで構え、再び爆豪を掴もうとすると、爆豪は火子にとてつもないスピードで近づき、至近距離で再び爆破した。悲鳴を上げ火子は倒れる。
(速い、速い、速い、速すぎる!間に合わない!)
(とにかく速く、速く。ギャル女が個性を発動する隙を作るな!)
火子は再び立ち上がる。爆豪も直ぐに攻撃を開始する。火子は走る。走って、走って逃げる。
爆豪は、ただひたすらに爆破を続ける。絶えることなく。
(こいつの個性…前女達で話してる時聞いた、念力。ノータイムで発動でき、距離を詰める必要も無い。その辺では鳥頭よりも速ぇ!ぜってえ個性使う思考をさせる時間を作っちゃならねえ!アイツの“手”で捕まえられたら、俺はその手に触れねぇ!速く、速く!このまま、押し切る!)
普段よりも速く、多く動いた爆豪は、この短時間で汗をかきどんどん威力が増していく。火子が食らうダメージもどんどん増えていく。
「な、なぁ、麗日ん時よりもヤバくね?」
「柳が近づくんじゃなくて爆豪が近づいて一方的にやってる…」
爆豪によるあまりの猛攻に、A組でも不安の声が広がる。
『柳の個性を発動させないためとはいえ、なんか可哀想になってきたぜ……』
実況のプレゼントマイクも心配の声をあげていた。
どん、どん、と爆破の音が響き続ける。爆豪は火子を場外へ追い出そうとするが、火子がギリギリ爆破を受けても飛び出ない位置に逃げるため、なかなか決着がつかない。
「ちょこまかと……逃げ回るなァ!!」
爆豪がやや強めの爆破を火子に向かって放つ。
「ゔああっ!!」
モロに食らい、火子は悲鳴を上げて後ろへ吹っ飛ぶ。場外を示すラインギリギリに火子は倒れた。辺りに黒煙が舞い、火子の視界が奪われる。爆豪は、黒煙の先の恐らく火子がいるであろう場所に、さらに爆破を放つため突っ込んでいく。
『爆豪、強めの一発!!黒煙でなんも見えねぇ!どうなった!?』
プレゼントマイクがそう言った時、黒煙が晴れた。
『え』
「は?」
「…え?」
「えええええええええええ!?」
マイク、爆豪、火子が困惑の声を放ち、会場中に驚きの声や悲鳴が響き渡る。
火子はジャージが破け、上半身の下着が露になっていた。
「カメラ!切って!」
ミッドナイトがテレビ局のカメラに向かって叫ぶ。
「爆豪ぉぉ!!いいぞ!!下半身もぉぉぉ!!!!」
「お前は黙ってろ!!!」
雄叫びを上げる峰田をA組全員が総攻撃する。
火子は真っ赤になって自らを抱きしめた。爆豪は困惑が混じったなんともいえない表情をしたあと、何故かキレて火子に近づいてきた。
「オイ!」
「なんでアンタがキレてんの!?」
突然怒鳴られた火子は思わずツッコむ。
「オラ、コレ!」
彼はキレた表情のまま、自身のジャージを脱ぎ、火子にすっぽりと被せた。火子が小柄で体格差があるため、それなりにぶかぶかである。爆豪はタンクトップ1枚になり、火子から離れていく。
「え、ちょこれなに」
「黙って着とれや。……悪かったよ」
小さな声で爆豪が呟く。火子はそんな彼に目を見開く。
「爆豪くんって……謝れたんや…」
「っるっせえ早く試合再開すっぞ!」
『ええ〜ハプニングがあったが試合再開!もっかい行くぞ〜。スタート!』
火子は爆豪のジャージをしっかりと着て、試合開始時の位置に戻る。プレゼントマイクの声により試合が再開した。早速爆豪の猛攻撃が始まる。火子はもうボロボロの体で逃げ続ける。
「爆豪!!もっかいだ!!もっかいジャージを焼けえぇぇ!!!」
「だからお前は黙ってろ!!!」
1Aでは再び峰田の声が響く。先程と今の峰田の発言はちゃんと火子に届いていた。
(峰田くん、後でマジで絞める。)
どんどん、火子の動きが鈍くなる。爆豪は火子が気を失うまで油断はできない。ひたすら爆音が響き続ける。
「さっさと……死ね!!!!」
再び、強い爆破が放たれた。
「っ!」
火子は悲鳴も上げられず、倒れる。しかし、爆豪は攻撃を続ける。意識があるかないか分からないからだ。爆破しながら火子に近づくと、火子が起き上がる。
「チッ」
ふらついている火子に容赦なく爆破を浴びせる。また火子が倒れる。そして起き上がる。それに爆豪が爆破を放つ。また倒れる。起き上がる。
「なあ、むごくなってきたぞ。」
「いくらなんでもひどいんじゃ…」
「あの女の子も個性一回も使ってないし…」
「どーなってんだ、この試合!」
観客から小さくブーイングが起こる。先程爆豪対麗日の試合でも似通ったブーイングが起きたが、相澤によってヒーローが叱られていて、それを恐れているためか規模は小さい。
『絵面が大分地獄だか、柳の個性発動を防ぐために爆豪も攻撃を止められねぇ…』
爆豪を庇うようにプレゼントマイクが実況を入れる。
「こ、怖いよ」
「麗日戦より見てらんない……」
1Aからも恐怖の声があがる。
爆破する。倒れる。起き上がる。爆破する。倒れる。起き上がる。何度これを繰り返しただろうか。
(クソックソッなんで立ち上がる!?こいつ体力ある訳じゃねェだろ!!)
再び火子が倒れる。爆豪はまた起き上がると予想し、構える。ゆっくりと火子が立ち上がって、爆豪を見る。その顔は、にたりと笑っていた。
(立て。殴られても、蹴られても、どれだけ傷つけられても。立っていれば、私は生きていられる。)












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!